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第5回"姫軍団"の指揮をとったDさん

支援者たちとの再会

 しばらくして、大阪府下に数か所ある婦人相談所の職員研修係から保健所の私に講師の依頼があったとき、"姫"の顔が浮かんで来ました。仕事に出ているDさんは、その頃には保健所にほとんど現れなくなっていました。もはや、日常生活の管理や支援を必要としなくなっていたのです。

 私は、Dさんのことをテーマに研修会の講師をお引き受けしました。Dさんは大阪府下のほとんどの婦人相談所を巡っていますから、職員間では有名人に違いありません。Dさんについて紹介しながら、精神保健福祉の話をさせて頂こうと思いました。Dさんの名誉回復のための絶好の機会だと思いました。

 このことをDさんに提案しますと、無表情のまま頷いてくれました。何ら感情を表さないことが私には気がかりでした。私は「いちばん長くお世話になった○○相談所に、ごあいさつに行きませんか。今の元気なDさんを見たら、先生方も喜ぶでしょう。」と続けました。Dさんは、またしても少し緊張の表情を見せながら頷いたのです。Dさんにすれば、過去の自分を知っている人たち、不都合な行為に対処して頂くには、叱責もあったでしょうし、それよりも先生方の気持ちを理解する余裕もなく、怒りをぶつけていた自分のことを思い出すのが嫌だったのではないでしょうか。Dさんが黙って頷く以上の反応を示さなかったことを幸いに、私は無理なお願いを了承してもらったことにしました。

 2人で出かける日、いつもズボンだったDさんが、小ざっぱりしたTシャツにミニスカート姿で、髪もきれいにして立派なレディになって現れました。道中、私はすっかり感心していました。私と歩いているDさんは、以前とはすっかり違っていました。働く人の自信と落ち着き、Dさん本来の優しさや人への思いやりが伝わってくるのです。声のトーンまでが静かなので、やはりDさんは緊張しているのだと思いました。

 目指す相談所に到着して職員さんたちの出迎えを受けたDさんは、「これ。」と手土産を渡しましたが、Dさんを見た途端に目を丸くされていた職員さんたちに、Dさんはあくまで静かに黙っていました。

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。

【掲載】2003年09月05日