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看護師ら医療専門職の採用や離職防止に貢献する病院内保育所〜院内保育の現状と課題、財政支援の新機軸「地域型保育給付」とは?


子育て支援新制度での新しい財政支援の仕組み

 病院内保育所の財政支援についても触れたい。従来、看護職員確保対策事業の一環として設置に係る費用としては「病院内保育所施設整備事業」、運営に係る費用としては前述の「病院内保育所運営事業」という2種類の補助事業が存在した。実施主体は何れも各都道府県の看護行政担当部署だったが、2014年度以降、この2つの事業は廃止。2014年4月からスタートし、消費税財源を活用した「地域医療介護総合確保基金」事業へと移行し集約化されることになった。同基金事業の対象となる@地域医療構想の達成に向けた医療機関の施設または設備の整備に関する事業A居宅等における医療の提供に関する事業B介護施設等の整備に関する事業C医療従事者の確保に関する事業D介護従事者の確保に関する事業――のCに該当する。「各都道府県の実状に応じた形で病院内保育所の運営・施設整備に対する補助を実施」と規定されている。廃止された前出2つの補助事業では、病院内保育所の新築・増改築の費用、運営費等に適用するには、基準面積や補助人数、対象経費、補助率等の厳格な補助基準が存在したが、同基金事業に移行してからは各都道府県の裁量に任され、弾力的に運用される。補助基準についても一律の基準ではなく地域の実状に応じた設定が可能であり、待機児童の増加が深刻化する自治体等では、保育所の開設等へ優先的に基金が活用される可能性が高い。既に幾つかの県では、同基金を活用して院内保育所を開設する動きが現れ始めている。
 現政権も「一億総活躍社会」を掲げ、子育て支援をアッピールするが、箱物整備ばかりが先行し、常態化する保育士不足に対する実効性のある施策には乏しい。そんな政府による“子育て施策"の目玉として、「全ての子育て家庭を支援する」との理念の下に、2015年、4月に「子ども・子育て支援新制度」がスタートした。
 同新制度で新設された病院内保育所事業支援として、各市町村の管轄になる「事業所内保育事業」を紹介したい。当該事業は「従業員の子どもの他に地域において保育を必要とする子どもを受け入れる事業所内保育施設について、市町村における認可事業(地域型保育事業)として、児童福祉法に位置づけた上で、地域型保育給付の対象にすると規定されている。同事業は事業所の従業員の子どもが利用する「従業員枠」の他に、市町村が地域の他の子どもも利用する「地域枠」を設定し、創設された「地域型保育給付費」として、市町村から利用する子どもの数に応じた安定した財政支援が行われる(図表9)。

図表9 子ども・子育て支援新制度における事業所内保育事業の概要
図表9 子ども・子育て支援新制度における事業所内保育事業の概要

 当該病院職員の児童だけが対象になる従来型の病院内保育とは性質の異なるものだが、財政支援は各都道府県による従来の補助金事業よりも遥かに大きい。また病院職員の児童だけでなく、地域児童を受け入れる点で責任は重いが、医療機関の社会貢献・地域貢献にも繋がり、地域密着型病院としての評価を高めることにもなる。
 原則、「0歳〜2歳児」までの児童が対象だが、「従業員枠」の子どもについては、柔軟な運用が可能で、その場合は「特例地域型保育給付」が支給される。保育所の利用者確保が困難な中小民間病院や有床診療所等でも、一定の「地域枠」の利用者を確保出来れば「事業所内保育事業」は可能なので、中小民間病院向きの仕組みとも言えよう。
 2015年10月には京都市の認可事業として、民間医療機関による「事業所内保育施設」の第一号がオープンした。病院内保育所設置を検討されている医療機関には、ぜひ活用して欲しい制度だと思う。
 それでは最後にケーススタディとして、2つの民間病院の運営する保育所を紹介する。

(事例1・直営型)職員の働き方に合わせ多様な利用法を選択可能

 地方都市にある(医)A病院(162床)は育児休業法が創設された1995年に、院内保育所を開設した。労働省(当時)による助成金を活用して造られた事業所の第一号として、当時の新聞に取り上げられたこともある。現在では珍しくなった直営型(正確には医療法人と社会福祉法人の共同経営)で、最初は職員寮の中に設置されていたが、数年前に病院の隣接地に移転。児童公園を併設し、施設・設備の充実した現在の保育園へと生まれ変わった。保育士は常勤6人、非常勤5人で、手厚いマンパワーにより現在は、通常保育、休日保育、夜間保育、病児・病後保育まで、必要とされる保育サービスを全て実施している。同院は小児科を標榜しておらず、小児科医は不在だが外来に専任看護師がおり、同院の感染対策委員会と連携し、チーム医療で病児・病後保育に対応する。
中小規模の病院でなぜ、これだけの保育ニーズがあるのかに関しては、少し説明を必要とする。要するに同院は同じグループの社会福祉法人と緊密な連携により運営されている。具体的には社会福祉法人は病院の近隣に特別養護老人ホーム4施設、軽費老人ホーム(ケアハウス)2施設、1介護老人保健施設を運営し、この他、デイサービス、ショートステイ、ホームヘルプ・サービスまで医療と福祉、介護まで一体的に提供する体制を整備。グループ全体の職員数は650人を超える。
保育所は、同院だけでなく、社会福祉法人の各事業所に勤務する看護職員、介護職員、事務職員等も対象にしており、0〜3歳児に限定せず、小学校就学前の子どもまでの受け入れが可能なので、保育需要は引きを切らない。以前は派遣職員の児童も受け入れていたのだが、入園希望者が多いので現在は正職員のみの利用に限定している。
看護師、介護職員等の勤務体制は多様であり、職員が夜勤の時だけ、或いは日曜・祝日だけの活用等、個々の職員の働き方によって、利用の仕方を選択出来る。夜勤の時だけの利用や、街場の保育園が休みになる土日・祝日だけの利用等もニーズは高い。勤務体制や家族の実状に応じた利用がし易いように、保育料は月ぎめではなく、1日800円、病児・病後保育は1日1000円と一律。全職種同一料金で、職種によっての差は付けない。
正月3が日だけ休園となるが、それ以外は年中無休体制で稼働する。保育士さん達の“頑張り"には頭が下がるが、これが本来、必要とされる病院内保育所のあり方だろう。
「新規採用で応募して来られた看護師さんの中には、面接後、保育園の見学を希望される方が多数、おられます。中途採用の多い当院では、就学前児童の24時間保育、病児・病後保育をマンツーマンで行える保育所を運営しているのは、看護師のリクルートや離職防止に向けての大きな“強み"になっていると感じます。」(看護課長談)

(事例2・派遣契約型)「7対1」創設を契機に24時間保育体制を導入

 都市部に在る(医)B会が24時間保育を実施するようになったのは、「7対1」看護入院基本料の制度が創設された2006年頃から。かなり前から病院内保育所は設置していたが、「7対1」導入を契機に全国各地の病院で「看護職員争奪戦」のような動きが加速したため、本格的に労働環境の改善や福利厚生の充実へと取り組むようになった。
B病院の近隣にグループ全職員が利用できる総合福利厚生施設を開設したのも、ちょうど、その頃。同法人グループでは同じ市内に本院のB病院(156床)を中心に複数の病院や介護老人保健施設、クリニック等を運営しているが、院内保育所はその全ての職員の児童が対象。グループの高度先進医療を担うB病院は、200名を超える看護職員が在籍し、全病棟で「7対1」看護を取得している。
0〜6歳児を対象にした院内保育園は定員40人。病院内施設を利用してはいるが、運営は外部の保育サービス企業に委託し、保育士はその時のニーズに応じて適正なスタッフが派遣される。そのため保育士の確保や労務管理の苦労はない。
病児保育・お迎え保育を実施する他、24時間保育体制で看護師が夜勤当直する場合は無料。利用料も看護師は低めに設定されているが、不公平感を生まないように数年前の就業規則改定時に、きちんとルールとして明記した。
この他、以前から3歳未満児のいる看護師に柔軟な働き方を選択出来る正職員短時間勤務制度(時短制度)を導入し、現在では事務職員にも拡大・運用されている。時短制度は子どもが3歳になるまで1年おきに更新される。
加えて、同グループでは小学校3年生未満の子どものいる女医に対するサポートとして、給与とは別に毎月10万円を「保育支援手当」として支給する等、看護職以外の職種への保育支援にも力を注ぐ。

(*本稿で取り上げた2つの病院事例は、取材した2015年末時点の情報です。)

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。

【掲載】2017年04月07日