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インタビュー:医療機関向け設備投資減税の全貌
消費税率10%引き上げに伴い、拡充・新設された3本建て設備投資減税について

(公社)日本医業経営コンサルタント協会 京都府支部 支部長・税理士 船本 智睦先生
(聞き手:医療ジャーナリスト:冨井 淑夫)

設備投資の消費税負担が病院経営を圧迫するリスクを軽減するため、消費税10%引き上げに伴って3本建ての設備投資減税が導入されました。
ここでは、税理士で医業経営コンサルタントとしてもご活躍の船本智睦先生に、この3つの設備投資減税についてインタビュー形式でご紹介いただいています。

有料老人ホーム・サ高住の食事提供、
「1日1920円」・「1食640円」以下という軽減税率適用ルール

―― 本題に入る前に、2019年10月からの消費税率10%の引き上げに伴い、新たに導入された軽減税率について、少しお聞きしたいと思います。
今回、軽減税率の対象となったのは飲食料品と新聞の2つですが、医療法人等には新聞は経営的影響は殆どないと想定します。当面、インパクトがあると考えられるのは飲食料品ではないでしょうか?

船本: 飲食料品については複数税率での対応が必要になります。要するに、「食品表示法」に規定される飲食料品とは「人の飲用または食用に供されるもの」で軽減税率の対象となりますが、酒類は除外されます。
そもそも、外食やケータリングは食品表示法上での飲食料品とは見なされず、国は「サービス提供」と捉え、軽減税率適用には該当しないとの見方です。一方、宅配やテイクアウトは軽減税率の対象になります。
そして、医療保険や介護保険で食事療養費算定の対象となる医療機関、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、デイサービス、認知症グループホーム等は、もともと消費税は非課税の扱いです。複数税率の可能性があるのは、有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅(サ高住)等で提供される食事で、医療法人グループ等で当該施設を運営している医療機関は新税対応に留意して頂きたいと思います。ただ、その点は国も配慮をしており、軽減税率の対象となるルールを新たに設定しました。

―― 具体的には?

船本: その一定の条件とは、利用者1人につき消費税抜きの「1日3食累計額1920円」・「1食当り640円」以下の要件を満たしている施設の場合は、軽減税率の対象となります。仮に1日の累計額が1920円以下でも、夕食のみ640円を超えていれば、軽減税率適用には該当しません。一方、非常にややこしいのですが、有料老人ホームやサ高住の場合、前出の金額基準を満たしている場合に限り、ケータリングの食事提供でも軽減税率が適用されます。

―― 国は「例外の例外」と言っていますが、ケータリングを利用する当該施設が多いことから、このような例外規定を設けているのでしょうね。

船本: 例えば、“おもちゃ付きのお菓子"のように食品と食品以外の資産が一体となったものを「一体資産」と呼び、消費税率が分離できないことから、「税抜き価格が1万円以下」で「食品の価額に占める割合が2/3以上」のケースに限定して、全体が軽減税率の対象になります。
ただ、食材等の仕入れについては、施設が食事を内製化している場合は軽減税率が適用されますが、外部企業にアウトソーシングしている場合は、事情が異なります。只でさえ、穀物類、砂糖・塩等の値上げ等で、食材コストが高騰し、労働者の最低賃金も上昇する中で、給食サービス会社の多くは経営的に厳しい状況に置かれています。その上、仕入れコストに消費税が上乗せされると、医療機関等に今後、業務委託費の値上げを求めることも想定されます。
その場合、医療・福祉施設等は、改めて精緻な経営シミュレーションを行って、食事サービスを改めて、内製か外注委託にするかの判断に迫られる場面も出てくるでしょう。

「働き方改革税制」でカギを握るのは 短縮計画達成度の評価

地域における医療提供体制の確保に資する設備の特別償却制度(医療機器に係る特別償却の拡充・見直し)

 出典:厚生労働省「平成31年度税制改正の概要」(平成30年12月)をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000462285.pdf

―― さて本題に入りますが、消費税10%への引き上げに伴い、設備投資関連の消費税負担が病院経営を圧迫するリスクを軽減するために3本建ての設備投資減税が導入されました(図表5)。それらは、①医師及び医療従事者の働き方改革の推進(特別償却率・取得価格の15%)②地域医療構想の実現のための病床再編等の促進(同8%)③医療用機器の効率的な配置の促進(同12%)――で、従来、国が進めてきた医療政策を税制により促すのが狙いです。何れも、「青色申告書を提出する法人または個人」が対象になり、「平成31年4月1日から令和3年3月31日」と適用の期限が切られています。税務当局が地域医療政策にコミットするのは過去にはないことで、賛否両論あると思いますが。

船本: 理解して頂きたいのは、「特別償却」とは「税額控除」とは異なる概念であること。そして、収益が悪化しキャッシュフローが回らず、納税出来ない医療法人病院・個人医院等に対しては、使いにくい制度であることを、まず指摘しておきたい。多額の税に対してキャッシュで納税の可能な事業者には優遇措置にはなりますが、慢性的な資金不足に陥っている医療機関は、拙速に導入すると、更に収益を悪化させかねないリスクも内包しています。

―― それを念頭に、①~③を見ていくと、償却率が15%と最も高い①については、「取得価額30万円以上」が対象です。「勤務時間短縮用設備に係る措置」として勤怠管理システム等の「労働時間管理の省力化・詳細化」に資するもの。「医師の行う作業の省力化」に資する設備として、AIによる音声認識・カルテ自動入力ソフト等。「遠隔医療を可能」にする遠隔医療システム。「チーム医療、タスクシフト」等に貢献する院内搬送用ロボット等の類型があり、非常に幅広い。これらのハード・ソフト等の購入には、非常に高額な設備投資が必要と予想されますので、15%の特別償却のメリットは大きいと思われます。
特に前回の診療報酬改定で「精神科オンライン在宅管理料」が新設され、遠隔診療と相性が良いとされる精神科系医療機関には魅力かもしれません。

船本: 厚生労働省が進める医師や医療従事者等の「働き方改革の推進」と連動し、税制上でも支援するという考え方は画期的です。ただ、適用の条件としては、「都道府県に設置された勤務環境改善センターの助言を受けて、医療機関側が“医師等勤務時間短縮計画"を作成し、同センターによる専門的見地から確認を得ることが義務づけられます。私が気になるのは、同短縮計画作成は当然、行うべきことですが、医療機関側へ都道府県から同計画の厳格な運用を迫られると、病院経営的にマイナスに作用することが心配されます。

―― その点では、少ない医師数で病院を運営している中小民間病院や、過疎地の有床診療所等では、同短縮計画に縛られ過ぎると厳しい。税務当局は同短縮計画作成はあくまでも努力目標であり、結果を厳格に問うものではないとも言っているようですが、都道府県単位の申請になるので、同短縮計画の達成度合いが各地域で、どう評価されるのかは、正確には分かりません。

船本: 当該条件が組みこまれると、医業経営が適切に行われている医療機関だけが優先的に特別償却を受けられることになります。その点では、かなり強めのバイアスがかかった促進税制のように見えてしまいます。

「地域医療構想」税制が促す医療経営のパラダイム・シフト

―― ②は①と同様に拡充されたもので、正に国が進める地域医療構想実現に向けて病床再編を促すことを目指したものです。そのために、同構想区域内で取得した建物費用や、新築、改築、増築、転換に該当する工事費用等に8%の特別償却が導入されました。この場合、医療機器や土地の購入は特別償却の対象外です。元来、国は「病院機能の再編」等については「地域医療介護確保推進基金」等の補助金事業で対応してきましたが、これは税制により促そうとするものです。

船本: 地域医療構想に向けて正に医療機関の「機能分化と連携」を促進する税制ですが、当該工事や建物の取得についての具体的対応方針を当該地域の「地域医療構想調整会議」に提出し、確認されることが重要なポイントです。

―― 取り組みが本当に「地域医療構想の推進」に寄与しているのか、同調整会議の判断に委ねることとなりますが、申請の際には具体的対応方針に加えて、「当該建物等の工事計画等の工事の概要や、範囲の特定できる書類」、「都道府県から確認を受けた書類の写しの添付」等が要求されます。ただ、当該書類等については、医療機関の開設申請等に係る書類や、地域医療構想調整会議に提出する書類等、既存の書類の活用でも可と、幾分、簡素化されてはいます。
精神科病院では2016年の診療報酬改定で、「地域移行機能強化病棟入院料」が新設されました。精神科病床の段階的なダウンサイジング(削減)が届出の条件ですが、それに伴う機能再編のリニューアル工事等は、正に精神科病床の「機能分化と連携」を促すものであり、広義で捉えれば特別償却の対象として、考えられなくもありません。同入院料は2020年3月までの新規届出期限を設定していましたが、2020年度改定で2024年3月末まで延長されます。

船本: この特別償却を導入しようとするには、医療経営を抜本的に見直す、地域医療への貢献を最重要視し、ダウンサイジング等のパラダイム・シフトに本気で取り組もうとの意志のある医療法人等にとっては“追い風"と言えます。
しかし、リニューアル・コストが軽減されるとの発想だけで安易に導入を考えるのは、自殺行為になり得るリスクも抱えています。確かに地域医療構想の具体的対応方針に対して再検証要請対象医療機関(公立・公的424医療施設)リストが公表される等、全国、多くの病院は機能再編を急がれています。そうした医療環境下で、本当に病床機能再編に有益と判断した医療機関のみが、適切なタイミングで手を挙げて頂ければ、良い制度だと思っています。

アウトカム評価が導入された「配置効率化」の仕組み

―― 前出・③に関しては、従来から存在した制度で、今回は現行の期限を2年間延長するものです。「高度な医療の提供」に資する高度医療機器等の購入が対象で「取得価額500万円以上」。厚生労働大臣の指定を受けてから、2年を経過していない機器が該当します。特別償却率は12%です。
今回、全身用CT・MRI導入に対して新たに「配置効率化」という仕組みが導入されたのが重要な改正ポイントです。

船本: 「配置効率化」の条件とは、①既存の医療用機器の買い替え後の全身用MRI・CTの利用回数が前年1月から12月までの買い替え前の利用回数より、「MRIは月40件・CTは月20件」を上回っている②新規購入の場合は他の病院・診療所と連携して共同利用を行うことを外形的に確認出来ること――です。この各々の条件を満たす以外は、「地域医療構想調整会議」の協議に委ねられ、当該機器の買い替えや購入が必要と判断されなければ、特別償却の対象にはなりません。当該機器の稼働に対し具体的なアウトカム評価と、医療機関連携による共同利用の謳われているのが特徴です。
正に「全身用MRI・CTが適正に稼働し、地域医療に貢献しているのか?」が問われるのです。当該機器の共同利用の推進も診療報酬ではなく、税制で実施したのは過去になかったことで、厚労省の進める施策と明らかに連動しています。私見ですが、国は公的介護保険と同様にエリア毎に拠出する診療報酬の内容を変更する、或いは地域毎の高度医療機器の数や稼働件数によって報酬単価を変えていくような施策を今後、検討していく可能性は否定できません。深読みし過ぎるかもしれませんが、③のアウトカム評価は、そのための布石のようにも見えます。

―― 最後に“まとめ"をお願いします。

船本: ①~③まで3種類の設備投資減税のスキームに共通しているのは、各地域において「医療法人単体で、医療事業を担うのではない」との国のメッセージ。何れも、「地域における医療供給体制の安定確保」を目指したものです。つまり、一医療機関の自己完結による「個の視点」ではなく、高額医療機器や“働き方改革"を促す設備・機器導入、新築・リニューアル工事等に対しても「地域医療供給体制全体」の視点で、他の医療機関等との「連携・協働・協調」を前提に、取り組んで頂くことが大事です。更に、今後の税制改正等でも同様の流れは続き、地域医療構想等による病院・病床の再編を意識した設備投資・人員計画が必要になり、自院の経営資源をどのようにコントロールするかの経営判断が、医療法人等の経営担当者に求められていくと思います。

船本 智睦先生(ふなもと ともちか)
〔プロフィール〕
京都紫明税理士法人の代表社員 税理士。医業経営コンサルタントとして多数の病院、診療所等の医療機関に係る。2017年から公益社団法人 日本医業経営コンサルタント協会 京都府支部・支部長に就任。TKC医業経営システム研究会 京都府リーダー。著書に『医療と消費税』(徳間書房・2013年)、共著書に『医療経営白書』(日本医医療企画・2014年)

船本 智睦先生

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。
【掲載】2020年06月26日