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地域住民のヘルス・リテラシーを育む!
~適切な受診に導く医療機関のあり方を探る

医療ジャーナリスト:冨井 淑夫先生

「ヘルス・リテラシー」とは、「健康や医療の情報を読み解き、活用する力」を意味しています。
そして、国はより適切な医療機関へ、適切に受診するように働きかけています。
このヘルス・リテラシーの向上を促す医療機関の経営行動について、医療ジャーナリストの冨井先生にご紹介いただいています。

「働き方改革」と連動する「上手な医療のかかり方」懇談会

 2018年10月5日、厚生労働省で「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」(座長・渋谷健司東京大学大学院 医学研究科教授)が発足し、第一回目の会合を実施。その後、2018年12月17日までに計5回の同懇談会が開催された。その趣旨の一部を紹介すると、「患者・国民が安心して必要な医療を受ける観点からは、現在、検討が行なわれている医師の働き方改革や、地域における医師確保対策といった医療提供者側の取り組みだけでなく、患者やその家族である国民の医療のかかり方に関する理解が欠かせない。受診の必要性や医療機関の選択等、上手に医療にかかることが出来れば、患者・国民にとっても必要な時に適切な医療機関にかかることができ、また時間外・土日の受診や大病院への患者集中による混雑等の緩和にも繋がるものである。その結果として、医療提供者側の過度な負担が緩和され、医療の質・安全確保の点からの効果が期待される」としている。

 同懇談会における検討事項としては、①医療のかかり方に関する情報の収集・整理、各分野の取り組みの見える化等、周知すべきコンテンツの整理②分り易いリーフレットの作成(上手な医療のかかり方の重要性とコンテンツへのアクセス方法をコンパクトにまとめて広める)③効果的な広報の在り方(対象のセグメンテーションと、属性に応じたメッセージや広報ツール・手法の選択)④厚生労働省の取り組みと各分野の団体の取り組みの整理・連携の在り方⑤その他――とされ、適切な受診に導くための広報活動に注力する考えだ。庶務は同省保険局・関係各課の協力を得て、医政局「医療経営支援課医療勤務環境改善推進室」が主導していくようだ。本来、“消費者視点”を重視した「上手な医療のかかり方」をテーマにするのであれば、消費者庁が前面に出て来そうなものだが、どうやら、そうではなさそうだ。趣旨の最初で「医師の働き方改革」に言及されているように、あくまでも“働き方改革”を推進させるために、国が国民へ「医療のかかり方」への協力を促しているようにも感じる。

同懇談会と同時にスタートした医療のかかり方・普及促進事業

 同懇談会構成員12名の中には、民主党政権時代に大阪地検特捜部が絡んだ冤罪事件に巻き込まれた厚生労働省・元事務次官の村木厚子氏(現・津田塾大客員教授)、元女子アナでマギーズ東京・共同代表理事の鈴木美穂氏や、テレビでおなじみのデーモン閣下等、多彩というのか“濃い”顔ぶれだ。メンバーに芸能人等が入っているのは、行政が国民や世論の関心を集めるための常套手段で、各省庁が開催するこうした懇談会、検討会等のバラエティ化は珍しいことでもない。この他の構成員には、各患者会代表らやワークライフ・バランスに係る専門家、チーム医療を提言する専門家等、異なる立場の人たちによる個々の専門分野の意見が表出されてはいる。

 やはり、「上手な医療のかかり方」と「働き方改革」という本来、異なる2つのテーマを強引に接着し、議論を進めようとしているようにも見える。

 第2回の同懇談会の「議論の整理」における構成員の意見。「医療者が大変だから、受診抑制しますという発言の仕方では、国民の理解は得られない」、「アクセス制限ではなく、個人が社会によってエンパワーメントされ、賢い選択をすべき」等の意見が、正に正鵠を射ているように感じる。「受診抑制」や医療現場の“働き方改革”で「医師以外の職種へのタスク・シフティング」を進展させたい厚生官僚にとって、このような意見が出るのは、恐らく歓迎すべきことではないのだろう。

 2018年12月17日に同懇談会は、「『いのちをまもり、医療をまもる』ための5つの方策」という報告書(※)を発表した。そこでは、市民・行政・医師/医療提供者・民間企業各々の立場からの具体的なアクションを求めている。『いのちをまもり、医療をまもる』ための「国民総力戦!」をキーワードに、“消費者目線”だけでなく、国策としての色合いが強く出ているようにも感じる。

 ※厚生労働省「第5回上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」資料2
 (https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000458856.pdf

医療のかかり方普及促進事業

 出典:厚生労働省「第1回上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」(平成30年10月5日)参考資料3を基に作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_01739.html

 同懇談会が2018年10月に立ち上がったと同時に、厚生労働省は「医療のかかり方普及促進事業」をスタートし、平成31年度要求額で4億4千385万3千円の予算が付けられた。同事業の資料によると、「医師の働き方改革を踏まえ、医師の勤務負担軽減・労働時間短縮に向けては、医療提供者側の取り組みだけでなく、患者やその家族である国民の理解が欠かせないため、医療機関へのかかり方を含めた国民の理解を得るための周知の取り組みを、関係者が一体となって推進する必要があるとされている」としている。そのためには、「医療関係者、企業、行政等が参画する国民運動の展開」が肝要であるとし、その内容としては、「適切な医療のかかり方についての周知啓発」、「関係機関・団体等による適切な医療のかかり方を広める取り組み事例の展開」、「医療機関における勤務環境改善等の取り組み事例の展開」を行なうために、「ポスター等、啓発資料の提供」、「イベント開催」、「厚生労働大臣表彰」、「ウェブサイトの構築」等を進めて行く構えだ。これら4つは、「広告代理店等に業務委託」されるとの記述もある。

市民のヘルス・リテラシー向上への2つの視点

 筆者は同懇談会の議論で、行政や医療機関が国民に向けて「より適切な医療機関へ、適切に受診する」ように導くことは、非常に重要と考えている。「ヘルス・リテラシー」という言葉は、「健康や医療の情報を読み解き、活用する力」を意味するが、地域密着型病院が地域住民に対し、ソーシャルスキルとしての「ヘルス・リテラシーを育む」支援をすることは大事だと思う。医療機関もメディアも「良質の医療・健康情報をつくり、伝える」ことが求められるが、現代社会においては消費される医療・健康情報の中には、信憑性が低い情報も数多く含まれる。特にインターネット等で流通する「がん情報」等には、診療ガイドラインやエビデンス(医学的根拠)に基づかない治療法等も多数、推奨または紹介されているケースも散見される。

 患者の医療への意思決定や診療ガイドライン作成等に取り組んで来た京都大学大学院医学研究科の中山健夫教授は、2018年10月に開催された「全国病院広報研究大会」(NPO法人日本HIS研究センター主催)の基調講演で、「インターネット等で氾濫する医療・健康情報を主体的、かつ正しく活用出来ず判断を誤ると貴重な財産を失ったり、最悪のケースは生命を失うケースもあり得ないことではない。地域に根づいた病院は自らが主体となって、患者や地域住民との協働により、地域社会全体のヘルス・リテラシーを向上させるコ・プロダクションの考え方が重要になる」と語られていた。そして、病院は「地域のヘルス・プロモーションを支援するHPH(ヘルス・プロモ―ティング・ホスピタル)を目指すべき」とも指摘された。

 HPHとは制度として位置づけられたものではなく、「地域住民のヘルス・プロモーション(健康増進)を支援する病院」として、WHO(世界保健機関)が推奨する国際的な病院や、ヘルス・サービスのネットワーク。1991年から国際的なネットワークが作られるようになり、2008年から「HPH憲章」が制定。日本ではその年に福岡県の千鳥橋病院の加盟したのが第一号となった。日本HPHネットワークによると、わが国では病院69施設、クリニック15施設、調剤薬局7施設が加盟し、「健康な街づくり」を基本コンセプトに掲げている。調剤薬局は国の進める「健康サポート薬局」の機能とも相通じる部分が多いが、加盟病院・診療所・薬局は地域住民の健康づくりや、ヘルス・リテラシー向上にも注力している施設が多くを占めているのが特徴だ。

 ヘルス・リテラシーを磨くことに対して、市民が「健康や医療への正しい知識を身に付ける」ことに加え、「より適切な医療機関へ、より適切に受診する」という2つ目の視点があることを忘れてはならない。医療機関は、これら2つの視点から、「正しい医療情報の発信基地」として地域住民を啓発していくことが必要になる。

ヘルス・リテラシー向上を促す医療機関の経営行動とは?

 2014年に各都道府県で「病床機能報告制度」が始まったのを契機に、地域医療ビジョン、地域医療構想に至る一連の流れに歩調を合わせて、国は大病院の外来を紹介状なしで受診した場合の定額負担の対象範囲を拡大してきた。明らかな受診抑制であり、国が進める「地域完結型医療」も、患者の側に立てばアクセス制限を促すもの。国は超高齢化と人口減少社会の到来で、「医療費の増加抑制」と「良質の医療サービス提供」の両立という、大命題に直面している。その流れで、「より適切な医療機関へ適切に受診する」政策誘導が進められる中で、医療機関も地域住民に対し、「適切な受診に繋げる」ヘルス・リテラシー向上を目指した経営行動が求められるようになってきた。

医療のかかり方に関する取組の例

 出典:厚生労働省「第1回上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」(平成30年10月5日)資料3を基に作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_01739.html

 前述・同懇談会の資料の中にも、「医療のかかり方に関する取組について」という先行事例が紹介されているが、その殆どが各自治体の取り組み事例に留まり、個々の民間病院等の実例は殆ど紹介されていない。実際、国策とは別に病院主導で地域住民のヘルス・リテラシーを向上させる動きは、必ずしも多くはないが顕在化し始めてもいる。

 例えば、福岡県飯塚市の麻生飯塚病院のように、①自分の健康は自分で守る(病気の予防)②医療機関と上手に付き合う(適正受診)――の2つの視点から賢い患者を育てる「地域医療サポーター」(以下、同サポーターに略)養成講座を2010年から開催。同院ホームページには、2018年7月26日現在で、レギュラー934名、ゴールド224名、プラチナ16名が認定され、同サポーターの様々な地域貢献活動が報告されている。同院では2012年に同養成講座の講演内容をまとめた冊子「地域医療サポーターガイドブック」を完成。麻生飯塚病院の同サポーター制度に刺激を受けた他県の病院でもプロジェクト・チームが作られ、同サポーターと同様の取り組みをスタートさせた病院も現れている。

 他地域でもこのような“賢い患者”を育む「輪」が拡がっていけば、一つの病院の経営行動は、日本の健康社会を、より良い方向に“変えて行く”可能性を秘めているように思われる。

 前述の「全国病院広報研究大会」でも、「地域社会のヘルスケアIQの向上」をスローガンとして掲げた(社医)杏嶺会 一宮西病院(465床)の報告が非常に興味深かった。

 同院では昨年度から「一宮市民のニーズやライフスタイルに沿った医療情報を発信」し、それをきっかけにして「市民に自身の健康に関心をもって頂く」ことを目指したという。それに伴う具体的な活動としては、従来から定期的に同院のドクターによる医療講演会を開催してきたが、参加者以外にも情報が到達するように講演内容を小抄録として編集し、その内容を折り込みチラシやフェイスブック、ブログ等で情報発信。メディアミックスによる立体的な展開を図った。

 同院ではこれらの戦略的講演会を「超拡散型・医療講演」と名付け、2018年からは新機軸として地域住民が、一宮市役所のレストランでお菓子とコーヒーを楽しみながら医療講演会に参加する試みをスタートさせた。また、同院・各専門領域のドクターがブログ等で発信する医療コラム等を編集し、1冊にまとめた小冊子「病気になる前に読む本」を制作。家庭の医学書として「一家庭に1冊」の常備を目指し、院内のラックに設置して、市民が誰でも持ち帰れるようにした。この他「YouTube戦略」として、スマホ世代に向けた動画によるコミュニケーション・ツールを全て内製により導入。30歳代~40歳代の主婦層に人気のあるフリーペーパーを利用し、若年性乳がん等の情報を発信する「女子必見医療情報企画」や高齢者に人気のある地元ラジオ番組を使い、同院のドクターが一つの疾患について、パーソナリティと会話を繰り広げる「完全オリジナルラジオ番組」等の企画を次々に展開した。同ラジオ番組は前出・医療講演で実施したアンケート調査に基づき、テーマを選定。ターゲットとなる市民をセグメントし、多角的なアプローチを行なうことで、限定的ではない医療情報の地域社会全体への到達を可能にすると、同院では捉えている。この他、長野市民病院のように「上手なお医者さんへのかかり方――かかりつけ医をもちましょう」というイラスト入りの小冊子を作り、市民への啓発に注力する事例もあり、国よりも先行して動き出している地域医療の現場も少なくはないのだ。

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。
【掲載】2021年1月29日