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原点に立ち戻って考える精神科医療からみた地域包括ケア

医療・病院管理研究協会理事/第57回日本医療・病院管理学会学術総会長/労働者健康安全機構本部研究ディレクター
伊藤 弘人先生

はじめに

 2014年の診療報酬改定で「地域包括診療料」と再診料の「地域包括診療加算」が新設されたことを契機に、地域包括ケアの考え方の紹介を、精神科医療関係者にお伝えしたいという思いでまとめたことを記憶している。この加算の算定は期待ほどには増えなかったものの、同時に新設された「地域包括ケア病棟」は急増し、5年を経た今日、地域包括ケア病棟は医療政策の柱ともいえる揺るぎのない位置に成長している。
 その背景には、2010年代に入り進められてきた医療・介護一体制度改革がある。「病院完結型」の医療から「地域完結型」の医療・介護への方向性を示した「社会保障制度改革国民会議報告書」(2013)に基づき、「医療および介護の確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律(医療介護総合確保推進法)」(2014)が成立、この法律によって地域包括ケアシステムの構築が明文化された。診療報酬改定を含む近年の制度改正において、「地域包括ケア」はキーワードであり、2018年度の複数の制度の同時改定(医療計画・介護保険計画・障害福祉計画・診療報酬)においても多用されている。2014年の診療報酬改定は、まさにこの動向を先取りしたものであった。

地域包括ケアと精神障害者

 ここで、まず厚生労働省が示す「地域包括ケアシステム」の定義を確認する。厚生労働省は、地域包括ケアを:

 「重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される」システム[1]

としている。
 地域包括ケアと精神障害者は重なり合う場合が少なくない。地域で生活する精神障害者は多く、地域包括ケアシステムで支援を受けている場合も少なくない。障害者白書(平成30年版)によると、精神障害者数は3,924000人で、人口千人当たり31人と推計されている。要介護高齢者への支援をする過程で、家族関係を把握していくと、未受療の精神疾患をかかえる家族員に遭遇する場面もあり、認知症を加えると高齢者医療・介護において精神・行動障害はきわめて身近な領域である。さらに、入院医療・外来医療・在宅ケアと、継続した治療・ケアが求められることなど、両者に共通する領域は少なくない。

原点に立ち戻って考える精神科医療からみた地域包括ケア

 そこで本論では、精神科医療からみた地域包括ケアについて、必要となる要素や目標について整理した結果を紹介する。これは、公益社団法人医療・病院管理研究協会(理事長:北川定謙)が実施した研究成果に基づく[2]。医療・病院管理研究協会(http://byoken.com/index.html)は、1949年にわが国最初の病院管理に関する専門機関である「病院管理研究所」(改組・組織統合:1964年「病院管理研究所」、1990年「国立医療病院管理研究所」、2002年「国立保健医療科学院」)での研修受講生の集まりにそのルーツを持つ。病院管理に関する調査研究・研修や情報提供機関として1972年に「病院管理研究協会」が発足し、1975年に「社団法人病院管理研究協会」となり、2013年に現在の「公益社団法人医療・病院管理研究協会」としての認定を受け現在に至っている。医療を包括的にとらえ、病院を中心として、保健、福祉の分野に至るまで、相談・指導・助言のサービスを提供しており、その一環で本研究を実施することになった。
 ここでは医療・病院管理研究協会の報告書の概要を紹介する。本研究では、精神科医療と地域包括ケアに関する有識者へのヒアリングを行い、そのインタビュー内容から、精神科医療と地域包括ケアとの共通要素、また精神科医療に特徴的な要素についての抽出を行った。インタビューを実施した有識者は、医療法人川室記念病院 川室優 理事長、および社会医療法人北斗会 さわ病院 澤温 理事長である。両有識者による精神科医療と地域包括ケアに関する講演の後、少人数で意見交換を行った。その内容をベースに、精神保健医療福祉施策の動向を把握した後、(1)基本的考え方、(2)必要な要素、(3)結果・達成事項、(4)注意点、そして(5)政策的示唆について整理した。

基本的考え方

 澤理事長は、1987年の精神保健法改正の前後から国は精神科病院から社会復帰施設へそして入院治療から地域ケアへという方針に伴い、精神障害者を、「精神科患者」という視点から、一人の生活者であるという視点へ考え方を変える方針の転換があったことを述べた。澤理事長の精神障害者に対する次のまなざしは、長い臨床経験から発せられるものであった。すなわち、精神障害者は:

  • たまたま精神疾患を持ち
  • 疾患の特徴から時に揺れ
  • 病気という認識がなかなか得られないため治療が中断しやすく
  • 時に疾患が障害を残し生活上のさまざまなつまずきをもつ

一人の生活者としてとらえていた。そして澤理事長は、地域包括ケアと共通するコンセプトを示していた。すなわち、地域精神保健・医療・福祉の考え方として:

「地域は病院だ、家庭は病床だ、町中開放病棟だ」
(第3回外来精神医療学会 発表資料、2003)

とする内容である。また、「精神科病院はもともと病院内包括ケアだった」と述べ、精神科は歴史的に、患者を病院で人生丸抱え・生活丸抱えしてきたこと、これからは地域全体で丸抱えするという方向性になることを示していた。また精神科病院では昔からチーム医療が行われており、このチームが病院外で活動をしたら地域包括ケアになると述べている。
 地域包括ケアが必要な理由は「安上がりでない」、すなわち精神科医療制度改革は医療費削減のために行うべきではないと明言していたことは印象的であった。地域包括ケアが必要なのは、病院の丸抱えのシステムでは精神障害者の能力を失わせることであることが明らかとなったからであること、さらに重要なのは「丸抱えで」精神障害者の能力を失わせるリスクは「地域包括ケア」にも同様に存在することを指摘していた。

必要な機能:さわ病院

 地域生活に必要な要素を、澤理事長は表1にまとめている。すなわち、住まう場、活動する場とプログラム、サポートする人々とその連携、そして地域の理解と受容である。

表1.精神障害者が地域生活を送るための4つの要素

機能 具体例
住まう場 社会復帰施設、グループホーム、アパートなど
活動する場とプログラム デイ・ケア、ナイト・ケア、デイ・ナイト・ケア、グループワーク、作業所、授産施設、福祉工場、一般就労
サポートする人々とその連携 専門家、ボランティア
地域の理解と受容 自然なふれ合いの中でできる(小さなトラブルは役立つが、大きなトラブルは後退させる)

澤温.社会復帰施設と福祉.日精協誌 14: 1086-1092, 1995.

 加えて、在宅の精神障害者に対する訪問型のアウトリーチの必要性を述べていた。欧米では精神科病院の閉鎖にともない、地域で医療を必要とする人に医療サービスを確実に提供する方法としてアウトリーチサービスの重要性が増している。精神障害者は、地域で生活することによって、治療中断により再燃し、入院が必要となる可能性が増すので、特に重要である。治療の継続が必要な精神障害者が自ら医療にアクセスしなければ、主治医の方針として医療側から治療中断リスクのある精神障害者にアクセスするのは当然であることを、澤理事長は長年指摘してきた(澤温ら、日精協誌 23,2004)。この観点からすれば、往診も訪問診療も訪問看護も他の訪問サービスもAssertive community treatment(ACT)も、アウトリーチという考えの延長でしかない。海外では、精神病床を減らして通院強制治療が必要になり、Community treatment order (CTO: 通院処遇)、Assisted outpatient treatment (AOT)、Compulsory community treatment (CCT)などの制度を創設した国もある。

「在宅の精神障害者に対する訪問型のアウトリーチが必要である」

と澤理事長は述べていた。現在、診療報酬で認められているアウトリーチサービスの要素には、往診/訪問診療/訪問看護/訪問リハビリテーション/訪問薬剤指導/訪問栄養指導がある。退院前訪問看護という病院への「逆」アウトリーチも重要なツールである。加えて、ACTの考えをベースに診療報酬化された「精神科在宅患者支援管理料」(以前の精神科重症患者早期集中支援管理料)がある。保健所は従来から訪問指導が業務にあったが、手が回らないために、入院が必要な精神障害者への対応を病院に任せる場合がある。ACTは多職種がチームになってアウトリーチサービスを提供するが、上記のサービスを組み合わせればほぼ同じことができると考えていた。ただし、日本では入院病床が十分ある上、訪問の報酬も低く、時には訪問時トラブルもあり、医師一人あたりの受け持ち入院患者が多く、手が回らない状態であるとの認識を示した。

必要な機能:川室記念病院および関連法人の変化

 川室理事長は、長年の地域医療福祉領域での経験から、精神科医療の観点から地域包括ケアで必要な要素を、図1にまとめた。医療サービスに加えて、福祉サービスと高齢者介護サービスを組み合わせているところに特徴がある。

図1.地域に求められる必要とされるサービスとは

 川室理事長は、精神障害者の社会復帰活動を進めてきた経過を説明し、当初は病院からの取り組みであったが、1991年に社会福祉法人(上越つくしの里医療福祉協会)を設立し、その後はこの社会福祉法人を核として、社会復帰活動を展開していた。資料の内容を簡略化したのが表2である。すでに1960~70年代から、日中に作業する場と、住まう場(共同住居)を独自に提供していた。

表2.川室記念病院の社会復帰活動の歴史的経過

1963年(昭和38年) 農村地域の特性を生す(農耕作業):農繁期に周辺農家の作業を手伝う院外作業療法を実施(地域の偏見除去)。
1965年(昭和40年) 市内大手事業所(SBガーリック等)の協力でリハビリ開始。日中は、事業所での作業、夜間は病院で過ごすナイトホスピタルに取り組む
1976年(昭和51年) 共同住居つくし寮を開設し、当院の共同住居活動開始
1981年(昭和56年) 共同住居つくし荘(病院から4Km、歩いても20分、車で7~8分)にハーフウェイハウス(中間住居)機能の地域居住ケアプログラム確立
1983年(昭和58年) 上越つくし共同作業所開設。
1986年(昭和61年) 同 作業所の運営を上越市精障者家族会移管。
1991年(平成3年) 上越つくしの里医療福祉協会法人設立
1997年(平成9年) 糸魚川市での地域精神保健医療福祉への参画(市の施設運営受託)

 1991年に上越つくしの里医療福祉協会法人を設立すると、この取り組みは加速化した。加えて、同じ二次医療圏であり隣接する糸魚川市での地域精神保健医療福祉を、市の施設での運営を受託する「公設民営」の取り組みが1997年から始まったことは特筆に値する。
 以上の活動は、障害者自立支援法で類型化され、2006年からは既存の施設やプログラムは、障害者自立支援法の枠組みに移行することになった。これらのプログラムは(1)地域生活支援・相談事業、(2)グループホームなどの住まいの場、および(3)就労支援事業に類型化できる。
 また、地域での作業を行う上では、地域の特性や時代の変化を反映すると、川室理事長は指摘していた。近年は、稲作など、地域の特性を生かした作業を、高齢化した地域で生活している患者と進めており、これは1970年代に回帰しているともいえるかもしれない。

精神科医療における地域包括ケアの目標

(1)安定した地域生活を過ごすために

 澤理事長の所属する病院が関係する全国規模の調査で、1年以上のデイケア利用者群(200人)のうち、入院相当であるにもかかわらず、入院外で1年以上過ごせている者19人の理由の詳細分析の結果は次の通りであった。「訪問看護での服薬管理」(4人)、「居住施設で管理(服薬)」(4人)、「家族が管理(特に金銭管理)」(4人)、「デイケアで管理(服薬)」(4人)、「その他」(3人)である。服薬管理と金銭管理への支援が充実していれば、重度の精神障害者でも、地域生活ができる可能性がある。
澤理事長は、以前から「地域生活」の可能性の程度を測定する簡便でわかりやすい尺度開発を行ってきた。その尺度の頭文字は「しやかいふつき」であり、表3の通りである。この尺度は、すでに標準化された尺度得点との関連も強く、妥当性の高い尺度として全国で用いられている。

表3.生活障害評価尺度:しやかいふつき

しゃかい的行動(非社会的行動と反社会的行動)
やりくり(経済管理)
かつどう(生活リズム管理)
いんしょく(栄養管理)
ふくやく(治療管理)
つきあい(対人関係)
きれいさ(保清:掃除、洗濯、入浴)

澤温,日精協誌,25:269-278, 2006
澤温、井上英治、藤本圭子、他.病院・地域精神医学 42: 255-258, 1999

 なお、長期在院患者等の退院後の高齢者用配食サービスプログラム「フロイデッセン」の効果は、重要な内容を示唆していた。このプログラムで、精神障害者は、さわ病院が提供している在宅高齢への配食サービスの配送を担う。澤理事長は、このプログラムの効果として、(1)仕事の提供、(2)高齢者のための働くという自尊心の醸成、(3)高齢者への見守り機能、そして(4)働く姿を見ての住民の精神障害への認識の変化がみられるとしている。
一方、川室理事長は、地域力の大切さを指摘し、その効果を利用者の観点から、図2にまとめている。川室記念病院では、認知症を有する患者とひまわり栽培や米づくりを行っており、作る喜びや恵みの喜びなど、治療を超えた効果について指摘していた。

図2.川室記念病院に関わったことから学んだこと

(2)サービス提供者に求められる目標

 澤理事長は、地域包括ケアと共通する観点として、次を強調していた。

  • 365日、24時間の生活者である。すなわち
  • 365日、24時間の福祉的対応が必要である
  • それがあればより重い人々の地域生活が可能である
  • いつでも対応してくれる医療がある限り頑張ってみるという地域の福祉スタッフはこころづよい存在である
  • しかし実際は、そこまではほとんどのところで継続しては行えていない
  • この生活者に応えるサポートが地域になければ地域サポートと言わないでほしい

澤理事長は、互いの得意分野でサポートし、負担をシェアすることが大切と考えている。しかし、福祉サイドが「(しんどい)夜は病院さん、貴方に頼む」というシステムを作ったとしても、それは不十分である。この観点は病院と福祉との関係だけでなく、病院と診療所の住み分けでも同様であると述べていた。精神障害者への支援は個別性が高いため、必要な時に常に医療と福祉の両面でサポートしていく姿勢が重要であるとのことであった。

おわりに

本報告では、精神科医療と地域包括ケアに関する2名の有識者へのヒアリングを通じ、精神科医療と地域包括ケアとに関する要素や目標について整理を試みた。川室記念病院の所在する新潟県上越市は、人口約19万人(高齢化率約30%)で農業も盛んな非都市部地域であり、さわ病院の所在する大阪府豊中市は人口約40万人(高齢化率約24%)の大都市圏にある地域である。所在する地域の特徴は異なり、またあるべき精神科医療の実現のために進めてきたアプローチは異なるものの、基本的な考え方や必要な機能、そして目標について、両有識者の間での共通性を認識するとともに、現在の地域包括ケアにつながる方向性を示唆していた。
「地域は病院だ、家庭は病床だ、町中開放病棟だ」とする澤理事長の考えは、澤理事長がヒアリング時に示した「在宅医療を推進して、地域を病院に」とする柏市医師会の資料だけでなく、慢性期医療から地域包括ケアを進めた天本宏医師の「地域を病棟としてとらえ、病院・施設内のサービスを地域に展開していく」とする考え方と共通する。住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるとする「地域包括ケア」の考え方の、精神科医療の立場から表現であることを示している。
地域における精神保健医療福祉介護に必要な機能として、澤理事長は、住まう場、活動する場とプログラム、サポートする人々とその連携、地域の理解と受容を挙げていた。川室理事長のインタビューからは、地域生活支援・相談事業、グループホームなどの住まいの場、および就労支援事業に類型化できると考えられた。精神科医療において特徴的な機能として、地域住民への精神障害と精神障害者への理解を、両有識者が指摘していた。精神障害者のための地域包括ケアを進める上では、精神障害への偏見を打破する取り組みを、並行して行うことが求められることを示唆していた。
目標は、地域包括ケアと同じく、重度でも住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けることができるように支援することであると考えられた。精神障害者はその疾患の特徴ゆえに時に揺れ、治療が中断しやすく、障害により生活上の多様なつまずきを持つ。この特性に柔軟に対応できるような在宅ケアや通院・入院医療が一体となって提供できることが求められることを、両有識者のインタビュー結果は示していた。
病状ゆえに日常生活が不安定になっても、本人から助けを求めない場合は少なくない。当事者主体の地域ケアの名のもとに、このような状態の本人をだれも助けない状況は、専門家として「見捨てる」ことにつながる。澤理事長の「今はやりの地域包括ケアは注目に値するが、中途半端は悲惨」との指摘の背景には、このような問題意識があることを、インタビューの結果は示唆していた。高齢化が進む現代における救急医療の過剰利用の背景とも共通する問題と考えることができ、精神科医療のみならず、今後の保健医療福祉介護が注意しなくてはならないテーマを示していた。

<参考文献>
厚生労働省.地域包括ケアシステム.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/
伊藤弘人.精神科医療からみた地域包括ケア.医療病院管理研究協会研究報告書、2019(印刷中).

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。
【掲載】2019年08月09日