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介護老人保健施設の経営は、なぜ低空飛行するのか?
―2018年W改定がターニング・ポイントに

医療ジャーナリスト:冨井 淑夫先生

近年、施設数・定員数ともに増加傾向であった介護老人保健施設は、人口減少とともに今後、転換せざるを得ない状況となりつつあります。
また、介護老人保健施設が経営の活路を見出すにも、2018年の診療報酬と介護報酬のダブル改定によって示された、施設類型の見直しや介護医療院の存在など、多くの課題が山積しています。
ここでは、介護老人保健施設における経営上の課題について、医療ジャーナリストの冨井先生にご紹介いただいています。

前回改定で「在宅復帰率・在宅療養支援等指標」が導入

 2017年10月1日時点の全国の介護老人保健施設(介護老健に略)の数は全国で4,322施設・定員は37万2,679人に達していた。近年、施設数、定員数ともに増加傾向で推移してきたが、人口減少社会の進展と共に今後、需要が伸び悩む可能性が高いと同時に、国の政策誘導により「介護医療院」への転換が進んでいく。2018年の介護報酬・診療報酬同時改定では、介護老健の施設基準に従来の在宅復帰率やベッド回転率、退所後の状況確認等を中心に算定要件の決まる仕組みが大きく見直され、「在宅復帰率・在宅療養支援等指標」(以下、同指標)と呼ばれる算定要件が新たに導入された。

介護老人保健施設 在宅復帰・在宅療養支援機能に対する評価

 出典:厚生労働省「社会保障審議会介護給付費分科会」(平成30年1月26日)参考資料1をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000192309.html

 同指標に対して、次のような指摘が出てくるのではないかと考える。「①から⑩までの非常に詳細な評価項目に基づき、極めて厳格な在宅復帰・在宅療養支援機能が要求される。これを運用すると、実際にベッド稼働率を上げようとすると在宅復帰率が低下し、在宅復帰率を上げようと努力すると、稼働率が低下するという悪循環に陥ってしまう。このジレンマの中での経営を余儀なくされているのがW改定後の介護老健の実態ではないだろうか。」

 従来は「在宅強化型」、「加算型」、「従来型」の三種類の施設類型で運用されてきた介護老健だが、改定後は「基本型」、「加算型」、「在宅強化型」、「超強化型」、「その他」の5つの類型で運用されるようになった。

 同指標は、前出10項目の合計(最大90)でポイント化されるが、在宅復帰・在宅療養支援等機能が最も高い「超強化型」は「70点以上」、「在宅強化型」は「60点以上」、「加算型」は「40点以上」、「基本型」は「20点以上」であり、これら基準が満たせない介護老健は「その他」へと下方修正せざるを得ない。

 「加算型」は従来の「在宅復帰・在宅療養支援機能加算(Ⅰ)」を算定している「基本型」施設で、「超強化型」は同加算(Ⅱ)を算定する「在宅強化型」という位置づけになる。更に、この他にも①「通所時指導等」の実施、②「リハビリテーションマネジメント」の実施、③「地域貢献活動」④充実したリハ(週3回程度以上のリハビリテーションの実施)――の4つの算定要件があり、「超強化型」、「在宅強化型」は①~④の全てが要求され、「加算型」は①~③まで。「基本型」は①と②のみと要件緩和される一方で、ハードルが低くなればなる程、基本報酬は低く設定されている。ただ、長期療養利用者の多い「基本型」介護老健では在宅復帰率が低くとも、在宅療養支援の機能を満たしていれば「加算型」を目指すことは可能だ。報酬の高い順にランク付けをすると①超強化型②在宅強化型③加算型④基本型⑤その他――の順で並び、最下位ランクの「その他」は同指標や前出4つの算定要件からも対象外。要するに、現在は「基本型」でも同指標や算定要件の満たせない老健は、「その他」への下方修正を余儀なくされる。基準看護の導入されていた遥か昔、「その他看護」という範疇の看護基準があったことを思い出す。厚生労働省が「その他」というキーワードを使うのは、現状の機能のままだと将来、介護老健として生き残れないということだろう。

 九州大学名誉教授で「JAHMC」(日本医業経営コンサルタント協会発行)編集専門委員を務める尾形裕也氏(医療政策論)は、同誌の2019年1月号「岡目一目」で次のように指摘している。『老人保健施設と他の介護保険施設との差異は、極めて曖昧なものになってきていた。しかしながら、「介護医療院」の誕生によって、介護老健はそのミッションである「在宅復帰のための中間施設」として純化する方向にあるものと考えられる。その場合、老健と競合するのは、他の介護保険施設ではなく、むしろ回復期病床となっていく可能性が高い。』

 介護老健の本来のミッションは「在宅復帰」のための施設であったが、介護療養病床等の主要な転換先として介護療養型老健が想定されたため、その基本が疎かになっていた面が否めないというのだ。

診療報酬では「在宅扱い」から除外 病院からの紹介が激減?

 2018年のW改定以降、介護老健経営が低空飛行を余儀なくされているのは、介護報酬での同指標導入に留まらず、診療報酬改定で余りにも唐突に老健と療養病棟が「在宅扱い」から除外されたことが大きい。要するに、医療機関から介護老健入所へと移行した場合は、医療機関側の在宅復帰率にカウントされない施設とされた。現行(2020年診療報酬改定前)の施設要件で「在宅復帰率70%以上」が要求される「地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料」1及び2、更に「回復期リハ病棟入院料」1~4の病棟を有する病院からの老健への紹介患者は、今後、減少していく。現状でも、地域包括ケア病棟や回復期リハ病棟を有する病院の多くは、併設する同一医療法人の運営する介護老健や療養病棟に患者を転棟し、「在宅復帰率70%以上」を維持してきた経緯があったが、病院側は退院後、新たな在宅復帰先を確保しなければならない。

 この改正は退院先施設の乏しい地方のケアミックス型病院等を直撃し、現行の連携対応の見直しを迫られる可能性が高い。

 某大規模老健を経営する医療法人理事長は「特にリニューアルも行わず、転換型老健から介護医療院に移行した施設は従来と全く変わらないサービス内容で“在宅扱い”になるのは、従来の制度設計との整合性が取れず、何ともアンフェアな話だ。当初は在宅復帰までの通過施設として位置づけられていた老健が、突然“在宅”として扱われなくなるのは、中間施設としての役割の否定に繋がらないか!」と憤る。

 前回のW改定以降、介護老健の経営に逆風の吹き始めたことが公的なデータ等でも徐々に明らかになってきた。WAM(〔独法〕福祉医療機構)が2018年11月に公表した「平成30年介護報酬改定の影響に関するアンケート調査」(169介護老健が回答)を見ると、今後の介護老健経営の目指すべき姿が見えてくる。

 当該調査対象は最高位ランク①超強化型が10.1%、②在宅強化型7.7%、③加算型33.1%、④基本型37.3%、⑤その他8.3%という内訳。当該調査には、既存の介護療養型老健(3.6%)も含まれた。当然の結果ではあるが、最高位ランクの①が52.9%と最も増収割合が高く、②以下にランクダウンするに伴って増収割合は低下傾向となる。④は増収が12.7%、減収(34.9%)が増収を大きく上回る。横ばいが52.4%と半数以上だが、介護職員の人材確保に伴う今後の人件費増を見据えると、実質、赤字だろう。⑤の「その他」については増収が7.1%に留まり、減収と横ばいを合わせると92.9%に及ぶ。④の施設は同指標の総合評価点数を改善することで、「増収(37.5%)が減収(30.4%)を上回る③加算型」を目指すことが当面、必要だろう。

 日本慢性期医療協会が131介護老健を対象にアンケート調査(2019年7月実施)を行ったが、調査対象の内訳として①が38.2%を占め、①②③の合計が8割以上を占めており、その結果、同指標の平均点は60.5点(前年度は53.2点)と極めて高い数字。当然のことだが、在宅復帰率やベッド回転率等もWAMの調査結果よりは遥かに優秀であり、双方の結果を見比べて見れば、非常に興味深いものがある(何れもホームページで全体を検索可能)。

 前出の理由で、特に④基本型・⑤その他の介護老健を運営する医療法人経営者等からは、「④⑤からの介護医療院への転換を可能にして欲しい」との声が少なくない。「介護医療院」は平成30年4月の誕生後、介護療養型医療施設や介護老健からの転換の動きが加速してきた。

 厚生労働省が公表した令和元年9月30日時点の「介護医療院」届出状況では、Ⅰ型介護医療院が166施設、Ⅱ型介護医療院が80施設、Ⅰ型・Ⅱ型の混合介護医療院が2施設の計248施設(16,061床)に達している。1年前の平成30年9月時点(63施設・4,583床)と比較すると急増傾向で推移。うち介護療養型老人保健施設からの転換が2,581床と約16.1%を占める。Ⅱ型については2018年から3年間は新設が認められず、当分の間は「転換型」老健が優先される。医療・介護経営者から「2021年3月末の届出期限が延長されるのではないか」と巷間、憶測される「移行定着支援加算」に代表される介護報酬の政策誘導により、経営的メリットの大きいことから、今後、「転換型」ではなく既存の老健からも介護医療院への移行を要望する声が、病院経営者の中から強まりそうだ。

「ケアの質」向上が最優先課題、介護報酬の新機軸を出来得る限り算定し、「地域で選ばれる」介護老健に!

 W改定以降2年が経つが、同指標の総合評価点数を改善し、高収益を上げてきた老健と、改善出来なかった老健とに二極分化されてきた。後者のケースでは、水面下でオーナーが交替する等、施設の“身売り”も顕在化してきた。M&Aされるケースは病院併設型よりも連携機能が脆弱な単独型老健に多いようだが、介護職員の人手不足で老健経営に意欲を失った開設者も散見される。また、ベッド稼働率低下が著しいことから、十分な医療機能が備わっていないのに急性期病院へ“営業”をかけて、経管・経鼻栄養やインスリン注射等の必要な患者紹介を依頼したものの医療依存度の高い高齢者への対応が出来ないため、瞬く間に当該患者が急性期病院へ送り返される等、老健の現場が荒れてきた印象も否めない。限られた施設だと思うが、こんな状況では、連携先病院からの信頼も損なわれてしまう。

 介護老健は治療行為の多くが「包括」されているので、本来、実施可能な医療行為は限定されるのが通常だ。医療依存度の高い高齢者へのケアは前出「介護医療院」が担うべき役割だが、全国的に増加しているものの現状、全都道府県・各地域で「介護医療院」の整備が充足しているわけではない。

 一方、「在宅復帰のための中間施設」の最優等生と言える①「超強化型」老健。(公社)全国老人保健施設協会の老健施設マップによると2019年4月1日時点で届出は全国406施設に達する。

 介護老健が経営の活路を見出すための要諦として、“排せつ支援加算”、“褥瘡マネジメント加算”、“低栄養リスク改善加算等の“ケアの質”を適正に評価する新設加算が、多数、準備されている。質の高いケアを評価する“療養体制維持特別加算”も従来、療養強化型老健だけの評価だったのが、療養強化型廃止に伴い、一般の介護老健でも評価されたのも大きなトピック。

介護老人保健施設

 出典:厚生労働省「社会保障審議会介護給付費分科会」(平成30年1月26日)参考資料1をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000192309.html

 介護老健の活路としては、ケアの“質向上”に向けて全職員で協力し、“質向上”に繋がる各種加算報酬等の可能な限りの算定を目指し、地域で利用者から“選択される”施設になるのが基本」と強調する。

 この他にも、連携を評価する「再入所時栄養連携加算」、「かかりつけ医連携薬剤調整加算」の新設、二段階に再編され高評価の「所定疾患施設療養費Ⅱ」等も見逃せない。算定のハードルが高い新設項目も散見されるが、これら新機軸を数多く算定可能な介護老健が増えると、近年、存在感が薄れつつあった老健全体の「質の底上げ」にも寄与し、国民からの信頼獲得にも繋がると言えそうだ。

介護老人保健施設

 出典:厚生労働省「社会保障審議会介護給付費分科会」(平成30年1月26日)参考資料1をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000192309.html

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。
【掲載】2021年3月12日