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令和2年・精神科 診療報酬改定の新機軸をピンポイント解説

《2020年3月5日現在》

医療ジャーナリスト:冨井 淑夫先生

2020年度 診療報酬改定での精神科系医療機関に係る項目で、特に注目される新機軸をアトランダムにピックアップし、医療ジャーナリストの冨井淑夫氏の取材による医療機関側の声や、中医協での議論の内容等も織りこみながら、ご紹介いただいています。

「目玉」には乏しいものの重要な改正ポイントが“目白押し”

 2020年2月7日の中医協(中央社会保険医療協議会)総会で、2020年度 診療報酬改定の個別改定項目の内容と診療報酬点数が明らかになった。2020年度改定については、多くの専門家等からは、「働き方改革」改定と指摘されるように、主に急性期一般病院における医療従事者の負担軽減や、タスク・シフティング等の「働き方改革」を除くと新機軸に乏しい改定だったと総括されている。精神科における診療報酬に関しては、新設の「目玉」には欠けるものの精神科医療の「機能分化と連携」や「地域移行の推進」、「多様な精神疾患患者への支援」等を更に後押しする意味では、精神科系医療機関には興味深い改正ポイントが数多く織りこまれた印象だ。

 本稿では、スペースが限られることから、国が示す全体の基本的な考え方や、改定率等のマクロ的な動向には敢えて触れない。医療機能毎の体系的な解説ではなく、特に注目される新機軸をアトランダムにピックアップし、筆者の取材による医療機関側の声や、中医協での議論の内容等も織りこみながら、ピンポイントで紹介したい。ただ、精神科系医療機関のICTの活用も含めた「働き方改革」(タスク・シフティング)に係る改定項目については、別途、本サイトで紹介させていただくので、本稿では省略することを、お断りしておきたい。

IR推進法と連動するギャンブル依存症療法の報酬新設
「ハイリスク分娩管理加算」が精神病棟でも算定可能に

ギャンブル依存症に対する治療の評価

 出典:厚生労働省「令和2年度診療報酬改定説明資料等について」(令和2年3月5日)をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352_00001.html

 2018年7月に「IR推進法」を成立させた政府は、その3か月後に「ギャンブル依存症対策基本法」を成立させた。2020年度 診療報酬改定では、「依存症集団療法」の対象疾患に「薬物依存症」(340点)に加えて「ギャンブル依存症」(300点)を追加し、わが国で初めてギャンブル依存症に係る診療報酬が新設された。国が全国に整備を進めるギャンブル依存症専門医療機関が対象で、常勤の医師、看護師、作業療法士等の配置が条件となっている。2019年に開催された中医協の委員からは、「ギャンブル依存症は自己責任であり、公的保険でカバーするのは国民の理解が得られない」等の主旨の反対意見があったが、「IR推進法」等に対応するため、新たに導入されている。

 ただ、厚生労働省のデータ等によると、ギャンブル依存症患者は薬物依存症と共に近年、増加傾向にあり、特にギャンブル依存症は過去4年間で約1.5倍に増加しているとの報告もある。実際に「ギャンブル依存症専門外来」、「ギャンブル依存症デイケア・ナイトケア」等を開設する精神科系医療機関は増えており、マーケティング的には注目すべき領域と言えそうだ。

 長年に亘り依存症問題に尽力してきた精神科医は、「依存症問題を抱える重度のパーソナリティ障害の患者とは、医師の側にも一生付き合っていく覚悟が必要。」と指摘している。

精神疾患を有する妊産婦に対するケア・診療等の充実

 出典:厚生労働省「令和2年度診療報酬改定説明資料等について」(令和2年3月5日)をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352_00001.html

 現行の「ハイリスク分娩管理加算」(3,200点)「産科の体制を備えている医療機関がハイリスク(精神疾患を合併)の妊産婦に対して分娩管理を行った」場合の評価だが、従来は精神科病棟での算定は不可能だった。中医協では「精神疾患が重症であるために、精神病棟での分娩管理の必要な事例」が幾つか示された。2020年度改定では、「ハイリスクの妊産婦が安全・安心な出産を進める観点から、同加算算定対象が精神科病棟にも拡大」された。これは、社会政策的な視点からは、非常に有意義な改正。「精神病棟入院基本料」及び精神科病棟を持つ「特定機能病院入院基本料」を算定する医療機関の加算点数となる。

 また、2018年度改定で新設された精神科外来の「ハイリスク妊産婦連携指導料2」(750点)算定に関して、施設基準に「直近1年間の市町村または都道府県との連携実績1件以上」が求められたが、小規模の精神科・心療内科クリニック等には、地域連携担当の職員等が在籍していないことが多く、自治体職員との連携が困難な状況が中医協の議論でも浮き彫りになっていた。そのため、今改定では「市町村等との連携実績1件以上要件は削除」された。「ハイリスク妊産婦の支援充実」という視点で、非常に意味のある改正ポイントと言える。

精神病棟における退院時共同指導の評価

 出典:厚生労働省「令和2年度診療報酬改定説明資料等について」(令和2年3月5日)をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352_00001.html

 一般病院における「退院時共同指導料」が今回、精神病棟にも設定。新設されたのは「精神科退院時共同指導料」で、「精神病棟に入院する患者が、入院医療を担う(A)当該病院(保健医療機関)の多職種チームと、(B)地域において外来または在宅医療を担う精神科または心療内科を標榜する保険医療機関の多職種チームとが、退院後の療養等について、共同で指導を行った」場合に算定出来る。「精神科退院時共同指導料」12に分かれ、(B)の多職種チームが評価対象となるのが1で、(A)が評価されるのは2。更に(B)の外来・在宅医療を担う多職種チームは、Ⅰ(1,500点)Ⅱ(900点)の2段階に分かれ、入院医療を提供する同指導料2(700点)よりも重点評価されている。

 同指導料1(Ⅰ)精神病棟に入院中の措置入院者等、(Ⅱ)は重点的な支援が必要な患者が対象になるが、この他にも詳細な算定要件があるので、診療報酬点数表を参照いただきたい。

精神科救急・急性期医療の最大のテーマは「クロザピンの普及推進」

精神病棟における質の高い医療の評価

 出典:厚生労働省「令和2年度診療報酬改定説明資料等について」(令和2年3月5日)をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352_00001.html

 2020年度 診療報酬改定における精神科救急及び精神科急性期医療の最大のテーマは、「クロザピン(治療抵抗性抗精神病薬)の普及推進」だ。2020年度改定では「精神科救急入院料1・2」、「精神科急性期治療病棟入院料」とそれに対する「精神科急性期医師配置加算」、加え「精神科救急・合併症入院料」に対して、現行の「措置入院患者、鑑定観察患者、医療観察法入院患者」と同様の扱いで、「クロザピンの新規導入を目的とした入院患者を自宅等移行率(新規入院患者の6割以上が入院日から起算して、3か月以内に退院・在宅移行)の要件から除外」されることになった。

 加えて、「クロザピンを新たに導入するのを目的に、同一病院の他の病棟から転棟してきた患者」に対し「精神科救急入院料1・2」、「精神科急性期治療病棟入院料」、「精神科救急・合併症入院料」の算定が出来るように対象を拡大した。

 転棟後、「当該病棟でクロザピンの投与を開始した日から3か月間を限度に前出の入院料を算定可能」だが、「副作用等でクロザピンの投与を中止した場合でも、中止日から2週間は要件を満たすもの」として算定が認められる。

 2018年の診療報酬改定では、「精神療養病棟入院料」「地域移行機能強化病棟入院料」等のクロザピンの薬剤料を包括範囲から除外し、出来高算定が可能になった。今回の精神科救急・急性期入院医療の改正は、こうしたクロザピン導入促進の流れを更に加速させるものと言えそうだ。

 中医協での報告によると、治療抵抗性統合失調症を有する患者は、退院が困難で入院の長期化を招き易いが、クロザピンによる専門的治療により地域生活へと移行する例も少なくないとされる。しかし、厚生労働省は「クロザピンの使用に当たっては精神科病院と血液内科等を有する医療機関とのネットワーク構築により、地域連携体制を構築する必要がある」としてきた。

 ただ、厚生労働省によるとクロザピン処方の普及が先行している諸外国では、統合失調症患者へのクロザピンを使用する患者の割合が25~30%程であるのに比べて、日本では僅か0.6%に留まっている現状がある。国は精神障害の方にも対応した「地域包括ケア・システムの構築」に向けて、クロザピンの導入促進を精神疾患患者の地域移行を進める“一里塚”として捉えているようにも見える。

 クロザピン以外にも特定の薬剤の導入を誘導し、精神疾患患者の再入院率の低下や地域移行、地域定着を促す改正も実施された。それはLAI(持続性抗精神病薬注射製剤)という高額の薬剤で、維持期の服薬アドヒアランスが低い再発統合失調症患者に対し、LAIの使用が推奨される一方、日本では他の先進諸国に比べ、LAIの使用比率が低いことも報告されてきた。今改定から「精神療養病棟入院料」、「精神科急性期治療病棟入院料」、「精神科救急・合併症入院料」、「地域移行機能強化病棟入院料」において、「LAIが薬剤料の包括範囲から外れ、出来高算定が可能」(投与開始日から60日以内に投与された場合に限定)になった。クロザピンと同様に薬価が高くとも治療に有効であり、患者の地域移行・地域定着の促進に資するのであれば、出来高算定を認めていこうとの同省のメッセージがうかがえる。予定される2022年度改定では、LAIの更なる使用促進策が導入されることも想定される。

精神科急性期医師配置加算の見直し

 出典:厚生労働省「令和2年度診療報酬改定説明資料等について」(令和2年3月5日)をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352_00001.html

 この他、「精神科急性期治療病棟入院料1」における医師の手厚い配置を評価する「精神科急性期医師配置加算」1~3までの三段階に再編された。そして、現行の要件である新規入院患者の自宅等移行率に加え、「クロザピンを新規導入した患者数の実績」が施設基準に導入された。1~3までの算定要件は非常に詳細に設定されているので省略し、公表されている個別改定項目の内容を参照いただきたいが、最上位ランクの同加算1(600点)及び同加算3(450点)にはクロザピンの導入実績が求められる。直近1年間で1「クロザピン新規導入6件以上」3「同3件以上」というもの。クロザピンの導入実績がない医療機関は、2の届出しか選択出来ない制度設計になっている。また、最下位ランク3は前出の自宅等移行率が現行の60%から40%に緩和されている。

 これまで、自宅等移行率60%要件が満たせず同加算の算定件数が伸びなかった経緯があり、裾野を拡げるべくハードルの低い3を新設したと考えられる。

 また、2018年度改定で「精神科救急入院料」を算定する病院は、当該病院の「精神病床数が300床以下の場合は同入院料算定病床は60床以下、300床以上の場合は同2割以下であること」が施設基準に明記された。それには、「平成30年3月31日時点で、現に当該基準を超えて病床を有する場合は届け出ている病床を維持することが可能」となっていたが、「令和4年3月31日までの間、現に届け出ている病床数を維持することが可能」と、経過措置の期間が設定されたことも付け加えておきたい。

“飴と鞭”の使い分け「地域移行機能強化病棟入院料」改正
疾患別リハの精神療養病棟への拡大には注目

地域移行機能強化病棟の継続と要件の見直し

 出典:厚生労働省「令和2年度診療報酬改定説明資料等について」(令和2年3月5日)をもとに作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352_00001.html

 2016年度改定の精神科における診療報酬の目玉として新設された「地域移行機能強化病棟入院料」(1,527点)は、新規届出が「令和2年3月31日まで」と期限が切られていたが、届出期限が「令和6年3月31日まで延長された」のは周知の通り。

 その理由として届出医療機関・病棟が、同省の“思惑”通りに伸びず、平成30年1月段階で届出医療機関は41施設、4万9940回の算定に留まっていた。

 同入院料の施設基準の一つに「1年当り病院全体で、届出病床の5分の1に相当する精神病床を減らしていること」と明記されているように、精神病床の毎年のダウンサイジングが条件とされたのは、過去の改定にはなかったことだ。

 同省が同入院料算定増に拘るのは、スピーディーに精神病床の削減を進めることに最大のインセンティブを置いているのが明白。202年度改定では、幾つかの点で同入院料の要件や施設基準に微調整が行われた。まずは、届出時点の病床稼働率要件が現行の「90%から85%に緩和」「常勤専従のPSW2名以上(当該病棟が40床以上の場合は3名以上)」との要件は、「PSW常勤専従1名+常勤専任1名以上(同40床以上の場合は、2名以上)」と配置要件も緩和された。40床以上の場合、身体合併症等を有する患者の退院支援業務が必要な場合は、現行は「1名の専従・常勤社会福祉士の配置」が必要だったが、改定後は「専任・常勤社会福祉士ででも可」となった。

 一方、「1年以上の長期入院患者が当該病棟から退院した数が、月平均で当該病棟の届出病床の1.5%相当」との現行の要件は、「1.5%相当」「2.4%相当」に引き上げられ、長期入院患者をより多く退院させることが必要になった。更に、前述「5分の1」病床削減要件が「30%」に引き上げられたのは厳しい。

 同入院料届出を計画していた地方の医療法人理事長は、「今回の見直しは想定外。実際に毎年、病床を30%以上削減し続ける中で、入院収入減に見合うだけの新規入院患者の確保が可能なのかどうかを見極めないと、病院経営的には死活問題だ。一度、ダウンサイジングに踏み切ると後戻りは出来ないだろう。同入院料届出に関心があったが、より慎重に対応せざるを得ない」と不安を隠さない。確かに、中医協の資料等を見ても、同入院料については医療機関側の匿名による肯定的な意見ばかりが目立ったが、精神病床の削減を急ぎたい同省の意図的な誘導と受け取れなくもない。実際に精神科病院の現場を取材すると、「飴と鞭を使い分ける」同省の要件設定に批判的な声も少なからず聞こえてくる。

 この他の重要な改正ポイントを見ていくと、「精神科身体合併症管理加算2」の算定可能日数が、現行の「8日以上10日以内」「8日以上15日以上」に延長され、1日当たり点数も「225点から300点」にアップ。一方、要件に「診療報酬明細書に身体合併症の患者の何れに該当するかの記載」が追加された。

 また、「精神療養病棟入院料」で一般病院等と同様に出来高で「疾患別リハビリテーション料及びリハビリテーション総合計画評価料」の算定が可能になったのは、ADLの低下した高齢患者を数多く抱える精神科病院とって朗報だろう。ADL改善の重要性を認識しながらも、長期在院者の地域移行の推進が図られている。さて、“駆け足”で精神科における診療報酬改定の個別項目を検証してきたが、重要だが抜け落ちた改正項目も一部、存在することは、お断りしておきたい。

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。
【掲載】2020年05月15日