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【ケーススタディ】
地域包括ケア時代のコミュニティづくり・街づくりの進め方

医療ジャーナリスト:冨井 淑夫先生

2025年に向けて地域包括ケアシステムの実現に向けた各地の取り組みが、活発化してきました。「医療介護総合確保推進法」第2条で同システムについては「医療、介護、介護予防、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制」と規定されています。地域包括ケアシステムと、医療・福祉のまちづくりを同時に推進することが、人口減少社会へと向かう2025年型モデルになり得ると考えられます。
ここでは、幾つかの専門誌等で紹介された民間医療機関・団体等の取り組みについて、ご紹介します。

地域包括ケアと健康福祉の街づくりを同時に進める

 2025年に向けて地域包括ケアシステム(以下、同システムに略)の実現に向けた各地の取り組みが、活発化してきた。ただ、報告されている先駆事例の多くは地方自治体や、有力医療団体等の単眼的な視点で語られる内容が多く、その中で個々の民間医療機関、地域住民、市民グループ(NPO)等が、どのような関わり方、役割を果たしているのかについては、今一つ、見え難い実態がある。先行自治体の事例報告を見ても、大抵の場合は行政と地域医師会、大学病院等が連携して進める内容が支配的で、新機軸には乏しい。

 「医療介護総合確保推進法」第2条で同システムについては「医療、介護、介護予防、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制」と規定されている。ただ、同システムに詳しい(株)地域計画医療研究所所長の美留町利朗氏は「国の規定する体制だけでは足りないことが分かってきた。日常生活支援事業を地域の実情に合わせて提供するには、住民参加による体制づくりが求められる。国が進める同システムと同時に、“住民参加型コミュニティ・街づくり”の視点も重要になる」と指摘する。要するに、地域包括ケアシステムと、医療・福祉のまちづくりを同時に推進することが、人口減少社会へと向かう2025年型モデルになり得ると言うのだ。

 そうした視点を受けて、筆者が昨年、月刊「JAHMC」等、幾つかの専門誌等で取材・執筆した民間医療機関・団体等の取り組みを、幾つか紹介していきたい。

官民連携による地域振興病院が「作る」地域住民の交流拠点

 長野県佐久市の(社医)恵仁会 くろさわ病院(83床)は2017年4月に旧病院からJR中込駅前商店街に新築移転した。新病院の建物は介護老人保健施設(82床)との合築型だが、2階部分に公民館「中込会館」が併設された。

 民間病院の施設内に公民館が誘致されるのは前例のないこと。もともとの経緯としては、旧公民館が老朽化し、自治会や地域住民から佐久市に対して、商店街の近くに新設して欲しいとの陳情があったという。

 この地域では数年前に大型商業施設が撤退し、商工会議所や商店街等からも地域の再生が求められていた。

 同院は地域住民との協議の場を持ち、新病院の中に公民館を誘致することにお互いが合意し、市議会での同意を得て実現に至ったという。恵仁会が建物を造り、佐久市に貸すという「官民連携」による運営だ。黒澤一也理事長自身も商工会議所メンバーとして、地域振興への思いが強かった。人口減少の進む地方のまちづくり、地域包括ケア実現の一つのモデルとして注目される。佐久市自体も「佐久市CCRC(生涯活躍のまち)構想」を掲げており、「周辺地域から街に若い世代を呼び込み、地域の活性化に繋げたい」との思いは、市も病院も共通していた。

 病院を利用する患者・家族だけでなく地元商店街や、中込会館で開催されるイベントに多くの人々が来訪することを想定し、施設リニューアルに際し、キャパシティの大きな立体駐車場を併設。更に病院の1階には食堂・売店を開設した。運営は商工会議所を通じて地元商店に依頼。佐久市市民に開放され、地域の「憩いの場」として利用される。

 新中込会館では同院の医師等の医療専門職が講師を務める医療講演会を頻繁に開催する他、地元商店街とのコラボによるイベント等も実施して来た。

 移転後、中込会館の利用者・件数は顕著に増加し、例えば2016年1月の利用件数は1000件強だったのが、移転後の2018年1月は1500件に増えている。

 同理事長は今後、周辺地域から街を訪れる人が増えて、波及効果により中込商店街の買い物客や飲食店利用者が増加し、地域振興に繋がることを期待している。

 利便性向上のために中心市街地へ公共施設等を集約し、「住みやすい街づくり」を目指すコンパクトシティ構想とも通底する試みと言えそうだ。

 県立尼崎病院と県立塚口病院の統合で、2014年に尼崎総合医療センター(730床・AGMC)が誕生。それに伴い旧県立尼崎病院跡地利用事業の公募により開設された(社医)愛仁会 だいもつ病院(199床・以下、同院に略)は、「地域医療構想と地域包括ケアシステムの実現に資する」ことを目指し、2016年5月から診療を開始した。前述・公募の目的は「高度急性期病院の後送病院の運営」であり、そうした経緯から高度急性期・急性期病床は持たず、回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟、障害者病棟のみで運営されている。在宅療養支援病院として訪問診療・看護に注力。地域で「良質のリハビリテーション医療を提供する」と共に、同一敷地内に介護老健施設(100床)、サービス付き高齢者住宅(60戸)を整備。病院、介護老健、サ高住が三位一体で、地域包括ケアシステムの拠点として、地域住民の生活をサポートしている。

 同院では開院当初から、尼崎市社協やボランティア団体等と連携し、地域交流拠点としての在り方を検討。1階の玄関ホールに地域住民の交流スペース「ほんまる」を設置した。

 定期的に市民講座が開催される他、談話スペースや本格的なライブラリーを開設し、地域住民だけでなく入院患者や家族等も積極的に利用し、読書や会話を楽しむ。書籍は全て寄付によるもので、図書ボランティアが書籍の管理・整理や相談に応じる。

 市民講座は地域住民への健康啓発が主な目的であり、同院医師や医療専門職等が講師を務める。参加者は自治会等を通じて毎回、50人程の地域住民が参加する。「ほんまる」は旧県立尼崎病院時代に活用していた広大なスペースがあり、「一般外来の少ない同院では地域住民に有効かつ有益に活用してもらう」(松森良信病院長)ことを優先したという。

 更に併設されたサ高住の1階に開設された「地域交流レストラン」は午前7時からオープンし、施設利用者だけでなく住民や来訪者等、誰でも利用できる。管理栄養士が栄養管理し、工夫を凝らしたメニューを朝・昼・夕と廉価で提供し、単身者や一人暮らしの高齢者にも好評だ。患者・施設利用者・市民の区別なく同じメニューが提供される。

 また、同院では「医療と介護、住民との橋渡しをする」部門として、「地域包括ケア推進センター」を発足させた。同センターが主体となり、地域社会とのネットワークを更に強化しアウトリーチを進化させてゆく。

中立的な組織が主導する“しがらみのない”連携市民との共同提案による新規事業が実現

 続いて、医療機関以外の地域包括ケア推進や、コミュニティづくりの取り組みを報告したい。現在、全国様々な地域で地域ケア会議や他職種連携会議等が動き出しているが、金城大学看護学部 彦聖美教授(在宅看護学)は2016年から石川県白山市において、保健・医療・福祉・介護の従事者が自主的に集うグループ「白山つながりカフェリンク」(同リンクに略)を主催。発起人は大学関係者2名と地域で活躍するケアマネジャー2名だったが、現在は数名の企画委員を加えて運営されている。活動目的としては「多職種で協働し、高齢者・障がいのある方・介護を受ける方及びその家族の『満足出来る暮らし』実現に向けた支援の充実を目指します」としている。活動は2か月に1回で、皆が参加し易い18:30~20:00に時間設定されている。これだけを見ると、一般的な多職種連携の活動と変わらないようにも見えるが、筆者は同リンクの定期的な目玉企画となっている「おらが仕事自慢大会!!」と名付けられたプレゼン大会に着目した。要するに、各地域で活躍する保健・医療・福祉・介護の各職種は互いに連携していたとしても、お互いの各施設・事業所、職種のことを十分に知らないケースも少なくない。例えば、病院側は電話のやり取りだけで「あの介護施設は感じが悪いね!」との印象を持ったり、一方、介護施設側は「受入れ体制が十分ではないのに、あの病院はすぐに患者を退院させようとする」等の不満を抱いたりもする。「おらが仕事自慢大会!!」の最大の目的は、「お互いの施設や事業所、職種を“より深く知る”ことだ。極めてシンプルかつアナログ的な活動には違いないが、腹を割ってプレゼン大会を実施することで、誤解が解けお互いの施設や事業所の取り組みを評価出来るようになる。終了後は懇親会での“飲ミュ二ケーション”へと突入し、親睦を図る。こうした試みは、主に行政や医療団体等で実施されていた“お堅い”地域ケア会議等では、欠けていた部分だろう。

 彦教授は筆者のインタビューに応え「行政や地域の有力団体が主導する地域ケア会議等では、中立性の担保されないケースがあるし、特に行政が音頭を取ると自治体のカンバンを背負っているので、動きの制約されることも危惧されます。欧米では大学等の研究機関やNPO、NGO等、利害関係のない中立的な組織が、これら小グループを組織しています。私たちも“しがらみのない連携"を目指し、実験的に始めたのです」と語っている。

 地方のコミュニティづくりの観点からは、元全国訪問看護事業協会事務局長を務めた宮崎和加子氏が、理念に賛同する仲間たちと共に設立した(一社)だんだん会(山梨県北杜市、以下同会に略)の活動に注目したい。同会は2016年1月に設立され現在、北杜市で地域看護センターによる定期巡回・随時対応型訪問看護介護等の訪問看護事業や、2ヵ所のグループホーム事業等を展開しているが、「地域共生事業」と呼ぶ地域貢献活動にも力を注いでいる。同会事務所とGHの2ヵ所にサロンを設置し、主に介護が必要になる前段階の地域住民に開放、交流会や市民講座等を開催している。積極的に参加者から企画を募り、料理教室や認知症予防の勉強会等、様々なアイデアがを基に、数多くのイベントを実践する。このサロンをきっかけに知り合った、ホームホスピス開設を目指す地域の市民グループ「八ヶ岳根っこの会」との協働により、新たにホームホスピスの開設を目指すことになった。同根っこの会は純粋に北杜市の地を愛し、亡くなるまで、この地に住み続けたいと願う人たちの集まりだ。宮崎氏らは国土交通省の「スマート・ウェルネス住宅等推進モデル事業」を知り、同根っこの会との共同提案で2018年度のモデル事業(一般部門・一次募集)に応募。別荘ホスピス、見守り付き住宅と住民主体型サロン、重度者ケアハウスを備えた多機能型「共生型住宅」創設を、同省に提案したところ選定された。

 「わがままハウス山吹」と名付けられた新施設は、2019年3月に竣工し、4月からオープン予定。民間の小規模事業所が、市民とのパートナーシップの下に、ユニークな新規事業へと結実したという点では、正に前例のない成果と言えよう。地域包括ケア推進に向けて、地域住民や市民グループとの連携が必要不可欠であることを教えてくれる。

精神科系医療機関に期待される認知症の人が暮らし易いわが街の創成

 民間医療機関に加え、民間団体、事業所等が主導するコミュニティづくりや街づくりに資するユニークな取り組みを幾つか、紹介してきた。必ずしも即、街づくりに繋がるものではないかもしれないが、精神科系医療機関の中でも、特に認知症ケアの領域では、コミュニティで認知症の人と健常者が「共生する」街づくりの試みは、顕在化してきた。例えば、以前に本稿でも紹介した宮崎市の(医)ハートピア細見クリニックが実践する認知症デイケア「街のオアシス」は、地元の画廊喫茶を利用し、地元のアーチストや文化人等の常連客がボランティアとして参加。専門家が楽器演奏やフラダンス、浪曲等を披露し、認知症の人と共に楽しむ「街中でのデイケア」として知られる。こうした活動が徐々に地域社会、他の精神科系医療機関にも波及していけば、認知症の人を取りまく社会の在り方を、「より良く」変えて行くことも出来る筈だ。

 筆者が地元の病院関係者から聞いた話し。地方の認知症疾患医療センター等を運営する精神科病院が、10年程前から医療法人のスタッフで認知症啓発劇団を結成し、地元の幾つかの公民館等で公演。寸劇形式で認知症家族のロールプレイングを地域住民に観劇してもらう試みを行なったところ、高齢化の進展する地域住民に大きな反響を呼んだ。

 その後、同病院の取り組みを参考にし、県内各地域で同様の劇団が結成され、認知症啓発劇の取り組みが、他の地域にも広がっていったという。

 新オレンジプラン等の認知症施策においても、認知症「本人の意思の尊重・本人の視点重視」が謳われるようになった。2018年11月1日には「一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループ」(藤田和子代表理事)が厚生労働省内で記者会見を開き、『認知症と共に生きる希望宣言』(http://www.jdwg.org/)を表明した。私見だが、街づくり・コミュニティづくりで精神科系医療機関に最も期待されるのは、同希望宣言に示された「認知症の人が暮らし易い、わが街の創成」ではないかと考える。

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。
【掲載】2019年09月06日