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ロボット新戦略
~医療機関における最先端ロボット導入と医療経営

医療ジャーナリスト:冨井 淑夫先生

手術支援ロボット「ダヴィンチ」をはじめとして、介護においても「HAL」や「Pepper」などのロボット開発が積極的に進められています。ですが、費用対効果が読めないため、医療機関では導入に踏み切れないのが実情です。医療機関における最先端ロボット導入と医療経営について、医療ジャーナリストの冨井淑夫氏にご紹介いただいています。

厚労省内に「介護ロボット開発・普及推進室」が設置

 2018年4月1日から厚生労働省・老健局内に「介護ロボット開発・普及推進室」が設置され、介護ロボットの開発・普及に関する専門家として、工学、介護・リハビリテーション等、9名が老健局参与(介護ロボット担当)に任命されました。

 この体制強化は、「日本経済再生本部」が2015年2月に決定した「ロボット新戦略」や、2017年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」等の政府方針を踏まえたのものとなっています。

 9名のメンバーには介護・リハビリテーション現場の専門家も参加していますが、ロボット工学や産業調査・生産性向上の専門家の割合が高いのを見ても、そうした傾向が伺えます。

 そこで示された「介護ロボットの導入・活用支援策」の中には、厚生労働省の管轄する「地域医療介護総合確保基金」、「人材確保等支援助成金 介護福祉機器助成コース」、「業務改善助成金」に加えて、経済産業省の「サービス等生産性向上IT導入支援事業」等の補助金活用にも言及されています。更に、その後の新しいバージョンでは、「ロボット介護機器開発・標準化事業」(経済産業省)、【高齢者向けの新たなICTサービスの研究開発支援】「情報通信利用促進支援事業費補助金」(総務省)、「ものづくり・商業・サービス経営力向上支援補助金(中小企業庁)」等、新たな補助金活用の道が開かれており、今後、介護ロボットの開発・実用化に向けて各省庁からの補助金の更なる拡充が予想され、介護事業者や介護事業を積極的に展開する医療法人等にとっては、介護ロボットの導入に対しては、“追い風"となっています。近年の介護職員の慢性的な人手不足が社会問題化する中で、介護用ロボットに対し手厚い導入支援策が実施される一方で、手術支援ロボット等の臨床に係る医療用ロボットについては、最近の著しいイノベーション進展にも係らず、医療機関の導入・活用に対する経済的支援が未だ乏しい現状は否めません。

 前出・「ロボット新戦略」の「介護・医療分野の取り組み」を読むと、殆どが介護ロボットに係る記述で占められ、医療ロボットに関する事柄が極めて乏しい現状が浮き彫りとなっています。国は前述の“省庁横断型"補助金事業を活用することで、積極的にロボットの導入を加速し経済成長に繋げたい狙いがあるのではないかと考えてます。そこでは、2020年の目指すべき姿として、「介護ロボットの国内市場規模を500億円に拡大」と明確だが、医療ロボットに関しては「平成27年から31年までの5年間で実用化支援を100件以上」と具体性に乏しい感じがします。確かに新しい手術支援ロボット等は治験や審査等に相当な時間を要し、開発・導入コストは介護ロボットと比較にならない程、過大であることから、補助金等の支援策が遅れがちになるのも、一定の理解は出来ます。

 また当然のことですが、ロボット支援手術・治療等を保険適用で実施するには、医療機関が規定された厳格な施設基準を満たすことを要求されます。導入価額も極めて高額であり、現実に、手術支援ロボットとして臨床効果を示す「ダヴィンチ」等も、一部の高度先進病院等にしか導入が進んでいない現状は否定出来ません。そこで、最初に「ダヴィンチ」に適用される診療報酬や、国内外の導入の現状等について、ご紹介します。

2018年診療報酬改定でダヴィンチ手術 保険収載が12疾患に拡大

 2018年の診療報酬改定から、手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使った内視鏡手術に関する保険適用範囲が一挙に拡大されました。正式には「ロボット支援下内視鏡手術」と称される手術ですが、従来は「腹腔鏡下腎悪性腫瘍手術」(腎がん)〔70,730点〕、「腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術」(前立腺がん)〔95,280点〕しか認められていませんでした。

 それが、2018年改定から新たに胃がん、食道がん、直腸がん、膀胱がん、肺がん、子宮体がん、縦隔悪性腫瘍の7種類のがんと、子宮筋腫、心臓弁膜症、縦隔良性腫瘍を加えた10疾患が追加となり、12疾患の保険適用が承認されることになりました。

 前出・新規10疾患のダヴィンチ手術は主に大学病院等で、先進医療や自由診療として実施されて来た。今後は医療機関にとって、健康保険適用下での手術が可能になり、今改定では高度先進医療等を担う高機能病院等には、強力な“追い風"になったのは間違いありません。

 これらの疾患の中で、今回、子宮体がんと子宮筋腫の2つの手術にダヴィンチの保険適用が実現した婦人科領域では、保険適用の拡大を評価する声は少なくありません。2つの婦人科系疾患手術に保険収載が認められた意義は大きく、米国の医療機関における子宮摘出手術はダヴィンチによるものが最多であり、近い将来、子宮頸がんも保険適用されると予想しています。その有効性と安全性が数多くの臨床データが示されていることから、日本の医療では良性・悪性を問わず子宮全摘が適応とされる全疾患が、ダヴィンチ手術の対象になっていくだろうと考えてます。特に、婦人科疾患におけるダヴィンチ手術の最大のメリットは、術後の痛みや出血量の殆どない、身体の負担の少ない低侵襲治療であることです。

 診療報酬改定前に保険適用の承認を受けていなかったものの先進医療として認められていたダヴィンチ手術(※参考資料)も幾つかあり、それらの手術は大学病院等の先進医療実施病院等で行われているのが現状です。

 ※参考資料:厚生労働省「内視鏡手術用支援機器を用いた内視鏡手術に対する評価について」
 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000181702.pdf

 民間医療機関の中でダヴィンチ導入に積極的なのは、日本全国で70施設以上の病院を運営する「徳洲会グループ」で、同グループの編集・発行する「徳洲新聞」によると、2018年4月に開催された同グループの「ロボット手術支援懇話会」では、同年2月末段階でグループ病院全体で14病院にダヴィンチが導入され、累積手術症例数が2,654症例に達したことが報告されています。しかし、導入コストが極めて高額であることから、全国的に民間医療機関における導入が余り進んでいません。また、ロボットの扱いに習熟したドクターなど、経験や知識のある医療従事者が不足している現状もその背景にあるように聞いています。

ダヴィンチの共同利用が可能な仕組みづくりを!

 ロボット外科学会によると、2016年9月現在における全世界のダヴィンチ導入実績は3803台となっています。設置台数の最も多いのはアメリカで2501台、ヨーロッパ全域で644台、アジア全域には467台が設置され、アジアの中でも日本は237台と突出した導入台数です。

 ダヴィンチ導入の歴史を紐解くと、湾岸戦争勃発前の1988年頃に、米国陸軍が開発を主導。米国本土や戦艦から医師により遠隔操作で戦場の負傷者等に手術を実施することを目的に研究が進められました。ロボット工学の分野では、「医師側が戦場に送られることを敬遠する事情等もあるのだが、米国では医師にかかるコストが兵士よりも遥かに高額であることから、アメリカ政府はコスト優先て、多くの医師を前線に送らなくても治療が出来るようにダヴィンチ開発が進められた経緯がある」と指摘しています。救命医療においても経済効率を最重要視する米国ならではの話だと感じました。

 同じハイテク技術としては、オンライン診療の診療報酬創設等もあり、近年、日本でも導入が進んで来た「遠隔診療」と繋がる部分も少なくありません。

 湾岸戦争終結後も民間により研究が移行・継続され1999年に完成しました。2000年7月からFDA(米国食品医薬品局)から承認を受けて、実用化に結実しました。日本では早くも2000年から慶応大学医学部附属病院に第一号が導入され、九州大学医学部附属病院での治験を経て、2009年から厚生労働省が国内での製造・販売を承認しました。2012年4月の診療報酬改定で、ダヴィンチによる「前立腺がん全摘手術」が初めて保険収載され、医療機関における導入が徐々に進んできたのが一連の流れです。

 ダヴィンチの活用が進む泌尿器科においても、前立腺がんに対しては、開腹手術や腹腔鏡手術よりも鮮明な視野で、格段に精密な操作性を駆使した手術が行えるので、当該手術には最も適した治療法であると高く評価されています。

 前述のように、診療報酬改定でダヴィンチ手術の保険適用範囲が拡大されたことで、わが国での導入台数は、先に紹介したデータよりも、更に増加していると推定されます。しかし、臨床試験を実施する大学病院等は別にして、一般の民間病院等が導入する場合には、1台につき約3億円、その他、手術室の整備や維持等にも、毎年、相当なランニングコストが必要とされる過大な設備投資がネックとなり、導入にはなかなか踏み切れないのが実情です。病院経営上、減価償却の試算をしたとしても、多くの病院では収益面で早急にプラスに転じるというケースは考え難くく、また、保険適用のない疾患に対しては自費診療であり、患者側の負担も重く導入前に自費診療の適切な価格設定や、地域でどの位の患者数が見込めるか等のマーケティングも必要になることが考えられます。

 ただ、一つの考え方として、2016年に地域医療構想の策定が全都道府県で終了し、2025年に向けて病床の機能分化と連携が、更に進められる中で、連携により大学病院や高機能病院等が有するダヴィンチ等の最先端技術や熟練した人材を、一般の民間医療機関等と共同利用可能な仕組みが構築出来れば、数多くのドクターがダヴィンチの技術を活用し、その普及・推進にも拍車がかかっていくのではないかと考えてます。

 ダヴィンチを導入している病院においては、将来的に、がん手術の「低侵襲治療センター」のような機能を備え、オープンシステムにより地域開業医等にも開放し、最先端技術を共に活用するシステムを構想している医療機関も見受けられます。そのような仕組みが出来れば、前出のような課題の幾つかが解消されると同時に、地域全体のがん治療の「底上げ」にも繋がっていくのかもしれないと考えています。ただ、そうした仕組みを作るためには、ロボットの共同利用や連携を評価する診療報酬による政策誘導等も、同時に必要になるかもしれません。

AIと連動し「遠隔診療の発展」等にも大きく貢献

 ダヴィンチに係る言及が多くなってしまいましたが、それ以外のロボットについてもご紹介します。世界初のサイボーグ型ロボットスーツ「HAL®」も2016年から8つの疾患で保険適用が実現しました。その流れで、リハビリテーション・ロボットとして知られる「HAL®」は、大病院だけでなくリハビリに力を注ぐ民間病院等でも導入が顕著に進んでいます。2016年1月から保険適用の対象となったのは①筋委縮性側索硬化症(ALS)、②脊髄性筋萎縮症、③球脊髄性筋委縮症、④シャルコー・マリー・トゥース病、⑤封入体筋炎、⑥遠位型ミオバチー、⑦先天性ミオバチー、⑧筋ジストロフィーの8疾患になります。

 この他、医療機関・福祉施設等での実用化が進んでいるのは、人型のスマートロボット「Pepper」です。Pepperは医療行為やリハビリ、介護行為等を行うわけではく、コンシェルジュ機能を強化するのが目的で活用されています。レンタルが可能であり、医療機関だけでなくショッピングセンター等にも導入が進んで来ました。

 技術もどんどん進化しており、タッチパネルの画面から患者が簡単な質問に答えるだけで、疾患のリスクを判定したり、受診を促したりする疾患啓発の機能が追加されたものも開発されており、認知症や睡眠時無呼吸症候群、鼠径ヘルニア、夜間頻尿等に対応。更に自走機能のあるPepperも今後、開発される見通しです。

 Pepperを導入している総合病院事務職員に聞くと「可愛らしいPepperは、子ども達や高齢者に大人気で、外来待合のアイドル的な存在です。仕事が省力化され、医師や職員の負担軽減にも繋がっている」と評価されています。Pepperは2018年3月に宇治市に開設された「京都認知症総合センター」の認知症カフェ「ほうおう」にも設置され、認知症の方や家族に親しまれています。認知症の方との相性の良いPepperは、認知症ケアに注力する精神科系医療機関等にも是非、活用を検討して頂きたいロボットです。

 医療用ロボットの技術革新は近年、目覚ましく進化しており、新たなロボットの開発・販売に向けた動きも活発化しています。新たな医療用ロボットの開発が対象となる診療科・疾患も多様化し、治療のサポートのために最先端技術のロボットの活用が、欠かせない時代が既に到来しています。ロボット技術が更なる進歩を遂げると予想される近い将来、AI(人工知能)と連動した「遠隔診療の発展」等にも大きく貢献することが、多くのロボット工学を専門とする研究者からも示唆されています。

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【掲載】2020年10月23日