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「働き方改革」の推進で位置づけられた「タスク・シフティング」の拡充と診療報酬の動向

《2020年3月5日現在》

医療ジャーナリスト:冨井 淑夫先生

2020年度 診療報酬改定では、「医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進」が重点課題としてあげられました。ここでは、医療ジャーナリストの冨井 淑夫氏に、精神科系の医療機関で働く職員への影響や、ICT等への「タスク・シフティング」に係る改正ポイントについて、検証していただきます。

タスク・シフティング等に41.8億円の最大の予算規模を充当

医療提供体制の改革に係る令和2年度概算要求の概要

 出典:厚生労働省「中央社会保険医療協議会総会」(令和元年9月25日)資料総‐2をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000550468.pdf

 厚生労働省(以下、同省に略)の令和2年「予算概算要求」は総額32兆6,234億円。令和元年予算総額は31兆9,461億円であり、前年比で僅かながら、6,539億円の増額となった。概算要求の主な事項の一つとして挙げられたのは、「質が高く効率的な医療提供体制の確保」であり、それは(Ⅰ)地域医療構想の実現に向けた取り組みの推進(Ⅱ)地域間の医師・診療科間偏在の解消など医師偏在対策の推進(Ⅲ)医師・医療従事者の働き方改革の推進――の3つを「三位一体で推進」することが謳われている。そして、同概算要求では(Ⅲ)に対して総額75.6億円(地域医療介護総合確保基金21.7億円)〔以下( )内は同基金の総額〕の予算を充当。うち「働き易く働きがいのある職場づくりに向けた環境の整備」に61.8億円(同15.3億円)が充当された。

令和2年度概算要求における医師・医療従事者の働き方改革の推進

 出典:厚生労働省「医師の働き方改革の推移に関する検討会」(令和元年9月2日)参考資料2をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000543085.pdf

 その内訳は、タスク・シフティング等医療勤務環境改善推進事業に対して41.8億円(3.9億円)という最大規模の予算が充てられ、全予算の約60%、特定行為に係る看護師の研修制度の推進 予算6.9億円(5.9億円)、Tele-ICU体制整備促進事業 予算5.5億円――がそれに続く。

 「医師の働き方改革に関する検討会」が2019年3月28日に取りまとめた報告書では、「医師の実施している業務を他の職種に移管する(タスク・シフティング)が一定程度、見込まれるとともに、タスク・シェアリング(業務の共同化)も必要とされており、タスク・シフティング、タスク・シェアリング等に係る先進的な取り組みを周知し、普及させていくことが重要」としている。

タスク・シフティング等医療勤務環境改善推進事業

 出典:厚生労働省「医師の働き方改革の推移に関する検討会」(令和元年9月2日)参考資料2をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000543085.pdf

 タスク・シフティング等医療勤務環境改善推進事業の内容だが、2020年診療報酬改定に影響するのは「当該補助事業で得られた好事例や効果の周知・普及」の部分であり、具体的な医療機関の取り組みを参考にしながらタスク・シフティング、タスクシェアリングに係る診療報酬の制度設計が進められてきた。

 従来から医師の業務の中で他の専門職にシフトしたい8業務として、同省は「初診時の予診」、「検査手順の説明や服薬の指導」、「検査手順の説明」、「入院の説明」、「静脈採血」、「静脈注射」、「静脈ラインの確保」、「尿道カテーテルの留置」等を挙げて医療団体等に業務の移管を促してきたが、2018年7月の同検討会で公表された実施状況では、これらの何れも「実施している」が少数派であり、「予定なし・無回答」が7~8割を占める等となっている。厚生労働省は、有効な方策として、まずは医療現場での成功例等を参考に進めていこうとしているのであろう。ただ、同整備に係る予算で「特定行為に係る看護師の研修制度の推進」に6.9億円(同5.9億円)が充当されているのには注目される。前出・8業務の多くを担うと想定されるのは正に看護師であるからだ。

段階的に拡充されてきたタスク・シフティングに係る診療報酬

勤務環境改善に関連する診療報酬の対応(主なもの)

 出典:厚生労働省「中央社会保険医療協議会総会」(令和元年5月29日)資料総2‐1をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000513118.pdf

 従来の診療報酬改定では「医師の勤務環境改善・働き方改革に資する診療報酬改定項目」の主なものとして、上記図表にあるように10年以上前から、段階的に拡充される流れがあった。タスク・シフティングに係る診療報酬では大きく、①職種間のタスク・シフティング②ICT等へのタスク・シフティング—―の2つに分類することが可能だ。その代表的な項目としては、「十分な人員配置・設備を備えて総合的・専門的な急性期医療を24時間提供出来る体制に加え、医療従事者の負担軽減・処遇改善に資する体制を備えた」場合に算定可能な「総合入院体制加算」(1日につき)。「病院勤務医の負担軽減・処遇改善を目的に、医師の事務作業を補助する専従者を配置した」場合に評価される「医師事務作業補助体制加算」(入院初日)。「看護職員の負担軽減・処遇改善を目的に、看護業務を補助する専従者を配置した場合」の「急性期看護補助体制加算」(1日につき)。「採血、静脈注射、留置針によるルート確保について、原則として医師以外が実施、多職種からなる役割分担推進のための委員会等を設置した場合に所定点数の100分の40~160に相当する点数算定の可能」な「手術・処置の休日・時間外・深夜加算」。「多職種チームで栄養管理を行った」場合に算定可能な「栄養サポートチーム加算」(週1回)、「薬剤師が病棟等において病院勤務医等の負担軽減、薬物療法の有効性、安全性の向上に資する薬剤関連業務を実施している場合」に算定可能な「病棟薬剤業務実施加算」(1日につき)。――等が存在する。更にICT等へのタスク・シフティングに係る診療報酬としては、2018年改定でオンライン(遠隔)診療に対して「オンライン診療料」、「オンライン医学管理料」、「オンライン在宅管理料」、「精神科オンライン在宅管理料」(何れも1月に付き)等が新設されたのは周知の通り。この他「定期的・計画的に訪問診療を実施していた患者でICTを利用し、看護師と連携して死亡診断を行った」場合の「在宅患者訪問診療料 死亡診断加算」。その他、遠隔モニタリング加算として、「心臓ペースメーカー指導管理料」、「在宅酸素療法指導管理料」、「在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料」等が現存する。

 「栄養サポートチーム加算」、「看護補助者の配置」等の評価が新設された2010年の診療報酬改定を皮切りに現在まで、評価対象となる「チーム医療の拡大」に加え、「タスク・シフティングに係る評価の充実・拡大」が推進された流れを紹介してきた。2018年診療報酬改定はタスク・シフティングに係る新設項目がドラスティックに導入されたわけではなかったが、「医師事務作業補助体制加算1・2」何れも一律50点の引き上げや、委員会を設置しての負担軽減等の計画作成の要件化。同様に「急性期看護補助体制加算」「看護補助加算」引き上げの他、障害者病棟においても「看護補助加算」、「夜間看護体制加算」を新設する等、厚生労働省のタスク・シフティング推進への意気ごみが伺えた。前出・医師等の負担軽減に係る報酬項目は急性期一般病院でのみ算定可能なものが大半を占めたが、それが徐々に精神科系医療機関にも拡充される流れが出来てきた。

 さて、厚生労働省は2020年2月7日、2020年診療報酬改定の内容を決定した。ここからは、本サイトが精神科医療情報サイトであることから、主に精神科系医療機関に影響のある職種間、またはICT等への「タスク・シフティング」に係る改正ポイントを検証していくことにしよう。

「医師事務補助」対象病棟が精神科領域で拡大
公認心理師による小児カウンセリングの評価

 2020年診療報酬改定は、多くの専門家の指摘によると、「働き方改革」改定と総括される。精神科系医療機関にとって「タスクシフティングに係る改定項目」(以下、当該項目に略)で最も大きなトピックスは、「医師事務作業補助体制加算」(以下、同加算)が現行、「精神病棟入院基本料」(50対1、75対1、100対1に限定)「精神科急性期治療病棟入院料1」、「精神科救急入院料」、「精神科救急・合併症入院料」でのみ算定が認められていたが、今改定から「児童・思春期精神科入院医療管理料」、「精神療養病棟入院料」、「認知症治療病棟入院料」、「地域移行機能強化病棟入院料」、「精神科治療病棟入院料Ⅱ」等の病棟にも対象が大きく拡大されたこと。この他、同加算は有床診療所や特殊疾患病棟等でも算定可能になったが、同加算点数は「“15対1”から“100対1”」まで、どの病棟区分においても軒並みアップだ。

 某精神科病院事務長は、「当初、同加算は救急医療を担う病院等の勤務医の負担軽減を目指して導入されたものだが、厚生労働省も精神科医療現場で働く医師の勤務環境がどれだけ過酷かを理解し、対象拡大に繋がったのは大きな前進。ただ、精神科病院のクラーク導入は端緒が開いたばかりで、実際には熟練した人材確保が困難な実態がある」と指摘する。

 もう一つは「栄養サポートチーム加算」が今改定から、結核病棟や特定機能病院等の入院基本料と共に、「精神病棟入院基本料」でも算定可能になったこと。

 精神科病棟における多職種・栄養サポートチームの活躍は、「栄養管理の質」向上に加えて、長い目で見れば医師や管理栄養士等の負担軽減にも結実する。

 「業務の移管」の観点から注目したいのは「小児特定疾患カウンセリング料」。現行では、医師によるカウンセリングが「月の1回目が500点・同2回目が400点」の報酬設定だったが、今回、新たに「公認心理師によるカウンセリング料」(200点)が設定された。初回は医師が担当する必要があるが、その後は「医師の指示の下で、当該医師の治療計画に基づき、公認心理師が20分以上のカウンセリングを実施した場合」に算定可能だ。この改正ポイントは、「精神科医1名体制」で、定期的に小児カウンセリングが必要な患者を数多く抱える精神科・心療内科診療所等には、メリットが大きいと考えられる。適切な患者を公認心理師に一部、業務移管することで、より多くの患者に対応可能になるからだ。

 この他、「地域移行機能強化病棟」現行の施設基準「専従の精神保健福祉士2名以上(同病棟入院患者が40名以上の場合、3名以上)」の要件が緩和、「常勤専従の精神保健福祉士1名以上+常勤専任精神保健福祉士1名以上」(同入院患者40名以上の場合、2名以上)の組み合わせでも可能になった。

ビデオ通話によるテレビカンファレンス推進
「特定行為」修了看護師が精神科病院で活躍する日

 「ICTによるタスクシフティング」については、幾つかの報酬項目で現行、要件化されている共同カンファレンスで、「ビデオ通話」を利用したカンファレンスへの参加が可能になった。精神科に係る当該報酬項目としては、①「精神科在宅患者支援管理料1・2」と制度の立て付けが同様の「精神科重症患者支援管理連携加算」(訪問看護療養費)」②「ハイリスク妊産婦連携指導料1・2」、③「精神科退院時共同指導料1・2」が、それに該当する。「初回は対面で実施し、2回目以降は対面実施への参加が困難な場合は、ビデオ通話の可能な機器を用いて会議に参加可能」と規定された。

 ①は、算定において週1回以上、精神科在宅患者を支援する専任の医療職等のチームが「週に1回以上のチームカンファレンスを行う」ことと、保健所または精神保健福祉センター等と「2ヵ月に1回以上の共同カンファレンスを行う」ことが要件化されている。同一医療施設に勤務する医師、看護師、精神保健福祉士等が「一堂に会する」のはそう難しくないとしても、医療機関のスタッフが当該保健所や精神保健福祉センター等、外部職員と共同カンファレンスを実施するには、各人のスケジュール調整、会議場所の確保、出張することの時間的ロス、交通費発生等の解決すべき難題が生じる。そのため、皆が「集まる」ことには拘泥せず、「テレビ会議等でもOKにする」との改正だ。

 「精神疾患を合併した妊産婦に対し、産科・精神科の連携」を評価するについては、現行、「月1回程度の割合で当該患者の診療方針等について共同カンファレンス実施」の要件がある。参加するチームが多彩で、医師、助産師、看護師等の産婦人科チームと、精神科・心療内科医や保健師・看護師等の精神科チームに加え、必要に応じてPSW、公認心理師、社会福祉士、更には市町村・都道府県の担当者も出席する。月に1回と言えども、これらのメンバーが一堂に「集まる」のは容易ではないことから、ビデオ通話等による参加が可能になった。

 「対面が原則だが、外来または在宅医療を担う医師等の医療関係者の何れかが、患者が入院中の医療機関に赴くことが出来ない場合、ビデオ通話等を用いて共同指導を実施した場合」に算定可能な要件緩和が実施された。

 さて、「地域医療介護総合確保基金」と合わせ12.8億円の予算(令和2年)が付けられた前出・看護師の「特定行為研修」に話を戻したい。同省は2025年までに約10万人の同研修修了看護師の養成を目指していたが、2018年3月段階、日本全国で1000人強の養成に留まっていた。同省は医師にしか出来なかった「38行為」を同修了看護師に業務をシフトしたい考えで、①在宅・慢性期領域②外科術後病棟管理領域③術中麻酔管理領域――の3領域に対して、今年4月より実施頻度の高い「特定行為」をパッケージ化してカリキュラムを簡素化、研修時間も削減して多忙な看護師にも研修を受け易くする改正を行った。厚生労働省は同研修修了看護師養成を「医師のタスクシフティング」の“一里塚”として捉えているようだが、今回、初めて現行の「総合入院体制加算」要件である「医療従事者の負担軽減及び処遇の改善に資する計画」の中に新たな項目として、「同修了看護師複数名の配置及び活用による病院勤務医の負担軽減」が追加された。複数の施設基準の中の選択要件ではあるが、これは重要な改正ポイント。「総合入院体制加算」は現状、急性期一般病院だけに算定が可能な加算だが、同修了看護師の養成が今後、飛躍的に進むとその他の「負担軽減に資する」報酬項目要件等にも適用が拡大される可能性は十分にあると考える。

 精神科系医療機関においても看護師が「手順書に基づき一定の診療の補助(特定行為)」を行って、精神科医の業務負担軽減に貢献するのも遠い日ではなさそうだ。

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。
【掲載】2020年05月29日