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【インタビュー】新元号と病院経営
元号改正前後に医療機関広報担当者が取り組むべきこと

咲デザイン研究所代表・大山 幸一先生
(聞き手:医療ジャーナリスト:冨井 淑夫先生)

平成に代わる新元号は、典拠が「万葉集」である「令和」であることが4月1日に公表されました。新元号は天皇陛下の退位に伴い、5月1日午前0時から施行されます。
ここでは、元号改正前後に医療機関広報担当者が取り組むべきこと(元号改正に向けてのチェックポイント)について、ご紹介します。

元号と西暦の並列表記か西暦表記に統一するかの判断

―― 新元号の公表日が4月1日に決定しました。元号法は1979年に成立したものですが、①元号は政令で定める②元号は皇位の継承があった場合に限り改める――と規定されています。新天皇即位の5月1日から新元号にリセットされますが、今回はその発表を「何時にするのか?」について、政府の方針も二転三転してきました。米マイクロソフトの基本ソフト(OS)「ウィンドウズ」のプログラムが2019年4月10日に更新日を迎えることから、報道では「国民生活に支障がないこと」を最優先し、1カ月前に“前倒し”したとされています。2017年6月に退位特例法が成立し、2017年12月に「改元が2019年5月1日」と決定してから改元の日まで約17カ月もあり、こんなに長い準備期間のある改元は史上、初めてのようです。行政システムの改修に迫られる自治体では3月1日現在、準備に追われている最中かと思いますが、医療機関も同様に対応が急がれますね。

大山: 医療機関にとって最も影響を受けそうなのは、電子カルテ、医事・会計等のシステム改修ですね。電子カルテは現状、西暦と元号の両方で表記されている病院が多いと思われますが、電子カルテシステムのアプリケーション内で、おそらく、裏のシステムテーブルがあり、それを変更する必要があるのだと考えます。大手メーカーは、元号改正の影響は限定的とアナウンスしている企業が多いのですが、現在、動作検証を行って新元号で上手く稼働するかどうかのテストを行っている段階ではないでしょうか?
また、電子カルテに患者さんにお渡しする文書や同意書等を文書管理的に取り込んでいる場合、それらの文書類は種類も多く、フォーマットの変更が大変な医療機関もあると思います。医療機関の情報システムを担当する人たちは、新しいシステムに応じて西暦と元号を並列表記にするのか、それとも、これを契機として一気に西暦表記へ統一するのかの判断を求められる可能性が高いです。
私が知っている某病院では、2年程前から様々な文書類を西暦表記に統一しました。コストのかからない部分から始めて、電子カルテに関しては時間をかけて、じっくりとシステム改修に取り組みました。やはり、将来的にも「元号」が変る毎に表記の変更や、システム改修を余儀なくされるのは合理的ではないとの判断からです。

公的病院等は自治体ホームページ上の記述にも注意を!

―― リニューアルの必要な広報ツールという点では、ホームページの改修も早急に進めるべきでしょうね?

大山: ホームページ上で既に広報している今後の事業計画や、病院長の挨拶で平成の元号になっている場合は、新元号又は西暦に改修する必要があります。こうした挨拶文は、多くの病院で1月か4月のタイミングで新たに出されることが多いので、その時にリニューアルすることを念頭に置いて頂きたいと考えます。

―― ホームページにある病院長の挨拶文を何年も変えていない病院も散見されますが、そのようなケースはすぐに着手すべきなのでしょうね。

大山: 確かに「元号」公表が4月1日というのは微妙で、病院は4月1日から新しいホームページの内容をスタートさせるのが通常ですが、今回は4月末から5月にかけて大型連休に入ります。これは、紙媒体の広報誌も同じですが、「元号」が公表されて2週間位のタイムラグで、広報担当者は改修する内容や体裁等について、一定のめどを付けて事前に準備しておくことが大事です。また、その頃は、病院で新人研修や各部門の新体制がスタートする時期にも当たるので、多忙な中で“短期決戦”での対応に迫られます。

―― 本当に医療機関の内部文書等を細かく検証すると、業者さんとの契約書等も見直す必要性があるのか等、切りがないですね。外注先、例えばプロバイダー等との更新計画書やコンサルタント等との契約書についても、「平成31年より以後」のロードマップが示されているケースもあります。

大山: 市立病院等のホームページは、「平成33年に新棟建築予定」等の大きなバナー画面が流れて来るのをよく見ますが、こうした画面も全て手直しすることが求められます。新棟竣工等の情報は西暦表記を使われることが少なく、元号表記が多いのですが、その点では注意が必要です。国公立病院の文書は公文書に当たりますが、公文書の書面を自治体のホームページ上で公開しているケースも多々、見られます。国民・市民への情報開示としては歓迎すべきことですが、某自治体では「平成32年度以降の公文書」をホームページで公表していることから、元号改正により市民から「不適切ではないか。訂正すべき!」との意見が出てきました。こうした事態も想定されるので、市立病院等は当該自治体ホームページで流す情報等についても、特に注意し検証して頂きたいですね。
最初のシステムの話に戻すと、メルマガの配信の可能なシステムを導入する医療機関が増えていますが、新元号で自動的に日付が入る仕組みもあるので、その場合に不具合が生じないか等のチェックをして頂くことも、肝要ではないかと思います。

外国人患者に対する環境整備には「西暦のみ」表記が適切

―― 2018年10月9日~11月19日の期間、読売新聞が実施した全国世論調査では、「ふだんの生活や仕事で元号と西暦のどちらを使いたいか?」との質問で、「元号を使いたい」が約50%、「西暦を使いたい」が約48%で、ほぼ拮抗しています。同新聞が平成への改元直後・1989年1月に行った同調査では、「元号」派が約64%、「西暦」派が約28%でしたから、約30年の間で国民の中に、「西暦」の方が馴染み易いとの認識が強くなってきたようにも感じます。

大山: 今後は医療機関でも「元号」だけで表記することは殆どなく、「西暦」と「元号」の並列表記か、「西暦」のみの表記になっていくと思います。その最も大きな理由としては、現在から将来に向けて、確実に訪日外国人が急増し外国人患者への医療提供に対し、医療機関側が対応を迫られていることです。

―― 確かに、法務省によると2017年末時点に日本で暮らす外国人は約256万人。OECDの「1年以上、外国に居住している人」を移民とするデータでは、2015年に日本に流入した外国人数は約39万人に及び、先進国の中ではドイツ、アメリカ、イギリスに次ぐ数字です。2018年末には改正入管法が成立し、外国人労働者の就労への門戸が拡大されました。厚生労働省でも2018年11月から「訪日外国人旅行者等に対する医療提供」についての検討会が設置され、医療機関側の外国人患者に対する環境整備を進めています。この2つの動きは連動したものと考えられます。

大山: 日本で就業し生活しようとする外国人の方が住民票を取られる場合でも、「元号」の意味するものが理解出来なくても、それは仕方のないことです。しかし、従来の行政システムでは「元号」表記が支配的でした。
外国人の方が診察券を持参し、仮に医療機関を受診された時に、受付が「平成何年生まれですか?」等と聴くのは“患者さん本位”とは言えません。すぐに答えられないのが当たり前だし、西暦でお訊ねする配慮が最低限、必要だと思います。
その辺りについては、病院全体で明確な方針を決めて、病院職員全員が意思統一し、外国人の患者さんに対し、組織としての総合的な対処の仕方が求められるでしょう。
今後、厚生労働省は各都道府県に依頼し、「外国人患者の受け入れ拠点となる医療機関」の選定を行っていくようですが、拠点となる医療機関や外国人居住者の多い地域の医療機関は、西暦に統一した方が当然、運用し易いと考えます。小さな診察券に外国人の患者さんは英語やカタカナ表記、生年月日も「元号」と「西暦」の両方を入れるとなると、文字が小さくなり読み難かったり、事務作業が煩雑になる等のロスが生じてしまいます。

新元号のネーミング活用はトレンドと信用のイメージ醸成

―― 昭和から平成に変った1989年以降、医療法人や病院のネーミングに「平成」のキーワードを入れる医療機関が増えました。〇〇平成病院や医療法人平成〇〇会等、現在、幾つかの医療・介護施設が存在します。今回、改正される元号名には国民の注目度も特に高まっていることから、CI(コーポレート・アイデンティティ)戦略としてネーミングに活用し、地域でのアイデンティティを高めようとする動きも予想されますね。

大山: 例えば、病院施設のリニューアルや、組織を社会医療法人に改組する、或いは理事長が二代目に継承する等、今年、大きなイベントを計画されている医療機関で、元号にこめられた意味と病院の理念がマッチングしていると判断された場合、「新元号」を入れた新しいネーミングに変更する動きも、今後は想定されるでしょう。
「新元号」を使うのは、新しい時代のトレンドに乗った病院へと変革していくイメージを醸成出来るのが一つ。新元号の年に変革が始まったとの足跡を残すことになります。もう一つは、元号ネーミングの持つ「伝統」や「老舗感」、オフィシャルイメージに着目する医療・福祉経営者もおられると思います。歴史が古く地域で伝統ある医療法人が、自院の理念や基本方針を反映した恒久的なイメージを醸成したいと考えるケースです。CI的な発想からすると、旬のトレンドと信用に繋がるということでしょうか。

―― CIとして「元号」に着目する医療機関は、二極分化の傾向があるということですね。今年1月30日に特許庁が、唐突に新旧元号の商標登録が出来ないように商標登録基準を改正しました。「新元号」への関心が高いことから、便乗商法や商標登録が殺到することへの混乱を避けるための措置と考えられます。逆に、地域の多くの病院が新元号にあやかりたいと、雪崩れこむように元号をネーミングに使うような事態は起こりませんか?

大山: 確かに競争の激化する都心部のクリニックや歯科医院等は、医療機関名を商標登録する施設もありますが、病院の場合はそのような事態は起こらないと思います。過去の「平成」の時にも、新元号だけを名称にするのではなく、病院の場合は地域名等と組み合わせる形が一般的でした。ただ、同一地域内に新元号を冠する病院が他に出てくれば、紛らわしいのは事実です。ネーミングを変更される前に、地域の他の医療機関の情報を収集しておく必要はあるのかもしれませんね。

システム改修時にはセキュリティホールのリスクを想定

―― それでは、最後に「元号」改正によりこの他、病院が影響を受けそうなことがあればアドバイスをお願いします。

大山: 広報物として大きな影響を受けるのはカレンダーですね。病院が毎年、独自のカレンダーを制作されている場合は、外注先と相談して対応を決めなければなりません。実際に今年のカレンダーは西暦のみで作られたケースが多かったようですが、2020年版のカレンダーも新元号の発表が4月のため暦年用のカレンダーには、間に合わなくなります。

―― 実際に病院が制作する健康・医学情報等の入ったカレンダーは高齢者の利用が多いので、「西暦だけでなく元号も入れて欲しい」との要望が多いようですね。

大山: それと、新天皇即位に伴いゴールデンウィークが10連休になります。これは、元号改正とは直接、関係はありませんが、10連休の期間は病院を開けるのか、暦通りの休みにするのかの連休期間の対応を今から決定し、体制を作らなければなりません。限られた医師数の中小民間病院は、平日が祝日に替わるだけで診療体制に影響します。救急病院の場合、緊急のオペが入った場合等に、ドクターが祝日、出勤出来るのか等の対応も必要です。少なくとも3か月中旬頃には、休日中の対応をホームページや広報物でアナウンスしないと、患者さんは不安になります。

―― その他、システムのセキュリティ上の影響はありませんか?

大山: 脳のMRI検査等に関しては、半年ほど先までの予約を入れている病院も多いでしょう。その場合、「元号」が改正された時に、システム改修時に予約が漏れていないか、一部のデータが消えていないか等を精緻にチェックして頂きたいと思います。また、システム改修時には、万一のことですがセキュリティホールが発見され、外部からのサイバー攻撃に狙われ易くなるリスクも内包していることを想定して下さい。
そして、“まとめ”として病院の経営実務を担う方々は、元号改正に伴うシステム改修に、どれだけの手間とコストがかかるのかを、常に念頭に置いて頂きたいと思います。

〔元号改正に向けてのチェックポイント〕

  • 電子カルテ、医事・会計等のシステム改修の必要性
  • システム改修にどの位のコストと手間がかかるかのチェック
  • ホームページのリニューアルは「短期決戦」
  • 公的病院は自治体ホームページにも“要注意!”
  • 自院で制作する2020年カレンダーの「新元号」への対応はいち早く
  • 2019年の1月30日から新旧元号の商標登録が不可能に!
  • 「新元号」ネーミングのCI効果~病院が「変革する」イメージ醸成と伝統の重み
  • 新天皇即位に伴う「ゴールデン・ウイーク10連休」の対応を早急に!
  • 訪日外国人患者への対応には「西暦のみ」表記が望ましい
  • 病院予約システムの再チェックを!
  • システム改修時のセキュリティホール~サイバー攻撃への危機管理

(筆者作成)

大山 幸一先生(おおやま こういち)
〔プロフィール〕
咲デザイン研究所代表・NPO法人 日本HIS研究センター運営委員
広告代理店にてデザイナーを経てクリエイティブデザイナーとして広告・ディレクション業務等に従事。その後、(社医)石川記念会HITO病院に入職。広報に従事し、ブランディングに努める。また、併せて経営企画室も兼務し、病院経営の業務にも携わる。2018年6月、独立しコンサルティングデザイン会社「咲デザイン」を設立。病院ブランディングから医療や混合介護までの分野で、コンサルティングを実施する。

大山 幸一先生

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。
【掲載】2019年04月04日