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診療報酬政策から検証する「がん緩和ケア医療」の現状と課題
~将来、危惧される「在宅緩和ケア難民」の急増

医療ジャーナリスト:冨井 淑夫先生

2006年に「がん対策基本法」が成立しました。
この法律に基づいて、翌2007年から「がん対策推進基本計画」が策定され、緩和ケアも含めたがん診療に係る診療報酬が次々と拡充されました。
その流れは、がん患者のQOLの視点を考慮しながら2018年の診療報酬・介護報酬同時改定まで、一貫して継続されています。
ここでは、診療報酬政策から検証する「がん緩和ケア医療」の現状と課題について、医療ジャーナリストの冨井先生にご紹介いただいています。

がん緩和ケア医療の黎明期を支えた2つの診療報酬

 一般的に終末期医療(ターミナルケア)とがん性疼痛緩和ケア医療、更には“看取り”におけるACP(アドバンス・ケアプラン二ング)の問題が共通の課題として同じ文脈で語られる傾向がある。終末期医療や緩和ケア医療は必ずしもがんやエイズ患者に限定されたものではない。2018年診療報酬改定では、末期心不全患者も「緩和ケア診療加算」の算定対象となり、厚生労働省は認知症の方のターミナルケアのあり方等の議論もスタートさせた。緩和ケアの対象は最近では終末期だけでなく、がん治療の初期段階の患者も対象にする形へと、シフトされつつある。それを前提としながらも本稿では、限られたスペースで、主にがん末期の緩和ケア医療に焦点を絞り、言及させて頂く。

 さて、2006年に「がん対策基本法」が成立し、同法に基づき翌2007年から「がん対策推進基本計画」が策定され、日本で緩和ケア医療が推進される大きなきっかけとなった。翌2007年から2011年までの5年間に同基本計画の推進を図るために緩和ケアも含めたがん診療に係る診療報酬が次々に拡充され、その流れは、がん患者のQOL(生活の質)の視点を考慮しながら2018年の診療報酬・介護報酬同時改定まで、一貫して継続されてきたと言える。

 1990年には既に「緩和ケア病棟入院料」が創設。緩和ケア病棟が幅広く普及した。そして、2002年には「一般病床の入院患者に対する緩和ケアチームによる活動を評価」する前出「緩和ケア診療加算」の新設。同加算が創設されたことにより、緩和ケア病棟以外の一般病院にも緩和ケアチームが普及する契機となった。この2つの診療報酬が、わが国の「緩和ケア」黎明期における、がん患者の緩和ケア入院医療を支える「車の両輪」になったと言っても過言ではない。そして、前出・同基本計画が推進された直後に行われた2008年診療報酬改定が、がん緩和ケア医療政策の大きな節目にもなった。

2014年改定の逓減制導入がターニングポイント
~緩和ケアが「入院」から「外来・在宅」にシフト~

 2008年改定ではがんの緩和ケア医療以外にも、外来化学療法や放射線治療等にも幾つかの改正が実施されたが、ここからは緩和ケアに絞り紹介したい。また、個々の診療報酬点数については、その間、現在まで様々な変遷を経たので、報酬点数については図表も含め、2018年改定以降の内容を示すに留める。

 同改定ではWHO(世界保健機関)方式のがん性疼痛治療法で疼痛管理を実施した場合の評価として「がん性疼痛緩和指導管理料」を新設。更に既存の「緩和ケア診療加算」の施設基準で新たに「薬剤師を加えた緩和ケアチームの設置」を追加すると同時に、同加算の点数を引き上げた。加え介護老人保健施設、介護療養病床、在宅療養支援診療所等の医師が医療用麻薬を使用した場合の薬剤費請求等も可能になった。がん性疼痛緩和を目的に医療用麻薬を投与している患者に、「計画的な医学管理と療養上、必要な指導を計画的に行っていく」ことを目指した点で、同疼痛緩和指導管理料新設は疼痛緩和医療のエポックメーキングとなった。

 2010年は、「がん診療連携拠点病院加算」の点数アップや、がん治療のクリティカルパス運用を評価した「がん治療連携計画策定料」及び「がん治療連携指導料」新設、がんのリハビリを評価する「がん患者リハビリテーション料」等、がん治療に係る新機軸が多数、導入された。加えて、「緩和ケアの研修を受けた医師と、カウンセリングの研修を受けた専任の看護師が、協力してカウンセリングを行った」場合に評価される「がん患者カウンセリング料」(2014年から「がん患者指導管理料」として再編)という画期的な診療報酬創設が実現した。本丸の緩和ケアに関しては、既存の「三本の矢」①「緩和ケア診療加算」②「緩和ケア病棟入院料」、③「がん性疼痛緩和指導管理料」に対し、施設基準に「緩和ケアの研修を修了した医師の配置」を追加。緩和ケア医療に従事する「医師の質」が問われるようになった。2012年改定では、緩和ケア病棟のあり方に大きなメスが入る。要するに、前出に対し入院期間に応じた逓減制の導入で、入院期間が60日を超えると従来よりも同入院料の下がる仕組みが導入された。この施設ホスピスから在宅ホスピスへとシフトする流れは、その後の制度改正でも継続していく。緩和ケア病棟が、がんやエイズ患者の“終の棲家”ではなくなり、「終末期患者の在宅や外来への円滑な移行」へと繋げる施設として明確に位置づけられたわけだ。これは緩和ケアに注力する病院の経営に大きな影響を与える改正点となった。

 加え、前出・①②③の「緩和ケア診療報酬・三本の矢」を算定する医療機関で、小児緩和ケアを実施する施設に「小児加算」が算定可能になったのも重要なトピック。①②の届出に関しては、従来「がん診療連携拠点病院」や日本医療機能評価機構の「病院機能評価」認定医療機関に限定されたが、同年から、それら以外の医療機関でも算定が可能になった。

 この他、「外来の緩和ケアチームの診療を評価」する「外来緩和ケア管理料」新設や「緩和ケア専門医が在宅医療を担う医師と同一日に診療した」場合の評価「在宅悪性腫瘍患者共同指導管理料」新設等、外来・在宅での緩和ケアに対する診療報酬が大きく拡充された年として記憶される。

 2008年改定から2014年改定までの道のりは、わが国のがん医療及び緩和ケア医療が大きく「前進する」発展期であり、それに合わせて診療報酬施策が伴走する大変革の時代であったと総括出来る。

2016年「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」新設
~届出は増えず“機能強化型”の約15.8%~

 ここからは、2016年改定以降のがん緩和ケア医療に係る近年の新機軸を検証したい。2016年改定では、がん診療連携拠点病院に係る大きな改正があった。従来の「がん診療連携拠点病院加算」は、その名の通り「がん診療連携拠点病院」しか算定できなかったのが、新たに「がん拠点病院加算」として再編。イ・「がん診療連携拠点病院」は従来通り500点で運用される一方で、同様の点数としてロ・地域がん診療病院(300点)、2・小児がん拠点病院加算(750点)が新設され、重点評価された。

がん診療連携拠点病院等

 出典:厚生労働省「中央社会保険医療協議会総会」(令和元年10月9日)資料総―1をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00040.html

 国は2002年から、がんの診療実績等の要件を満たした「がん診療連携拠点病院」を「二次医療圏に原則、1施設」の割合で整備してきたが、二次医療圏の中には「がん診療連携拠点病院」の存在しない地域も散見された。

 そのため、2013年から基本的に同拠点病院のある二次医療圏と隣接する医療圏で、がんの診療実績が一定程度ある病院を「地域がん診療連携拠点病院」として指定。同時に「小児がん拠点病院」の設置も進めてきた。前述「がん拠点病院加算」による対象拡大は、国の「がん診療均てん化」の政策を推し進めるものとして捉えられる。そして、同年改定では、がん緩和ケアの在宅移行を進める新機軸「外来がん患者在宅連携指導料」を新設。在宅医療を担う医療機関と連携した上で、在宅緩和ケアへの移行が見込まれる患者を抽出。在宅移行に繋げることが出来た医療機関は、患者一人当たり500点が算定可能になった。

 在宅緩和ケアを進めるために、同年改定で最も象徴的な新機軸として注目されたのは、「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」だ。「緊急往診・看取り」実績だけでなく、オピオイド系鎮痛剤投与や緩和ケア医療の実績、がん性疼痛緩和に熟練した常勤ドクターの配置等が、極めて厳格に規定されており、同加算のハードルは高く設定されていた。例えば、2017年に公表された厚生労働省の「2016年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査」では、「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」を届出する“機能強化型”在支診は約15.8%に留まっていた。同年の「機能強化型」在支診の届出は全国で3000施設に満たなかったため、在宅緩和ケア充実診療所は500施設に届いていないと推定される。

 2015年に(株)メディヴァ代表・大石佳能子さんは自身のブログで「このまま行けば2040年には、死に場所のない“看取り難民”が40万人以上になる」と警鐘を鳴らしておられたが、この中には相当数の“在宅緩和ケア難民”が含まれると予想する。日本ホスピス緩和ケア協会は2017年に「在宅緩和ケア充実診療所以外の診療所にも、末期がんを対象にした診療報酬上の評価を要望する」等の提言を行っている。

診療報酬・介護報酬の「両輪」でターミナルケアを支える時代

 2018年同時改定では、「緩和ケア病棟入院料」が二段階に再編。同入院料1入院期間イ・30日以内(5051点)ロ・31日以上60日以内(4514点)ハ・61日以上(3350点)と入院期間に応じて大きく傾斜配分。同入院料2イ・同(4826点)ロ・同(4370点)ハ・同(3300点)と差がつけられた。

 そして、上位ランクの同入院料1に関しては、(選択要件ではあるものの)直近1年間の①平均在棟日数30日未満・平均待期期間14日未満②在宅移行率15%以上――という高いハードルが課せられた。前述のように国は緩和ケア病棟を「緩和ケアの提供と共に、外来や在宅へのスムーズな移行を支援する施設」と明確に位置づけるようになり、18年改定でも施設ホスピスから在宅ホスピスへの流れが、更に色濃く打ち出されるようになった。

緩和ケア診療加算等の要件の見直し

 出典:厚生労働省「中央社会保険医療協議会総会」(令和元年10月9日)資料総―1をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00040.html

 緩和ケア医療に係る診療報酬としては、前述のように「緩和ケア診療加算」対象に末期心不全患者が追加されたこと。加えて、同加算の緩和ケアチームに「管理栄養士が参加して栄養食事管理を実施した場合」の評価として、「個別栄養食事管理加算」(70点)が新設された。

 この他、緩和ケアに係る診療報酬として目立ったものはなかったが、介護報酬での「ターミナルケアマネジメント加算」(月400単位)新設が注目された。

 「ケアマネジャーが主治医の助言を得ながら、末期がん患者の自宅を頻繁に訪問し、看取りに携わった場合」に算定できる介護報酬。ケアマネジメントのプロセスを簡素化し、迅速かつ適切な介護サービスを提供する観点から、サービス担当者会議の招集なしにケアプランの変更を可能にした。

 この他、特別養護老人ホームで亡くなられた患者に対し、同ホーム側が介護報酬の「看取り介護加算」を算定する場合に限り、訪問診療を提供する医療機関も医療保険におけるターミナルケア関連の診療報酬算定が可能な要件緩和が行われた。今後の制度改正では診療報酬だけでなく介護報酬においても看取りやターミナルケアへの評価が拡充されると同時に、介護施設においての医療機関の看取りやターミナルケアが、診療報酬でも評価されていく見通しだ。終末期におけるACP(アドバンス・ケア・プランニング)での対応は医療・介護施設の両方で求められていく。

さて、緩和ケア病棟に戻ると、入院医療費圧縮を目指す国の政策誘導により、同病棟の届出受理施設における平均在院日数はどんどん短縮され、近年、増えてきた施設数・病床数も今後、減少していくと予想される。日本ホスピス緩和ケア協会の調査では、2009年段階では41.8日だった平均在院日数は、2015年度には32.7日まで短縮。病床利用率も平均74.8%まで低下している。中医協での議論でも、「外来や在宅への円滑な移行を支援する体制を取っている」緩和ケア病棟を診療報酬で重点評価する流れは、2020年改定でも継続されている。

類型の見直しについて

 出典:厚生労働省「中央社会保険医療協議会総会」(令和元年10月9日)資料総―1をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00040.html

 新しいトピックスとして、2018年7月の地域がん診療連携拠点病院等の整備指針の改正に伴い、同拠点病院の新類型として「高度型」が設けられ、14か所が指定。2020年4月には、がんゲノム医療拠点病院が33ヵ所指定されている。2020年の診療報酬改定に向けた中医協での議論では、この分野でのドラスティックな改定は期待し難いと予想されたが、一方、2020年改定でも外来がん化学療法が重点評価されている。診療報酬誘導等で、がん患者の在宅復帰や緩和ケア病棟の削減を拙速に促すことは、「在宅緩和ケア難民」の増加に繋がる。がん患者が、安心・安全に自宅で“その人らしく”過ごせるような受け皿づくりも、国には同時に進めて欲しいと願っている。

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。
【掲載】2021年2月12日