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精神科病院における新型コロナウイルス感染症対策
<2020年3月28日現在>

一般社団法人 精神科領域の感染制御を考える会(iCAP)
代表理事 山内 勇人先生
理事 糠信 憲明先生

はじめに

 新型コロナウイルス感染症(coronavirus infectious disease:COVID-19)・(Severe acute respiratory syndrome (SARS)coronavirus- 2:SARS-CoV-2,SARSコロナウイルス-2・Coronavirus)1)は世界的な拡大を見せており、2020年3月11日にWHOがパンデミックを宣言するに至った2)
 我が国におけるCOVID-19の発生状況にはかなりの地域差があり、今後も各地域で罹患患者の発生および増加、停滞、減少、再増加などを繰り返しながら、状況によっては“オーバーシュート”に至る2)ことも含め、かなり長期間にわたるウイルスとの戦いが予想される。また、100余年前のスペイン風邪の経験3)から、第2波、第3波への備えや対応も求められるであろう。
 その一方で、我々はかつて2009年の新型インフルエンザA(H1N1)によるパンデミック(pdm2009)4) を経験し乗り越えてきた。pdm2009がそうであったように、新型コロナウイルスにおいても、このウイルスと“共存”していく覚悟が求められると捉えている。

 2009年のパンデミックとの大きな相違点として、インフルエンザウイルスとコロナウイルスというウイルス特性の違いから症状、治療、対策まで幅広い。
 インフルエンザウイルスは主な感染経路が飛沫感染であること、接触感染も起こりうるが環境表面でのウイルスの生存時間は数時間単位であること、温度・湿度管理が有効で冬季に流行のピークが来ること、そして何よりもオセルタミビルなどの治療薬が存在4, 5)したことが挙げられる。その一方で、COVID-19では標準予防策と飛沫感染対策を強化するだけでは不十分であり、接触感染対策の強化が必要1)であること、また治療薬が存在せず重症化するか否かは罹患した宿主の免疫力に依存し、死亡率は地域の医療体制が維持できているかどうかに左右される2)
 本邦と同じ先進国であるイタリアやスペインでの今回のCOVID-19による健康被害からわかることは、地域で感染がオーバーシュートすると医療体制が崩壊すれば死亡率が上昇するということである。2020年3月28日現在、イタリアでの死亡率は全体で10.8%であるが、医療崩壊が起きている大都市ミラノを含む北部ロンバルディア州では15.1%に対して、それ以外の地域では7.7%となっている。つまり、オーバーシュートにより地域医療が崩壊すれば、重症化し肺炎を来すハイリスク者はほぼ死亡する計算になる6)。そして、この割合は高齢化により上昇することも分かって来ている1,2)
 一方で、2009年の新型インフルエンザのパンデミックに比べて有利な点もある。1点は感染対策に不可欠なサージカルマスクは不足しているものの、2009年当時に比べると医療機関にも、地域にも、国にも存在するということである。2009年当時、サージカルマスクはコンビニやドラッグストアのみならず、調剤薬局にも置かれてなかったのを思い出して欲しい7)。従って、長期化するウイルスとの戦いの中で、限られてはいても今あるマスク等をどのように有効利用していくかが求められる。

 そして何よりも、10余年を経て我々の感染対策のレベルは格段に向上している。一般的な情報や感染対策は、厚生労働省や諸機関からすでに様々なものが出されているためそれらを参照されたく割愛する。ここでは、COVID-19に対して、1年近く(ワクチンができるまで)対策を継続する必要性を想定し、精神科病院として取り組める実践的な内容で考察したい。

フェーズ別感染対策のススメ

 流行の地域格差や長期化することを考えると、地域内流行や院内での発生状況に応じて予め計画しておいた感染対策を適切かつ迅速に行うことで、更なる蔓延を防ぎ、強弱をつけた継続性のある「フェーズ別(段階的)対策」8)が有効である。フェーズ別対策は精神科病院でその力を発揮し、一般科や被災地避難所などでの感染対策に発信して来た歴史がある。
 インフルエンザや感染性胃腸炎に対するフェーズを導入している施設では、既存のフェーズを基本とし、院内発生までの期間のフェーズをより細かく設定すること、そして院内発生時の対策の強化を行う必要がある。フェーズ案を別に示す。

感染対策の実際

1. 基本的考え方

 通常冬季に行っているインフルエンザに対する「飛沫感染対策」に、感染性胃腸炎に対する「接触感染対策」を合わせて行うという考え方がわかりやすい。
 前項で述べたフェーズ別感染対策の中で、地域内流行に応じて標準予防策を段階的に強化し、院内発生状況に応じて感染経路別対策としての接触感染対策、飛沫感染対策の強化を行っていく。

2. 環境整備、器具等の清拭について

 自施設のある医療圏内で流行していない状況では、通常の清掃をきちんと行うことで十分と考える。院内発生に備えて、使い捨ての清掃クロスは温存しておき、以前、精神科病院などでもよく行われていたように、小さな布巾を用いて清拭し、使用したものは次亜塩素酸ナトリウム(液体塩素系漂白剤など)や熱湯で消毒し、洗濯・乾燥・再使用を行う方法を再開するのも方策の一つかもしれない。
 ただし、この際に重要なことは、布巾での清掃により病原微生物の汚染を広げないように、患者ごと、病室ごとに「こまめに交換すること」が必須となる。また、汚染の少ない場所から多い場所へと清掃の順番を考えることも欠かせない。
 また、聴診器、体温計、血圧計など複数の患者で共用する器具を介した交差感染予防のため、病棟内発生時のフェーズにおいては、アルコール等での清拭が必要である。また、携帯やタブレット、パソコンのキーボードの清拭もマニュアルに加える必要がある。ただし。これら電子機器については性質上、消毒が難しい場合もあるため、タブレットや電子カルテの端末・キーボードに触れる前後には手指衛生を行うことが肝要である。
 院内発生時のフェーズにおいては、0.02%次亜塩素酸ナトリウム(液体塩素系漂白剤など)を用いての環境整備が望ましい。アルコールや塩素系除菌洗浄剤などが豊富にある場合でも、長期化することを念頭に安易には用いず、病棟発生時に患者の部屋の清掃などに優先的に用いるのが賢明であろう。

3. PPEについて

(1)マスクについて

 以前、医療現場でのマスク着用は限られた場面のみであったが、2009年のパンデミックを経験し、マスク着用が普及したことは良いことであるが、一方で不必要な場面でのマスク着用も多く見られるため、今一度、サージカルマスク着用のタイミングを再検討する必要がある。
 サージカルマスク(医療用マスク)として品質保証されたマスクは、在数に限りがあることから、極力使用を避け、有症者の咳エチケットとしての着用と、その患者をケアする場合に限定して用いるようにした方が良い(品質保証はないものの、中にフィルターを備えた不織布の3層構造のマスクも同じ扱いで良いかと考えるが、2009年時には質の悪いマスクが蔓延したことから今後は注意を要する)。
 通常、感染予防としてのマスク着用は必要ないと考えるが、鼻や口を触ることによる接触感染を予防する点においては、再使用が可能な布マスクの着用には意味があると考える(場合によっては、作業療法で個々の布マスクを作成するのも一案であろう)。ただし、院内で罹患者が発生している「フェーズ」においては、紙マスクで良いので使い捨てマスクの使用、もしくは布マスクの上にそれを被せて使用することを想定している。

(2)手袋について

 医療用のフィットタイプの手袋だけでは不足する可能性があり、清掃時などに用いる使い捨てのビニール手袋の備蓄も勧めたい。

(3)ガウン、キャップ、ファイスシールドについて

 医療用ガウンの在庫が少ない場合、罹患者への対応には、薄手のビニールレインコートが代替できる(フードを用いるとキャップの代替可)。
 キャップは毛染めなどに用いるヘアキャップ、フェイスシールドは透明のクリアファイルにカチューシャを貼りつけて作成できる。

(4)消毒薬について

 次亜塩素酸ナトリウム(液体塩素系漂白剤など)は十分量を備えておきたい。なお、次亜塩素酸の名称に似た「次亜塩素水」や「スーパー次亜水」「次亜塩素酸水」などは消毒効果が認められたものではないことから、各医療機関における使用については推奨しない(「無いよりはまし」という程度の認識で導入するのであれば処し方ないところもあるが、薬機法において認められた消毒効果と、食品衛生法で用いられる殺菌・抗菌・消毒などは全く定義が異なることに留意されたい。)

4. 換気について

 新型コロナウイルスは麻疹や結核のように空気感染することはないが、インフルエンザと同様に、罹患者が咳き込んだ際に発生する“エアロゾル”は換気しないとそこに数時間あまり漂う1)。そのために換気が必要であるが、精神科病院では施設構造上、窓の開閉に制限があるのが難点である。クラスター発生を予防するためにも、外来およびデイケア、作業療法室や食堂、ホールなど、人が密集する空間では、十分に換気を行うことが重要である。病棟内で罹患者が発生した場合には病棟の窓を全開にし、厚着で過ごす覚悟が必要かもしれない。したがって、衣類も寝具もまだしばらくは厚手のものを準備しておいて欲しい。

5. 入院施設へのウイルス持ち込み防止対策

 ワクチンや治療薬がなく、高齢者では死亡率が高いことを考慮すれば、いかにウイルスの持ち込みを防ぐかが最も重要な感染対策となる。
 冬季のインフルエンザ対策などで既に実施しているように、医療圏内での流行が始まっている場合には、面会・外出・他科受診等を可能な限り制限するとともに、入院を含め3日以内は感染症の発生に特に注意することが必要である。
 また、罹患者の年齢による健康被害の特徴として、若年既往のない若者の健康被害が少ないことはインフルエンザと同じであるが、新型コロナウイルス感染症では小児の発症者や重症者が少なく、発症しても24時間以内に解熱する傾向にあることが大きな相違点である。このことは、育児を抱えている病院スタッフにとっては安心できる点である。
 しかし一方で、今後、学校の再開に伴い季節性インフルエンザがそうであるように、子どもを介した地域内流行や職員への感染が問題となってくるであろう。したがって、地域流行を制御する上で、学校教育現場での感染対策の必要性に加え、子育て世代の職員を介した病院内への感染症の持ち込み予防に力を入れるべきである。家族が罹患した場合の就業停止期間および就業再開の基準をきちんと設けるべきである。潜伏期を考慮すると、少なくとも1週間(可能なら2週間)、他の家族が発症した場合にはさらにそこから追加することが望ましい。病棟運営への支障が懸念されるが、ワクチンや治療薬がない現状においては、欠勤者が多い状態での事業継続計画(Business Continuity Plan:BCP)の設定が必要と考える。

6. 罹患者の管理・対応について

 罹患者の地域発生や流行が単発や少数のクラスター発生の場合には、現在の指定感染症病床ならびに協力医療機関で対応可能であるが、“オーバーシュート”までに至らなくても地域で流行が始まり地域の中核病院で院内感染が起きた場合など、精神科病院においても、少なくとも院内発生患者においては自施設での対応が求められることになるだろう。
 そのため感染者数が増加している都道府県では、実際に自院でCOVID-19患者への治療やケアを行うことになった場合のフェーズ対応も、想定しておくことが求められる。
 具体的には病棟を超えた感染を防ぐこと、複数人数発生した場合を想定し、コホート隔離する部屋の設営準備が必要である。医療法的には問題はあるが、緊急避難的対応として、病室以外の食堂やホール等、比較的換気ができ流水手洗いができるスペースを用いたコホート隔離も現実的には必要となるであろう。これらも各施設の現状に合わせたフェーズに盛り込んでおくことが望ましい。
 また、罹患者に対応する職員としては、高齢であったり持病があったりする職員は避けること、既に罹患歴のある職員が優先的に当たることが望ましい。また、病床運営を考慮した場合、できる限り限定した職員が対応することが望ましい。

COVID-19 精神科病院フェーズ案(*パンデミック以降は自施設のフェーズを強化して対応)

出典:一般社団法人精神科領域の感染制御を考える会(iCAP)代表理事 山内勇人先生作成

<引用文献>

掲載している情報は、2020年3月28日時点のものです。
【掲載】2020年04月17日