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ヒヤリハット・事故報告事例に関わるコミュニケーションエラーの実態と対策

 

Ⅲ.コミュニケーションエラーの抑止対策として

 コミュニケーションエラーとは狭義のヒューマンエラーである。人間である以上、エラーの発生を完全に抑えることは不可能であると言える。殊にコミュニケーション行動の動機付けを低下させる要因の中には、改善することが難しいものが存在するが、それらを無理に改善する必要はない。いずれかの要素が低くても、他の要素で補えればコミュニケーション行動は行われるため、できるところから改善を行えば良い。
 院内アンケートの結果で情報伝達阻害得点が一番高かったのは「地位の共有」だが、適切な権威勾配自体は、組織内の明瞭な命令系統を維持するために必要な要因である。改善するのは難しい要素でもあるが、権威勾配がきつすぎて率直な確認・質問などのコミュニケーションが阻害されることのないよう、チームの風通しを良くする努力は必要である。
 次点の「知識の共有」に関しては、多様な職種に関して全ての知識を得る事は限界があるため、決定的な改善策を定めることは難しい。改善対象として重視するべきは、アンケートの自由記述回答で一番指摘の多かった「情報の共有」の他、「意識の共有」「認知的コスト」「主観的確信」などの要因である。
 なかでも、「情報の共有」はチーム医療の原則ともいえる要素であり、明示的なコミュニケーションを行わなくても、情報を共有できる基盤を作ることは重要である。当院では、カンファレンスの見直し・チームナーシング制の導入などにより「情報の共有」、「意識の共有」の面などで改善が見られており、これらは有効な手段の一つと言える。特に、チームナーシング制を実施している病棟は「意識の共有」「知識の共有」「情報の共有」という三要因の阻害得点が割合に低く、他病棟に比べてそれらの共有ができているという結果が見られた。
 また、電子カルテやグループウェアの導入により、全職員に対して情報共有を図るためのツールと環境とを提供しており、「認知的コスト」「情報の共有」などの要因は導入する前より飛躍的に改善されてきている。このような点からも、有意な環境整備によって共有を高め、「社会的コスト」や「認知的コスト」を抑えられるということが言える。(表6)
 その他、各部署における積極的なカンファレンス・ミーティングの実施、リスクマネジメント会議の実施、院内研修の実施などにより、「主観的確信」を抑え、「意識の共有」「知識の共有」を高めるための環境づくりを強化している。

情報伝達を阻害する要因と当院における改善策 表

 一方で今後の課題となっているのが、いかに誤伝達を抑制するかである。その際に重要なのが、誤解を招かず必要な情報を簡潔に満たす伝達方法の形式を定めることであり、その指針としては、航空業界にて提唱される「コミュニケーションの留意点」が非常に有効である。
 「シフト引き継ぎ」、「伝達文書」などにそれぞれコミュニケーションの留意点が定められており、特にその中心となるのが、伝達文書における「4C」の原則―Clear(明確)・Correct(正確)・Complete(完結)・Concise(簡潔)である(米国連邦航空局・MRMガイドより)。文書だけに限らず、これらは全ての情報伝達に共通する重要な要素となる。

● わかりやすい文章で伝える。:相手が理解できる用語。なじみ深い言葉。平易な文章。
● 正確に表現する。:適切な表現。曖昧ではない。明瞭な言葉。
● 完全なメッセージを伝える。:必要な情報をすべて含める。情報過多ではない。
● 要点をまとめる。:短く簡単な文章。簡潔である。不要語を避ける。箇条書きなど。

 上記を踏まえた伝達様式を定めるとともに、伝えるタイミング、相手の言葉に対する復唱・明瞭な返事、積極的傾聴、相手の話を遮らない、詰問的ではない口調、先入観を持たない、など円滑なコミュニケーションに必要な行動指標について、院内研修の実施などにより、職員全体への浸透を図っていく予定である。特に事務部門では、少しの手間を惜しんで不確実な伝達手段を取ったために、「誤伝達」の発生と「情報共有」の不備とが多く発生しており、「認知的コスト」の低い、より確実な伝達手段の確立は急務と言える。

Ⅳおわりに

 全般的に、情報伝達を阻害する要因の対策として言えるのは、個人がおのおの注意するだけではなく、基本的には組織全体で環境を変えていく必要があるということである。
 コミュニケーションエラーが発生した際に、個人の不注意とするだけで片づけてしまわないこと。個人の責任のみに帰属させるのではなく、チーム・組織全体でエラーマネジメントを行うこと。そうした安全対策の理念を浸透させることが肝要である。チーム・組織の雰囲気や風土が改革されれば、そこに属する一人一人の意識・行動が変化し、更なるチーム・組織の変革へと循環されていく。個人と組織の相互に変革を促し、更にエラーやミスに耐性のある組織へと進化すること。それが、コミュニケーションエラー、ひいてはヒューマンエラー対策の目標とするところなのである。
 当院は、未だそれら環境整備の道程なかばである。より質の高いチーム医療を行えるよう、今後もコミュニケーションを含むエラー全般の対策に力を入れていきたい。

引用・参考文献

明日徹(2004) : 情報伝達を阻害する心理的要因について
    ‐理学療法士と医師・看護師との情報伝達において‐
松尾太加志(2002) : コミュニケーションの心理学
松尾太加志(2007) : 医療安全とコミュニケーション
日本航空ジャパン(2004) : 安全情報‐CRM資料