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インタビュー
民間医療機関における勤務環境改善とリーダー・役職者研修の進め方

一般社団法人医療実務研究会 副代表理事 福岡県 医療勤務環境改善アドバイザー
認定登録 医業経営コンサルタント 立花 雅男先生
(聞き手:医療ジャーナリスト:冨井 淑夫先生)

2014年10月1日に施行された改正医療法に基づいて、医療機関がPDCAサイクルを活用して計画的に医療従事者の勤務環境改善に取り組む仕組みである「勤務環境改善マネジメントシステム」が創設されました。医療機関での職員の満足度や、管理者教育などの取り組み等について、医業経営コンサルタントの立花先生にご紹介いただいています。

現状分析には職員の「提案型」ES調査を実施

―― 2014年4月に福岡県、さらに全都道府県に「医療勤務環境改善支援センター」の設置が開始され、国も本腰を入れて医療機関の勤務環境改善に取り組むようになりました。実際に福岡県の同センターでアドバイザーとしてお仕事をされている立花先生に、まずは医療機関における勤務環境改善の課題等についてお聞き出来ればと考えております。

医療従事者の勤務環境改善の促進

 出典:「医療従事者の勤務環境改善について」(厚生労働省)を基に作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/quality/

立花: 厚生労働省は医療機関がPDCAサイクルを活用し、計画的に医療従事者の勤務環境改善に取り組む「勤務環境改善マネジメントシステム」の運用を推進してきました。2014年の医療法改正に基づき、同年に指針が出たので、私も顧問先の病院で活用を試みたのです。そこには、PDCAサイクルに則った医療機関全体の取り組み等が書かれているのですが、中小民間病院に限ったことではありせんが、現場で使うには少し質問が抽象的且つ管理的で、医療機関の役職者でも分からない、知らない内容が織りこまれています。特に「現状分析→課題の抽出→改善計画」という一連の流れでは、「院内で院長、各部門責任者やスタッフが集まり協議」との文言がありますが、私は管理職や一部のスタッフだけでなく、より幅広く末端まで多くの立場の人たちの意見を吸い上げる必要があると判断し、全職員を対象にした職員満足度調査(ES)の実施を顧問先病院に提案しました。

―― トップダウンではなく、客観的なデータに基づいたボトムアップによる現状分析の仕組みを、導入されたわけですね。

立花: 従来の設問に応えるだけの単純な方式ではなく、現状把握・課題抽出のための「現状分析シート」に「重要度・満足度」の視点から、列挙した項目に対し優先順位を付けてもらったのです。
さらに末端まで全ての職員に「現在の勤務環境で何が不満なのか?」、「優先順位の高い課題を解決するにはどうすれば良いのか?」等の意見を自由に書いてもらうための空欄を設けました。
そして、ES調査は各部門毎、更に組織全体の集計を行って、改善すべき課題を抽出する。そして、病院の「職務環境改善委員会」では、そこで出て来た課題について議論し、何を優先するのかを皆で改めて検討するのです。全ての課題解決を一気に行うことは難しいので、優先すべき喫緊の課題を幾つか選択。そこを手始めに改善への取り組みを実践するわけです。

―― そこから、PDCAサイクルに沿った勤務環境改善が始まるわけですね。

立花: ここまでの手順で改善を進めようとする医療施設は、非常に意識の高い病院だと思います。中小民間病院等の医療現場から出て来る声は、常に「人が足りない!」、「有給休暇が取れない!」、「時間外の仕事が多い」等の不満が必ず出てきます。特に、看護部門から出される「本当に人が足りないのか?」については、現状のマンパワーを精緻に、客観的に分析する必要があります。要するに、現状の看護基準に則り、法的に問題のない人員であっても、看護職員全員が有給休暇を消化可能な適正人員を確保していないと、看護師は十分な休みを取れない状況に陥ります。看護職員だけでなく、セラピストやメディカルスタッフ等も含めて、病院の規模や組織等に合せた各々職種毎の「人員配置標準数・適正数」を作成しています。
具体的な根拠に基づき、マンパワーが充足しているにも係らず、常に「人が足りない!」と言われるのは、真に業務改善が出来ていないから、「ただ忙しい!」ということに過ぎません。
経営の面から言うと、適正配置以上に過剰に職員を配置することは収支バランスの悪化につながります。施設基準の入院基本料別人員配置と診療報酬点数は実によく考えられているからです。

先に「人事評価ありき」ではなく、管理者教育から始める

―― 次に民間医療機関で人事評価の仕組みをどのように導入するのかについて、アドバイスをいただけたらと思います。

立花: 人事評価の仕組みを作る前提として、役職者を対象にした「人事考課演習」等を含めた教育・研修システムをきちんと作り上げ実践する必要があります。先に「評価ありき」ではなく、教育・研修の成果により自院に合った評価軸が共有されて、初めて的確な人事評価が可能になるのです。その両方を同時に進めて行くことが大事です。
私が以前、民間病院に務めていた時代には、看護師長等のキーパーソンとなる人材は、他の急性期病院の師長経験者等をスカウトするケースがほとんどでした。しかし、それでは現場で頑張っている中堅看護師らがやり甲斐をなくしますし、中間管理職が育ちません。

―― 現在でも多くの民間病院でも同じ課題を抱えていますが、組織を健全に機能させるには、“生え抜き"のリーダーを育成することが肝要なのですね。

立花: このままではまずいと感じ、私は当時、各部門の副主任クラスの中堅職員を集めて、「5年後、10年後には、あなた方にキャリア・アップしてもらって、優秀な方はリーダーに抜擢します!」との意思統一をしてから、リーダー研修に力を注ぐようになりました。基本的に年に2回、1回は日帰り、もう1回は宿泊で、管理職研修を定期的に開催するようになりました。病院の規模や組織の実状によって異なるケースもあるのですが、原則、人事考課演習は幾つかのグループに分け、病院長、副院長、事務長、看護部長らのトップマネジメントは一つのグループにして、中間管理職とは別のグループにします。
一つのグループに出来るだけ同じ職種で固まらないように、役職者でも看護師、事務職、PT、OT等のリハ職、検査技師、精神科系の病院であれば公認心理師、精神保健福祉士等、多様な職種が均等に入るようにグループ分けをします。実際に演習を進める上で、医療専門職は意外に業務上の限られた範囲で、他職種との接触が極めて少ないので、他職種の視点で見ると、「目から鱗」と言うのか、他部門との比較により、新たな発見や意識改革に繋がることも多いのです。そして、人事考課演習は全て具体的な場面を設定したケーススタディで行われます。

―― 演習では、人事考課の経験の乏しい人たちが陥りそうな落とし穴も、可視化されていくのでしょうね。

立花: 例えば、多いのは上司が、他部門より良くしてやりたい、悪く思われたくない気持ちや義理人情が入ってくる「寛大化傾向」、或いは普通(安心段階)というB評価ばかりで部下間の評価に差を付けるのをためらう「中心化傾向」、上司と部下の専門・得意分野が同じ場合、「私の若い頃は・・・」という過去の自分と比較して、辛く評価したり、甘く評価したりというバイアスがかかる「対比誤差」や、積極性と協調性、責任感と職場規律等、関連のありそうな項目に同一か近似の評価をする「論理誤差」、「あなたは何年目なんだから・・」と人事評価基準ではなく考課者自身の年数基準考課で評価する「期待基準評価」等、実際に幾つかのケースを想定して役職者に人事考課をさせてみると、人事考課者の陥り易い心理やエラーが浮き彫りになります。このように、考課者によって評価の仕方に差が出るのですが、まずは病院の役職者が共通の評価軸を持てるように教育することが第一です。この他、人事考課を行なうことによって、個々の職員の抱える課題も可視化されていくのです。上司は部下に対して、「あなたは、こういう理由で低く人事考課される」と指摘して、本人に改善を促すことが必要です。

―― オーナーに権限が集中する中小民間病院の場合は、これまで精緻で公平性が担保された人事評価の仕組みが作られることなく、人事考課者の教育・訓練等も行わないまま、トップの印象評価によって職員が評価されて来た病院も少なくなかったと感じます。

立花: 中小民間病院の多くは中間管理職が育っていないし、育てても来なかった実態がありました。中堅職員が定着せず、年配の管理職と、新人等若手職員ばかりの歪な組織構造が出来上がってしまう。看護部長でも事務長でも、他病院で経験したベテランを連れて来て安易にポストを与えようとするから、若い職員のやる気を削ぐのです。リーダーを「引っ張って来る」から、「育てて行く」方向へのベクトル転換が求められています。

BSC導入で経営参画意識が芽生え組織を活性化

―― それでは、中堅職員のやる気を促すには、どのような方法があると思われますか?

立花: 例えば、病院のビジョンを実現し、目標の達成を目指すために「財務」、「顧客」、「業務プロセス」、「学習と成長」の4つの視点から、戦略立案プロセスを体験するBSC(バランススコアカード)の導入は、職員一人ひとりの日々の業務が、どのように目標達成に影響するのかを意識するという点で、有効なツールとなり得るのではないかと思います。BSCでも前述のような職種横断型の集団によるグループワークを行なって、主任クラスの人たちの意見が、部署計画や全体の中期計画、年度計画に織りこまれ、それが個人の目標とリンクして、人事考課等にも活用されるわけです。参加した中堅職員のやる気を育むことが出来ますし、病院全体の教育研修システムの中でBSCを体系的に位置付けることが出来れば、更に働き甲斐が増すことになります。要するに、中堅職員が経営に参画しているとの意識が芽生えてくれば、組織の活性化にも繋がっていくのです。

―― そうした教育・研修の仕組み作りに加えて、職員の賃金体系をきちんと整備することも、大事になるのでしょうね。

立花:確かに、職員賃金の制度設計に係る専門家を入れて、ドラスティックに変えるのも一つの方法かもしれませんが、私の考え方としては、まず現状の賃金構成の検証や見直しから始められてはどうかと思います。基本給については、単一のところもあれば、2つか3つに分かれているケースもあり、個々の事業体によって異なります。当該病院がどのような賃金構成なのかを見極めないと、一様には言えない。医療専門職の確保が難しい地方の病院等では、医師や薬剤師等の給与が極端に高く、無資格の事務職等は低く抑えられている現状も顕在化しています。中小民間病院等の中には、事務職の役割を不当に低く見ている実態もあります。それは理事長のお考えにもよるのでしょうが、事務系は医療専門職の仕事をお金に変える重要な役割を担っており、裏方の仕事を軽んじるのは間違っていると思います。

―― 先生は勤務環境改善アドバイザーとして、病院のワークライフバランス(WLB)向上にも取り組んでおられますが、最後にWLBについてもご意見をお聞かせ下さい。

立花:私は病院の勤務環境改善の仕事に取り組む前からWLB推進に注力してきましたが、アドバイザーとして幾つかの病院を訪問する中で、WLB推進が上手く進まない状況を数多く目にしてきました。前述のES調査のアンケートでも、管理職は「当院はWLB充実に十分に取り組んでいる」と回答する一方で、その部下は「全然、進んでいない」等の回答が多く、明らかに齟齬が生じているわけです。こうした平行線上の評価、両者の齟齬を埋めるためにも、一般職の意見を吸い上げるアンケートやグループワークによる研修で、現在の状況を可視化することが必要になるのです。実際に、ES調査やグループワークをきっかけに、病院経営に大きな影響を及ぼすような問題が浮き彫りになり、その問題を解決することによって、一挙に組織風土が変り、職員が生き生きと仕事が出来るようになった事例も経験しています。

―― 本日はどうもありがとうございました。

【人事考課の効果的な実施】

①一般職・中間管理職・管理者別に自己評価・考課表を分ける。

②自分の部下だけを考課する。

③一般職・中間管理職・管理者別に査定する。

④部署別・職種別を基本に平均査定する。

⑤上司の甘辛考課を機械的処理で標準化する。

⑥考課者は自ら研鑽を積み、考課基準を順守し、日頃から部下の把握と管理をすることを心がける。

立花 雅男(たちばな・まさお)
〔プロフィール〕
医療法人寿芳会 芳野病院総務部長を経て、1999年医療実務研究会 代表幹事。2012年北九メディカル設立。医療実務研究会一般社団法人化に伴い、2013年から副代表理事。
翌14年より福岡県「医療勤務環境改善アドバイザー」就任。16年、日本医業経営コンサルタント協会 福岡県支部理事。17年より(株)M&Cパートナーコンサルティング パートナー。顧問先医療機関の「中期計画・年度計画立案」、「給与体系整備・構築」、「各種規定整備」、「役職者研修」等を支援。

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。
【掲載】2020年12月18日