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インタビュー
精神障害にも対応した地域包括ケア・システムの構築に向けて
“入院”中心から“地域生活”中心の仕組みづくり

精神保健福祉士・公認心理師 横井 美佳先生
(聞き手:医療ジャーナリスト:冨井 淑夫)

「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会報告書」において、“新たな地域精神保健医療体制のあり方”が示されました。
ここでは、その取り組みである「精神障害にも対応した地域包括ケア・システムの構築」について、精神保健福祉士・公認心理師の横井美佳先生に、ご紹介いただいています。

保健所がリーダーシップ 精神保健福祉センターがシンクタンクに

これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会報告書(概要)

 出典:厚生労働省「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会報告書(概要)」(平成29年2月8日)をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000152027.pdf

―― 国は、2017年2月に新たな「地域精神保健医療体制のあり方」として、①精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築②多様な精神疾患等に対応できる医療連携体制の構築③精神病床の更なる機能分化――の3点を打ち出しました。当該報告書が出されてほぼ3年が経ちましたが、精神障害の方に対応する地域包括ケアシステム(同システムに略)の構築は、各地域では多くの課題が残されており、未だ道半ばとの印象ですが・・・。

横井: 同システムのコンセプトが、地域住民に周知されていない実態がありますし、精神障害者に対する理解が十分に進まず、未だ一部に偏見や差別が温存されている背景があります。少し飛躍しますが、パラリンピック等でも身体障害者のアスリートの方々の“頑張り”にはスポットが当たり大変、注目を集めていますが、様々な領域で頑張っている知的障害の若者たちも多いのに、マスコミ等で取り上げられる機会は多くはありません。企業の障害者雇用等も身体障害者に対しては拡大される流れですが、精神障害の方に対しては余り門戸が開かれない。こうした、世論の無理解が精神障害の方々へのスティグマを助長する要因にもなってきたようにも感じます。

―― 地域住民の「理解」は非常に重要で、地域によっては精神疾患患者の病院退院後の基盤整備が進め難い原因の一つにもなっています。

横井: 同システムの構築に向けては都道府県の精神保健福祉センター、保健所、市町村、医療機関、基幹相談支援センター等が連携体制を構築して進めていくとされています。そして、厚生労働省は保健所の役割を重視し各圏域の保健所がリーダーシップを担うと共に、都道府県の精神保健福祉センター(以下、同センター)は体制整備の推進役と同時に、シンクタンクの役割を果たすことを期待しているようです。

―― 精神保健医療福祉に限定しない同システムの場合、どの機関がリーダーシップを担うのかは極めて曖昧でしたが、精神障害者の場合は保健所や同センター等の公的機関が中心的な役割を担当し、内容も具体的に示されています。

横井: 連携の「輪」に参加する行政機関や事業所等が余りにも多いので、それらが「どう上手く連携出来るのか?」が課題で、推進のカギを握るのでしょうね。当然、自治体毎に医療・福祉資源の充足度や、連携力の強度には差があるし、自治体職員の精神障害者に対する理解度も異なります。各自治体がどのような方針を打ち出すかが重要なポイントであり、まずは保健所がリーダーシップを発揮しないと回らない仕組みです。各保健所の力量が問われるのは間違いありませんね。

長期入院の是正・再入院率の減少という国の課題と連動

なぜ精神障害にも地域包括ケアが必要か

 出典:厚生労働省「社会保障審議会障害者部会」(平成30年6月27日)資料2をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/000307970.pdf

―― 同システムを議論する上で、精神科病院の長期入院の是正という側面は無視できません。精神疾患の入院患者の在院期間は1年以上が約17万人、うち5年以上は約9万人であり、退院者の約4割が1年以内に再入院されているとのデータがあります。同システムの構築は、再入院率減少が課題の厚生労働省の施策と連動しているようにも感じます。

横井: 同システムの推進は、諸外国に比べて格段に長い入院日数や病床の削減にあることは想像がつきますが、現状、長期入院の患者さんは増加する認知症の方も含めて、社会的入院が多くを占め、「帰る場所がない」現実があります。もちろん、入院時から在宅移行を進める環境作りが大事なことは理解していますが、私のように精神科の医療現場でケアに携っている立場からすると、長期入院の患者さんを地域に戻し、在宅で末永く生活して頂く体制づくりの難しさは、常に実感する毎日です。今後、精神障害を持つ患者さんは最初から短期入院を目標に入退院計画を作り、入院中から地域とは分断されない取り組みが肝要です。

―― 「入院医療中心から地域生活中心へ」の流れは、2004年の「精神保健医療福祉の改革ビジョン」から一貫した国の考え方ですが、当時、国が目指した「退院可能な入院患者約7万人が10年間で解消可能」との目標達成には至っていません。厚生労働省は精神障害者の多くが「必要な地域サービスを十分に利用出来ていない」ことが、再入院率の高さに繋がっていると捉えています。

横井: 精神保健福祉の現場で仕事をする立場からは、必ずしも再入院は否定すべきことではありません。精神疾患は完治が難しい領域であり、「寛解」と言う言葉を使いますが、治療が必要な場合は入院すべきだし、病状が安定すれば退院して在宅療養に移行する流れになりますが、患者さんが再度、調子が悪くなった場合は、再入院して頂いた方が良い結果を招くことも多いのです。
精神科医療では「回転ドア現象」と呼ばれ、頻回入院については否定的に語られることが多いのですが、無理をしないで患者さんには、ケースバイケースで対応することが大事です。患者さんが退院後、地域サービスを利用出来ずに再入院するのは、家族等、周囲の人たちが社会資源に対する知識の乏しいこと。また、支援を得られる家族が近隣に不在の場合、家族の代わりに患者さんの状況確認や、コミュニケーションを取ることの出来る人がいないと、適切な地域サービスを受けることが出来ないことが多いと感じます。
同省のデータによると退院困難者の約3割が「居住・支援がないため」としていますが、精神障害者が地域で暮らせる場、「住まいの確保」が同システムの重要な構成要素の一つとされているのです。

熟練したピアサポーターが 同システム構築の一翼を担う

精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築推進事業、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築支援事業、

 出典:厚生労働省「全国厚生労働関係部局長会議」(令和2年1月17日)社会・援護局 障害保健福祉部資料をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/topics/2020/01/tp0107-1.html

①構築推進事業(地域生活支援促進事業)・②構築支援事業――の2つの事業をスタートさせ、具体的な事業内容が示されています。①に関しては、障害保健福祉圏域毎の保健・医療・福祉関係者による「協議の場」の設置。②では地域移行に実践経験のあるアドバイザーの設置等が謳われています。アドバイザーは広域と都道府県等密着型とがあり、この2つが連携して同システムを進めていくとの話です。

横井: 「協議の場」設置の主体となるのは都道府県の精神保健福祉センターです。そこでの「協議の場」を活用して、保健・医療を起点とした基盤整備及び福祉を起点とした基盤整備を行っていくことを目指しています。そして、前述したように都道府県主管課に専門的立場から、地域精神保健福祉施策の計画的推進に対する企画立案や、保健所及び市町村や医療機関、福祉事業所等の関係機関への技術援助、人材育成、効果的な地域精神保健福祉活動を展開するためのノウハウや情報提供等の役割を求めているのです。

―― シンクタンク機能ですが、日本全国の同センターには、現状、そこまでの機能が備わっているのかは疑問ですが、予算を付けて事業を進めていこうとする段階ですね。

横井:「協議の場」を作ることについて、最大の課題は、多忙な仕事を抱える数多くの人びとが「一堂に集う」ことが可能かということ。全員参加のカンファレンスが、本当に出来るのか等、実際の運営に当たっては、解決すべき課題は山積しています。

―― 同省も机上では説得力のあるプランを作るのですが、多くのことを一気にやろうとすると、実現は難しくなります。運用レベルになると、全員参加のカンファレンスが困難なことから、テレビ会議等でも良いという流れになってきました。「関係者間では、情報やノウハウの共有を図るためにポータルサイトの設置等を行う」とされていますが、効率化のためにICTを活用する動きは、同システムにおいても今後、加速していくでしょう。

横井:のアドバイザーについては、精神障害を抱えた方への対応に熟練した精神保健福祉士や社会福祉士、看護師等が想定されますが、この分野で実践経験のある人は限られるので、各地域で十分なマンパワーが確保できるのかが課題でしょうね。精神障害を抱える方への偏見や差別意識が根強い地域も散見されますが、それが医療関係者の中から発せられたケースも、私は見た経験があります。精神障害を抱えた方へのケアの経験のない医療従事者、介護職等が、精神障害を有する方へのサービス提供を敬遠する状況も、起こり得ないとは言えないのです。
ポータルサイトの利用等は、同システムの組織が上手く機能し始めて活用出来るもので、そこに至るまでの課題が山積しているわけです。

―― やはり、日本は各地域で障害を持つ方々を支える相互扶助の仕組みが十分に構築されていないことから、各自治体が同システムを推進する上で困難さが付きまとう状況があると推定されますね。

横井:ただ、私は今回、「ピアサポートの活用に係る事業」と明記されているのが非常に興味深く、注目しているのです。同システムの中では保健所が基幹相談支援センターと協力し、ピアサポーター・ピアスタッフを養成して、その支援体制を整備し、基幹相談支援センターはピアサポーターを実際に活用するための仕組みづくりを担います。
傾聴活動等を担うピアサポーターは、従来はがん患者さんのサポートを中心に活動してきましたが、近年は認知症の方のケア、更には障害福祉サービスの領域等においても活躍する範囲が拡がってきました。例えば、熟練したピアサポーターが不在の家族の代わりに、生活支援が可能な体制を作ることが出来れば、精神障害を抱える方が、病院を退院後、在宅サービスを利用し、地域で穏やかに末永く過ごせる環境づくりの一翼を担えると思っているのです。

最も重要なことは精神障害を抱える人たちへの住民の理解

―― それでは基本的に公的機関が主導する同システムにおいて、民間医療機関等が、どのような役割を果たすのかを考えてみたいと思います。

横井: 私も精神科を標榜する外来専門の診療所で仕事をしてきましたが、介護事業所等を併設していなくても、必要に応じて障害者年金の手続き、障害者手帳申請のお手伝い、財産管理に係ること等について、サポートさせて頂く機会はあります。精神疾患の患者さんが高齢化し認知症になり、就労出来なくなった時は、生活保護の受給手続きを支援するのは、当たり前にやっていることです。例えば、医療機関が就労支援事業を行っていなくとも、患者さんを地域の就労支援事業所に紹介することは可能ですし、適切な社会資源や医療資源等に「繋ぐ」役割は果たせるのです。各々の医療機関が、出来ることから行動を始めてみれば良いと考えます。アウトリーチや家族支援等の事業等は必要ですが、医療機関の機能や規模によって出来ることは左右されます。自治体、保健所等と積極的に意見交換を進めながら、各々の圏域に合った同システムの構築に向けて“オール地域”で協力体制を作って頂きたいと考えます。

―― 最後に“まとめ”をお願いします。

横井: 精神障害にも対応した同システムの推進については、「精神障害の方が地域で出来るだけ長く、安心して健やかに生活して頂く」ことを目指し、地域で共生していく中で、障害を抱えた方々への住民の理解が一番大事で、それなくしては進まないこと。一方で近年、統合失調症の患者さんのデポ剤等、良質の精神病薬が多く開発されており、患者さんの症状が改善され、在宅での生活が進め易くなったことも指摘しておきます。加えて、在宅移行した精神疾患の患者さんのサポートに向けて、全国で活躍するピアサポーターや、ボランティアの方々の積極的な参加を期待したいと思います。

横井 美佳(よこい・みか)
〔プロフィール〕
精神保健福祉士、公認心理師
愛知県出身。名古屋市立大学院経済学研究科博士前期課程修了(経済学修士)。
株式会社矢野経済研究所にて市場調査業務に従事した後、医療分野に転身。精神科系医療機関で精神保健福祉士、公認心理師として活躍する。傍ら、多くのメディアに医療マーケティング、医療コミュニケ―ション等をテーマとするレポートを多数、執筆。元流通科学大学、梅花女子大学非常勤講師を務める。

横井 美佳先生

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。
【掲載】2020年10月09日