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児童虐待(マルトリートメント)と精神科医療関係者とのかかわりについて
−虐待の脳科学から視えてきたこと−

福井大学 子どものこころの発達研究センター
友田 明美先生

はじめに

 児童虐待のニュースが連日のように流れ、こころを痛めている人も多いことでしょう。虐待は極端な例で、自分たちには関係ないと思っている親御さんが多いと思います。確かに暴力などの見えやすい虐待はレアなケースでしょう。
 しかし、言うことを聞かない子どもに、厳しく接したり、思わず軽く手が出ることもあるかもしれません。『子どもの目の前で夫婦喧嘩をする』をはじめ、『強めに叱りつける』、『忙しくて話をあまり聞かない』などの、虐待とは思えないような行為も、実は子どもの脳を損なう恐れがあるのです。
 マルトリートメントが、子どもの脳を物理的に傷つけ、さまざまな精神的症状を誘発することがわかってきました。たとえば、些細に見える夫婦喧嘩も、場合によっては子どもの脳を深く傷つけるのです。この問題を長年研究してきた私は虐待の脳科学から視えてきたことをお伝えしたいと思います。

マルトリートメントとは?虐待との関係(違い、共通点)は?

 マルトリートメントとは『避けるべき困った子育て』を指します。1980年代からアメリカなどで広まった表現で、日本語で「不適切な養育」と訳され、子どものこころと身体の健全な成長・発達を妨げる養育をすべて含んだ呼称とされています。「マルトリートメント」は長いので、最近は「マルトリ」と私は呼んでいます。子どもを怒鳴ったり、たたいたり、つい感情にまかせて親(養育者)の気分で子への態度を変える、というのが良くないのです。
 マルトリートメントは虐待とほぼ同義ですが、大人の側に加害の意図があるか否かにかかわらず、また、子どもに目立った傷や精神疾患が見られなくても、行為そのものが不適切であれば、それは「マルトリートメント」と言えます。世界保健機関(World Health Organization: WHO)によるChild Maltreatmentの定義は、身体、精神、性虐待そしてネグレクトを含む児童虐待をより広く捉えた、虐待とは言い切れない大人から子どもへの発達を阻害する行為全般を含めた不適切な養育を意味します。
 たとえば、ニュースで報道される「児童虐待」は、ひどい暴行や性的虐待などが伴った極端なケースであることが多いでしょう。しかし、マルトリートメントには、しつけと称して脅したり、暴言をぶつけるといった心理的・精神的な虐待も含まれます。つまり、報道されるような極端なケースでは無くても、日常生活の場面において起こりうるものなのです。多くの子どもと関わる大人が、自分は児童虐待と無関係だと思って見過ごし、日常的に不適切な接し方で子どもを傷つけてしまっている可能性もあるのです。
 最近は、スマートフォンやタブレットを子どもにあてがったり、授乳中にもSNSやYouTube動画を見たりする親もいます。スマホやタブレットが悪いのではありませんが、親と子の貴重なコミュニケーションの時間がなくなってしまうのは良くありません。子どもがお昼寝中とか、保育園にいる時や子育て支援を頼んだ時に使うなど、子どもとの貴重な時間はちゃんと作ってほしいと思います。
 また、しつけのためにたたく、体罰を加えることが日本で容認されているからこそ、それがエスカレートし、子どもの命を奪ってしまうケースが後を絶ちません。
 幼い子どもにとっては、親は外界から自分を守ってくれる存在であり、すべてです。そんな親から虐待までいかなくても、強く叱られたり、たたかれたり、マルトリートメントを受けると、心理的に傷つきます。そして脳も、萎縮や肥大など部分的に変化するのです。
 それではなぜ「虐待」と言わず、「マルトリートメント」と言うべきでしょうか。
「あなた虐待していますよね」と言うと、親は絶対にこころを開きません。一方で、マルトリは子育て困難な家庭からのSOSとして捉えることができます。SOSを拾うことで、その家庭の子どもと向き合ったり、親の話を聞いてあげたりして、その情報をいろいろな機関につなぐことができるようになります。

マルトリートメントを受けた子どもの脳はどのような影響を受けるか

 マルトリートメントのひとつである身体的虐待ではあざなどが残ります。しかし、脳が傷ついてもすぐにはわかりません。具体的に、脳のどの部分が傷つくでしょうか。
 私はこれまで、外見からはわかりづらい「こころの傷」を可視化するために、さまざまなマルトリートメントを受けた人の脳の画像をMRI(磁気共鳴画像化装置)を使って、調べてきました。その結果、厳格な体罰や暴言虐待を受けたり、両親間の家庭内暴力(DV)を目撃したりすることで、視覚野や聴覚野といった脳の部位に「傷」がつくということがわかってきました(図1)。
 たとえば、両親から暴言マルトリートメントを受けてきた子どもの場合、言語にかかわる聴覚野が肥大します。また、両親間のDVを目撃した時には、視覚を司る視覚野が萎縮します。しかも『身体的DVの目撃…夫婦間の暴力』よりも、『怒声や暴言目撃…激しい言い争い』のほうが、子どもの脳にダメージを与えます。性的マルトリートメントを受けた時にも、視覚を司る視覚野が萎縮します。親から鞭(ムチ)や杖、ベルトなど道具を使って厳格な体罰を受け続けると感情や犯罪抑制力にかかわる前頭前野の一部が萎縮することもわかってきました。マルトリートメントが発達段階にある子どもの脳に大きなストレスを与え、実際に変形させていることが明らかになったのです。これは脳が傷つくことから「自分を守ろう」とする防衛反応だと考えられています。

(図1)

出典:福井大学 子どものこころの発達研究センター 友田明美

 この傷がずっと残るから、虐待を受けた子どもは大人になっても辛い思いをするのです。これまでは、生来的な要因で起こると思われていた子どもの学習意欲の低下や引きこもり、成人期以降に発症する精神疾患も、この脳の傷が原因で起こる可能性があることがわかりました。大人が日々、何気なくかけている言葉やとっている行動が子どもにとって過度なストレスとなり、知らず知らずのうちに、こころや脳までも傷つけてしまっていることがあるのです。

マルトリートメントを受けたことで表れる精神的な症状

 では、脳のダメージによってどのような精神的な症状が現れるでしょうか。PTSD(心的外傷後ストレス障害)、うつ病、不安障害、摂食・睡眠障害、認知行動発達の遅れなどです。自殺企図・念慮の可能性もあります。ただ、こうした症状が出るかどうかは大きく個人差があります。同じように親からマルトリートメントを受けた人がすべて上記の症状や障害を発症するとは限りません。こころの回復力はその後の生育環境などでも変わります。こうした症状は年齢を経て出てくる場合もあります。
 たとえば、集団生活の中で多動や乱暴などの行動が目立つ子どもの中には、背景にマルトリートメントが原因となっているケースがあります。その他にもマルトリートメントに気づくきっかけとなる症状や病気として以下が挙げられます。
 実際に、親から暴言を浴びせられるなどのマルトリートメントの経験を持つ子どもは、過度の不安感や情緒障害、うつ、引きこもりといった症状・問題を引き起こす場合があります。なぜなら、過酷な体験がトラウマ(こころの傷)となるからです。人は、あまりにも過酷で耐えがたい体験をしたとき、その体験記憶を『瞬間冷凍』し、感覚を麻痺させることで自分の身を守ります。しかし、その体験は新鮮な状態で丸ごと保存され、類似した音や視覚などの刺激で何度も、何年後でも『解凍』されることがあるのです。
 うまくトラウマの治療がなされないと、人生の大半において、傷が刺激され、冷凍した記憶がよみがえる生活を強いられることもあります。最悪なことに、トラウマは成長したあとにこころの病気やDV行為、アルコールや薬物依存などの形で現れることもあります。
 また、脳が最も発育する幼少期に、不適切な関わりのせいでアタッチメント(愛着)が形成されない場合、特に精神面において問題を抱えてしまうことがあります。具体的には、うつなどのこころの病として出現したり、幼少期に問題がないようでも成人してから健全な人間関係が結べない、達成感を感じにくい、意欲が湧かないなどのさまざまな問題が表れたりします。マルトリートメントは、たとえ死に至らなくても深刻な影響・後遺症を子どもに残し、過酷な人生を背負わせることになります。マルトリートメントの日常化は「支配─被支配」といった誤った関係性を家庭内に生みます。このような環境のなかで暴力の恐怖におびえながら成長した子どもは、他人に対して不適切な接し方を身につけてしまう可能性があります。

どんな親がマルトリートメントをしやすいか

 全国の児童相談所の虐待対応件数の統計から、49%が母親、39%が父親からのマルトリートメントで、主な養育者が母親であることが覗われます(平成30年度 厚生労働省)。
 実際に、マルトリートメントはどのご家庭にも存在することでしょう。時代とともに、子どもとの距離感には変化が生じ、多くの親御さんが接し方や子育てに迷いを抱えている実態もうかがえます。だからこそ、皆さんに繰り返し、以下の事を強調したいのです。
 マルトリートメントが頻度や強度を増したとき、子どもの脳は部位によって萎縮したり、肥大したりするなど、物理的に損傷します。その結果、学習意欲の低下や非行、こころの病に結びつく危険性があります。
 もちろん、軽微なマルトリートメントでは、そのようなことは起きませんが、一度傷を負った脳を、もとに戻すことは容易ではないのも事実です。この事を知っているか知らないかでは、子どもに対する言動に大きな差が生じるはずです。
 とりわけ、注意しなければならないのは、養育者である親と子どもの力関係は対等ではないということです。『強者』である大人が、『弱者』である子どもを怒鳴りつけ、体罰を与えるという行為は、わたしたち大人が想像するより強い衝撃を与えます。
 子どもをしつけたり叱咤激励する方法は、ほかにもあることでしょう。一昔前には、封建的な親が怒鳴ったり叩いたりして従順にさせるということがあったかもしれません。しかし、本来『しつけ』とは、子どもに恐怖を与えることではなく、正しく導くことが目的でなければなりません。親が体罰を日常的に与え続けると、子どもの言動を抑え込むことはできますが、子どもは善悪の判断や社会規範を学ぶことにはなりません。むしろ、腹が立ったら暴力で怒りを表現しても良いと学んでしまいかねないからです。

傷ついた脳の回復へのアプローチ

 では、一度傷ついた脳は、もう修復できないのでしょうか。また、振り返ってみれば子どもにマルトリートメントをしていたと思い至った場合、どうすればよいでしょうか。
 最近の脳研究では、脳の可塑性が実証されてきています。前述したようなマルトリートメントを受けた子どもでも、早い段階で安心できる環境に移り、専門的なこころの傷の治療やケアを受けられれば、脳の傷は回復していきます。子どもの脳は発達途上であり、可塑性という柔らかさを持っており、早いうちに手を打てば回復することがわかっています。そのため、そのような子どもは、専門家による適切な心理治療などを慎重に時間をかけて行うことで、こころのケアで、傷ついた脳は癒やされるのです。つまり、損傷しても回復する可能性が大きいのです。大人でもそうですが、より柔軟な子どもの脳は、傷つきやすいといえる反面、回復力も高いと言えます。

マルトリートメントを予防するために、親が注意すべきこと

 それではマルトリートメントをしないために、親が注意すべきことは何でしょうか。
愛の鞭(ムチ)のつもりの行動が、いつの間にかマルトリートメントへとエスカレートしていくことの危険性を知り、子どもの気持ちに寄り添いながら育児をする必要があります。ポイントとして次の4つがあげられています。

  • ① 子どもの脳に及ぼす影響を理解し、体罰・暴言による子育てはしない、
  • ② 大人と子どもは対等な力関係ではないという前提にたつこと、
  • ③ 親は、爆発寸前のイライラをクールダウンすること、
  • ④ 親は子どもの気持ちと行動を分けて考え、成長を応援すること

 親にとって、子育てと仕事・家事の両立は想像以上に大変です。だから私が強く言うのは「とも育て(共同子育て)」です。これは、子どもたちを実の親だけでなく、社会が育てていくという視点で、みんなが子育て支援をしながら見守っていくことです。核家族化と「孤育て」が進んだいま、もう一回、とも育てをやっていくのが大事ではないでしょうか。
 一度傷ついた脳も、愛情を持って適切な養育をし、触れ合いなどを繰り返せば、十分に回復する余地があります。そのためにも子どものみならず親の「褒め育て」が必要です。

精神科医療関係者がマルトリートメントに気付いたとき、どのようにすればよいか(通報、親へのアドバイス、子どものケアなど)

 もしマルトリートメントを受けた子どもと遭遇した時には、速やかに専門的な児童福祉・母子保健・医療機関と相談してください。親へのアドバイスは前述の通りです。
 子どものケアで重要な視点は、子どもの脳は発達途上であり、可塑性という柔らかさを持っているということです。早いうちに手を打てば回復するでしょう。そのためには、専門家による心理的な治療やこころのケアを、慎重に時間をかけて行っていく必要があります。
 とくに安心・安全な環境、心理教育(子ども自身に起きていることの理解)、過去の体験と感情を安全な場で表現する、そして健康に生きるためのライフスキルを習得することが重要です。主な治療としては、後述するトラウマ処理や愛着形成のための「心理療法」「プレイセラピー」などです。内的世界を表現することによる自己治癒力の活性化や必要に応じた薬物療法などの有用性も示唆されています。
 トラウマに気付き、そのこころの傷を回復するような専門的な治療だけでなく、子どもに合った学習の個別的なサポートや愛着の再形成が大事です。
ただ簡単に「治る」というと誤解を招くと思います。患者は一例一例違いますから、会って話を聞いて、どこがこじれているのかを探らないといけません。そのうちに親が笑顔になったり、子どもが元気に登校していると学校から聞いたりして、「治り得る」と思えるようになります。主治医に会ったから急に良くなるという訳ではなく、時間をかけて心理士や看護師などの精神科医療関係者が丁寧に心理面接をして元気になっていくというケースの方が多いです。まるで根雪が解けるように。
 前述したように、デリケートで感受性豊かな子どもの脳は、幼少期に厳格な体罰や暴言などを受けることで変形し、発達の遅れや記憶力低下につながってしまうことが私たちの調査研究から分かってきています。
 親は誰しも完璧ではないからこそ、マルトリートメントをしてしまうことがあります。その影響を親が知り、繰り返さないことが必要です。
 また、マルトリートメントをしてしまう親は、親自身もこころのケアが必要な場合があります。親自身が、幼少期に過度なマルトリートメントを受けてきた可能性があるからです。たたかれたり大声で怒鳴られたりして育ったから、我が子に同じことをしてしまいます。そういったこころに傷を抱える親御さんにも、しっかりとケアが必要です。「マルトリートメント低減には養育者支援が良い」というのはこの点から来ています。

トラウマ(こころの傷)の処理

 幼いころに受けたトラウマは、そのまま放置しておくと、子どもの発達と並行して重症化していきます。特にトラウマ体験が複合的に存在すると、こころの疾患も重篤なものへと進行し、先に述べたような疾患が現れやすくなります。
成長期にある子どもの脳は、適切な治療を行えば、傷の回復が見込める場合も多いにありますが、それでもトラウマが複雑化している場合、治療には長い時間がかかります。代表的な治療法の特徴を記します。

  • 持続エクスポージャー療法(長時間曝露療法)
    恐怖や不安の原因となる刺激や状況に段階的にあえてさらすことで、不安反応を消していきます。
  • 認知処理療法
    自分に対する否定的な見方に気付き、理解し、整理することで、トラウマからの回復を妨げる認知を修正していきます。
  • EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)
    左右水平方向の眼球運動を用いて、トラウマ記憶が適応的記憶になるように情報処理を促していきます。
  • TS(トラウマティック・ストレス)プロトコール手動処理/簡易型トラウマ処理
    杉山登志郎氏が開発したもので、左右交互刺激と呼吸法を組み合わせた手法によって、トラウマの内部圧力を軽減させていきます。
  • ホログラフィー・トーク
    嶺輝子氏が開発したもので、軽い催眠状態で自分の内なる声に耳を傾け、自分の感情や身体症状の意味、問題の起源、解決法を見出していきます。
  • 自我状態療法
    催眠またはイメージ誘導下で自我状態にアクセスし、パーソナリティーの内的システムを適応的な分化の方向へ導くことで、主訴や問題行動を解消していきます。
  • TFT(Thought Field Therapy/思考場療法)
    トラウマ記憶に伴う不快感に意識を向けながら体の特定部位(つぼ)をたたくことで、心理的問題を軽快させていく。副作用がなく、セルフケアでも使えることが大きな特徴です。

養育者支援の重要性:「マルトリートメント」や「とも育て」の認知度が広まることにより、どのような効果が期待できるか

 「マルトリートメント」という言葉の認知度はまだまだだと思います。そのため、H31年1月から大阪府枚方市、豊中市などと協働で、「適切な養育のあり方や親と子のかかわり方」を子育て家庭や地域市民に広げていくためのRISTEX1)社会実装事業「マルトリートメント予防モデル構築」を始めました。マルトリートメントが子どもの脳の発達に悪影響を与えることを啓発するための取り組みです。大阪だけでなく、できれば全国に広げていきたいと思っています。
 今後の社会で、子育てにおいて必要なあり方だと提案したいのが「とも育て(共同子育て)」です。子どもが健全に育つためには、親自身が健全であることが大前提です。しかし、現在はさまざまな理由から育児困難に悩む親たちが多いのが実情です。こうした親を支えることも必要です。日本には江戸時代まで地域全体で子育てをしてきた歴史があります。社会全体で子どもを育てる、という考え方がもっと浸透していってほしいと願います。
 現在、貧困家庭やシングルマザーなどの片親家庭など、子育てが困難な家庭も数多くあります。だからこそ祖父母はもちろん、学校の教師、医療機関、福祉施設の専門家がタッグを組み、共同で子どもを育てるという視点が求められます。
 それには親の意識改革が重要です。社会も同様です。シングルで子育てをする家庭は、負担も大きいです。そこで私たちに何ができるのかを考えていただきたいと思います。どんな環境にあっても、子どもは幸せに生きていく権利がありますから。

多職種連携による「とも育て」を

 人間の子どもは生きていくために、大人の「養育」を必要とします。その養育には愛情とぬくもりが必須だということは言わずもがなです。しかし、実際には身近な大人と愛着(絆)が結べないまま成長していく子どもたちが非常に多く存在します。子どもを健全に育てるためには、親が健全であることが求められます。わたしたちは、母子保健・児童福祉・精神保健機関と連携をしながら、子どもだけでなく親をサポートしていく施策や仕組みづくりにも力を入れていきたいと考えています。
 一方で少子化・核家族化が進む社会では親も苦しんでいます。育児困難に悩む親たちは容易に支援を受けることができず、ますます深みにはまっていきます。「虐待の連鎖」が言われて久しいですが、被虐待児たちの3分の2は自らが親になっても虐待しないという事実にも目を向けてほしいと思います。
 繰り返しますが現代社会には、育児困難に悩む親たちを社会で支える「とも育て」が必要です。養育者である親を社会で支える体制は、いまだぜい弱なのが現実です。虐待を減少させていくには、多職種が連携することで家庭、学校、地域を結びつけ、子どものみならず親たちとも信頼関係を築きながら、根気強く対応していくことから始めなければなりません。
 今回、小児期のマルトリートメント経験と「傷つく脳」との関連性をご紹介しましたが、これらのエビデンスに関する理解がもっと深まれば、子どもに対しての接し方は変わっていくはずです。そのことが、子どもたちにとって未来ある社会を築くことにつながればと期待しています。「将来を担う子どもたちを社会全体で育て守る」という認識が、広く深く浸透することを願ってやみません。

1)RISTEX:「Research Institute of Science and Technology for Society」社会技術研究開発センター

<参考文献>

  • 1)友田明美. 新版いやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳.
    診断と治療社; p1-168, 2012.
  • 2)友田明美. 子どもの脳を傷つける親たち.
    NHK出版, p1-221, 2017.
  • 3)友田明美, 藤澤玲子. 虐待が脳を変える—脳科学者からのメッセージ.
    新曜社, p1-180, 2018.
  • 4)友田明美. 親の脳を癒やせば子どもの脳は変わる.
    NHK出版, p1-202, 2019.
  • 5)友田明美. 脳を傷つけない子育て. 河出書房新社, p1-158, 2019
  • 6)友田明美. 実は危ない!その育児が子どもの脳を変形させる. PHP研究所, p1-159, 2019
掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。
【掲載】2020年04月17日