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日本の病院事務長の肖像

多様な分野から登用される民間病院事務長

 さて日本の病院事務長の出自は、まさしく多種多様です。国公立病院の場合は従来、役所から天下ってきた年配者がその任につくケースが多く、病院単体で赤字を垂れ流しても補助金繰入金で補てんされるため、経営能力は何も要求されませんでしたし、単なる“事務屋の長”という役割で大きな権限もなかったのです。ただ国立病院の独立行政法人化や自治体病院の民間委託推進によって、“のんべんだらり”とやってきた「天下り事務長」は、今や淘汰される時代を迎えつつあります。
 企業立病院の場合も本体の企業から出向するケースが多いので、ここでは日本の病院の大多数を占める民間病院に限定して考えてみたいと思います。現状では日本の民間病院の事務長で、高卒あるいは大卒後病院に入職し、長年に亘ってキャリアアップを積み、事務長の地位を得たという“生え抜き”は本当に数少ないのではないでしょうか。要するに「中途採用」で入職した事務長が、圧倒的多数を占めるという傾向が強い訳です。日本で特徴的な病院事務長の類型を、下に列挙してみます。あくまでも一般論であり、必ずしも全ての特徴に当てはまるものではないことを付け加えておきます。

1)金融機関出身者
昔は銀行や信用金庫出身者が、“経理に強い”ということを見込まれ事務長に登用される傾向がありました。病院の取引先銀行出身者が多かったものの、現在のように“病院経営冬の時代”を迎え、医療制度が多様化・複雑化すると、“数字・資金繰りに強い”というだけの事務長ではとても務まりません。ただ一方で病院に入職後、自分で医療制度や人事労務等を勉強して、“名事務長”と謳われるようになった人も数多く存在します。大手都銀出身者が唐突に事務長として入職すると、エリート意識が強すぎて、病院の他の職員と摩擦を起こすケースも見られます。
2)医療技術職からの転向組
もともと医療技術職として病院に入職し、マネジメントの資質を認められ事務長に抜擢され、転向するケースです。一番多いのが薬剤師や検査技師、最近は療養型病院等でMSW出身者が事務長になるケースも増えてきました。看護師・栄養士・理学療法士が事務長になるケースは、余り見聞きしません。医療技術職からの転向組は、医療現場を体験しているのが大きな“強み”です。
3)一般企業出身者
特に多いのが製薬メーカーのMRや、医薬品卸の営業マン出身者。医療機器メーカーや医療事務委託会社、最近ではIT企業からも登用組が増えています。業者として病院に出入りし院長や院長夫人と接触する中で、声をかけられたケースが大多数。最近では専門的能力を買われて、医療とは関係のない大手企業の総務や人事、管理職経験者等をヘッドハンティングするケースも出てきました。多くの大企業が「早期退職者優遇制度」等によりリストラを進め、キャリアのあるベテラン社員が職を求める状況があるからです。この他一般企業出身者では、自動車メーカーの営業マンや旅行代理店、広告代理店等、全く畑違いの“他業種”からやってきて、成功しているケースもあります。一方、数少ないものの、定年退職したTV局のアナウンサーや新聞記者を登用しているケースもあります。要するにマスコミ出身者の幅広い人脈に、期待している訳です。
4)理事長・院長の家族・親族
理事長・院長の兄弟・姉妹等の親族が事務長を務めるケースは、未だに多いのが現実です。親族の場合は滅多に辞めることはなく、定年を過ぎてもその地位に居座る傾向があります。その場合に人事が停滞し、優秀な事務職員のモラールが低下する場合も出てきます。あるいは院長夫人自らが事務長職に就くとか、他に事務長が存在しても役員として権力を行使する行動も多々見られます。こうした組織では事務部門が2トップ体制のような形になり、優秀な事務長や管理職は育ちにくいのではないでしょうか?
5)公務員出身者
公的病院と同様に、病院の地元にある自治体から、定年後か定年直前の年配者がやって来るケースは、民間病院でも見慣れた光景です。組織力のある大手病院グループで、厚生労働省の若手官僚を、将来の「事務長候補」として引っ張ってきた事例もありました。その場合、トップが期待したのは、厚生労働省との太いパイプづくりです。
 役人出身の事務長は、概してサービス業としての感覚に乏しく、「公務員体質」が抜け切れないということが指摘されます。お役所勤め以外にも、健保組合や社会保険事務所、商工会議所出身者からの登用組も、昔はよく見られました。最近は公務員出身であっても、「広報」や「人事労務」等、特定の分野でスペシャリストとして活躍してきた人達を、病院側も求めているように感じます。

【チェックポイント】

 日本の病院でも欧米企業のように、CEO(最高経営責任者)、COO(最高執行責任者)のような「職制が必要」との意見があり、僅かですが現実にCEO、COO的な位置づけを導入している病院も存在します。多くの専門家が主張するのは「理事長・院長はCEOとして大局的な判断を下し、事務管理者を始めとする各部門の実務責任者がCOO的な役割を担う」という、“医経分離”を前提とした考え方です。要するに日本の殆どの病院の理事長・院長は医師であるため、「医療の専門家=経営の専門家ではない」との考え方に基づいています。「非医師の病院経営を認めるべき」との議論は、こうしたコンセプトをベースに行われることが多いものの、一方では「医療の質を担保する意味においては、CEO・COOは医師でなければならない」とする考え方も、未だ医療界では根強く残っています。

【参考資料】・事務長として果たすべき最低限度の機能展開

  1. 各サービスの提供に当たり、療養担当規則等を熟知の上で、持てる資源(方針・人材と技術・資金)を効率的に駆使し、利益の確保を図る。
  2. 施設内の諸活動・行動を有機的に結合させ、成果を生むように触媒の役を果たす。
  3. 施設内外の渉外活動・施策に関する企画と演出の能力を発揮する。
  4. 施設内の財政管理・人的管理・経営管理・運営管理に関するシミュレーターになる。
  5. 対人管理ではプラス思考・動機付けの展開をさり気なく、且つ効果的に展開する。
    *新野武宣著『医業経営を革新する実践基本ポイント80』(日本医療企画刊)より

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【掲載】2009年10月16日