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SDSS-J、SAI-Jを用いた薬剤業務の有用性

Ⅳ.SAI-J 、SDSS-Jを用いた薬剤業務の有用性

 これまでの報告と今回のパイロットスタディの結果から、DAI-10とDIEPSSの評価にSAI-J 、SDSS-Jの評価を加えることで、それぞれの評価結果以上の様々な関連が明らかになり、適切な薬物療法の実施のための多くの患者情報が得られる可能性があります。
 統合失調症の薬物療法では、抗精神病薬の単剤・低用量化、抗パーキンソン薬や抗不安薬・睡眠薬の併用低減などが重要といわれています。統合失調症の適切な薬物療法におけるドパミンD2受容体の占拠率は65%から80%であり、抗精神病薬投与量はクロルプロマジン換算で600mg/日以下といわれています(Farde, L., Wiesel, F.A., Halldin, C. et al. : Central D2-dopamine receptor occupancy in schizophrenic patients treated with antipsychotic drugs. Arch. Gen. Psychiatry, 45 : 71-76, 1988.)。
 抗パーキンソン薬の併用は、抗コリン作用による自律神経系・中枢神経系に対する影響があり、できる限り併用は避ける必要があります(吉尾 隆:精神科薬物治療とアドヒアランス−統合失調症患者のアドヒアランス向上に向けての薬剤師の役割−.臨床精神薬理, 11 : 1683-1690, 2008.)。また、抗精神病薬治療を受けており,半減期の長い(24時間以上)ベンゾジアゼピン系薬剤を併用している場合、自然死リスクが高かったとの報告があります(BAANDRUP, L., GASSE, C., JENSEN, V. D., et al. Antipsychotic Polypharmacy and Risk of Death from Natural Causes in Patients with Schizophrenia: A Population-Based Nested Case-Control Study. J CLIN PSYCHIATRY, 71, 103-108, 2010)。
 抗精神病薬による多剤併用処方は、抗精神病薬の総投与量を増加させ、抗パーキンソン病薬の投与剤数・投与量を増加させ、服薬の忍容性を低下させる可能性が高いことが示唆されたことから、統合失調症における薬物療法では多剤併用を避け、できるだけ単剤での処方が望ましいと考えられます(吉尾 隆,中谷真樹、佐藤康一他:精神科における処方調査−桜ヶ丘記念病院における非定型抗精神病薬の処方実態と統合失調症(精神分裂病)患者に対する影響−.病院・地域精神医学,46 : 240-242,2003.)。さらに多剤併用大量処方を改善することは、服薬アドヒアランスを向上させることで服薬の継続を可能にし、統合失調症患者の再発を予防するための重要な要素となります(吉尾 隆:新薬(非定型抗精神病薬)への切り替え方−共同作業で行う多剤併用大量療法からの処方変更−、精神看護, 3 : 58-63, 2003.)。
 多剤併用大量処方をDAI-10、DIEPSS、SAI-J、 SDSS-Jの評価を行いながら適正化するための手順(図3:統合失調症患者における薬物療法の適正化手順)を示します。

図3 統合失調症における薬物療法の適正化手順

 先ず初めにDAI-10、SAI-J 、SDSS-Jによる評価を行いながら、抗精神病薬の低用量化を図ります。低用量化が進展したら同様に評価結果に留意しながら抗精神病薬の単剤化を図ります。また低用量化が進展すれば、DIEPSSの評価結果に注意しながら抗パーキンソン薬や抗不安薬・睡眠薬の減量・中止を行います。この際の低用量化の目標は600mg/日(クロルプロマジン換算)とし、抗パーキンソン薬を0.4mg/2週から0.7mg/2週(ビペリデン換算)の速度で減量し、可能であれば中止します(吉尾隆,稲田俊也,宇都宮守他:入院中の統合失調症患者における薬物療法の最適化のための抗パーキンソン薬の減量方法に関する検討.臨床精神薬理,15:217-225,2012.)。単剤・低用量化ができれば、可能な範囲で第2世代(非定型)抗精神病薬へのスイッチングを行うことで、飲み心地の良い、服薬の継続が可能な薬物療法になります(吉尾 隆,中谷真樹,佐藤康一他:精神科における処方調査−桜ヶ丘記念病院における非定型抗精神病薬の処方実態と統合失調症(精神分裂病)患者に対する影響−.病院・地域精神医学,46 : 240-242,2003.)。スイッチングに際しては、患者の病識とアドヒアランスとの関係をSAI-JとDAI-10により評価しながら、錐体外路症状の変化をDIEPSSによって評価し、適切な薬物療法を構築し、最終的な患者の主観的な症状の改善をSDSS-Jによって評価していきます。
 妄想があり気分障害を伴う統合失調症の症例(40代・男性)で、これらの評価表を用いて評価を行いました。評価時の処方はクロルプロマジン換算量3,000mg/日、ジアゼパム換算量1.2mg/日、炭酸リチウム400mg/日となっていました。
 本症例の臨床像は、自身が統合失調症であり、薬物療法が必要なことを十分理解しており、アドヒアランスも良好でしたが、自覚的な重症度と客観的な重症度とに若干の乖離が見られました。しかし、錐体外路症状、特に流涎の重症度が高く、動作緩慢、筋強剛、振戦も見られ、流涎の改善を強く望んでいました。
 本症例ではSAI-J合計点15/20、SDSS-J合計点13/76、DAI-10総和+4、DIEPSS1-8合計点7(概括重症度:4)でした。これらの評価から病識は良好であり、主観的な症状の重症度は低く、アドヒアランスは良好であるが錐体外路症状の重症度が高いと判断され、臨床像ともほぼ一致します。したがって、本薬物療法を適正化するためには、先ず抗精神病薬を減量し、流涎の軽減を行います。

Ⅴ.さいごに

 薬剤師が患者の精神症状を正確に評価することは難しいと考えますが、SAI-J、 SDSS-Jといった評価尺度を使用し、その評価結果を医療者間で共有することで、多くの患者情報を得ることができます。薬物療法の適正化を行うために、薬剤師も是非、積極的にこれらの精神症状評価尺度を使用していくべきであると考えます。今後、著者の所属する日本精神科評価研究会においても薬剤師向けの講習会を企画・実施していく予定ですので、その際には、是非、ご参加ください。

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。

【掲載】2013年03月22日