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「働き方改革関連法」成立で“待ったなし”の長時間労働の是正

医療ジャーナリスト:冨井 淑夫先生

2018年7月6日に公布された「働き方改革関連法」の「長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等」の項目については、2019年4月1日(中小企業における時間外労働の上限規制に係る改正規定の適用は2020年4月1日、中小企業における割増賃金率の見直しは2023年4月1日)に施行されます。
ここでは、「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」や「2018年度診療報酬改定の内容と連動していると思われる項目」、「働き方改革関連法で医療機関に示された規制」等について、ご紹介します。

2018年2月に発表された6つの緊急的な取組

 出典:厚生労働省「第8回医師の働き方改革に関する検討会」(平成30年7月9日)参考資料1を基に作成
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000331110.pdf

 2018年6月19日に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71号)、所謂、「働き方改革関連法」が可決成立した。その前提として、厚生労働省でこれまで議論されてきた「働き方改革」の流れを振り返ってみたい。

 医療の時間外労働に関して、政府が2017年3月に公表した「働き方改革実行計画」の中では、「時間外労働規制の対象とするが、医師法に基づく応召義務等の特殊性を踏まえた対応が必要」なことや、「医療界の参加の下で検討の場を設け、質の高い新たな医療と医療現場の新たな働き方の実現を目指し、2年後をめどに規制の具体的なあり方、労働時間の短縮策等について検討し、結論を得る」との方針が打ち出された。

 それを受ける形で、厚生労働省は「医師の働き方に関する検討会」を2017年8月に設置し、検討を進めてきた。同検討会では2018年2月に「中間的な論点整理」と「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」を、まとめることになった。

 出典:厚生労働省「第8回医師の働き方改革に関する検討会」(平成30年7月9日)資料1を基に作成
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000331103.pdf

 緊急的な取組に関しては、①医師の労働時間管理の適正化に向けた取組、②36協定等の自己点検、③既存の産業保健の仕組みの活用、④タスクシフティング(業務の移管)の推進、⑤女性医師等の支援、に加え⑥医療機関の状況に応じた医師の労働時間短縮に向けた取組――の6つの提言が示されていた。それらの提言を下に要約する。

 「医師の在院時間についての客観的な把握。ICカード、タイムカード等が導入されていない場合でも、出退勤時間の記録を上司が確認する等、在院時間を的確に把握すること」と明記。「36協定に定める時間数を超えて時間外労働をさせていないかの確認」「36協定で定める時間外労働時間数について自己点検を行って、業務の必要性を踏まえて長時間労働とならないように、必要に応じて見直しを行う」こと。「自己点検に当たっては、診療科毎の実態の違いを考慮した複数の定めとする対応」も検討。併せて、「就業規則等の労働関係法令上、作成が求められる書類についても各医療機関で内容を確認し、自己点検後の36協定等を適用対象である医師に対してもきちんと周知する」と踏み込んだ内容となっていた。

 「労働安全衛生法に定める衛生委員会や産業医等、既存の産業保健の仕組みの活用を図るべく長時間勤務となっている医師、診療科等毎に対応方策等について個別に議論する」は各医療機関において、医師の業務負担軽減のため、多職種へのタスク・シフティング(業務の移管)を推進する。具体的には*初診時の予診*検査手順の説明や入院の説明*薬の説明や服薬の指導*静脈採血*静脈注射*静脈ラインの確保*尿道カテーテルの留置(患者の性別を問わない)*診断書等の代行入力*患者の移動――等になる。

 これら内容は、看護師、薬剤師、検査技師等にシフトすべき業務の内容へ、かなり具体的に踏みこんでいるが、「医療安全に留意しつつ、原則、医師以外の職種により分担して実施することで、医師の負担を軽減。各医療機関において労働時間が長い医師について、その業務の内容を再検討し、前述③の仕組みも活用しつつ、関係職種で可能な限り業務分担が図れるように検討を行う」としている。

 「女性医師等の支援」として、出産・育児、介護等のライフイベントで臨床に従事することや、キャリア形成の継続性が阻害されないように、「各医療機関で短時間勤務等、多様で柔軟な働き方を推進する等のきめ細やかな対策を進める」としている。

 ⑥「前出①~⑤以外の取組」として、〇勤務時間外に緊急でない患者の病状説明等の対応を行なわないこと、〇当直明けの勤務負担の緩和(連続勤務時間数を考慮した退勤時刻の設定)、〇勤務間インターバルや完全休日の設定、〇複数主治医制の導入――が織り込まれている。

「総合入院体制加算」と「医師事務作業補助加算」等、診療報酬改定との連動

 「緊急的な取組」が発表された2018年2月は、正に2018年度診療報酬・介護報酬W改定の内容が明らかになった時期。「緊急的な取組」が「医師の働き方改革」に絞ったものだが、③「長時間労働の是正」「タスク・シフティング」⑤「女性医師等の支援」等に係る部分は医師以外にも適用可能な事柄で、明らかに2018年度診療報酬改定の内容と連動していると思われる項目を紹介したい。

 出典:厚生労働省診療報酬改定説明会「平成30年度診療報酬改定の概要(医科1)」(平成30年3月5日開催)を基に作成
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000198532.pdf

 「総合入院体制加算」は勤務負担の軽減を図る対象が、医師から医療従事者全体へと拡大。同加算で作成が要件化された「医療従事者の負担の軽減及び処遇の改善に資する計画」に盛り込むべき取組内容が、より具体化された。

 同計画には①外来診療時間の短縮、地域の他の医療機関との連携等の外来縮小の取組み②院内保育所の設置(夜間帯の保育や病児保育の実施の含まれることが望ましい)③医師事務作業補助者の配置による勤務医の事務作業の負担軽減④勤務医の時間外・休日・深夜の対応についての負担軽減及び処遇改善――等のうち2項目以上を含めることが求められた。特に許可病床「400床以上」の病院は、必ず同計画で前述①を織り込むことが求められた。医師のワークシェアリングに係る「医師事務作業補助体制加算」加算1・2の何れも+50点と重点評価。更に要件が見直され、「病院勤務医の負担軽減及び処遇の改善に資する計画」(以下、同計画)に盛り込むべき取組み容が、具体化した。

 同計画の作成には「当該医療機関内に、多職種からなる役割分担推進のための委員会または会議を設置」することが肝要。要するに、経営陣のトップダウンではなく、各種委員会等で多職種のコンセンサスを得た上で、進めて行く必要がある。

 当該計画には次の6つの項目のうち少なくとも、2項目以上を含めることが求められた。①勤務計画上、連続当直を行わない勤務体制の実施②前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間の一定時間の休息時間(勤務間インターバル)の確保③予定手術前日の当直や夜勤に対する配慮④当直翌日の業務内容に対する配慮⑤交替勤務制・複数主治医制の実施⑥短時間正規雇用医師の活用。

 出典:厚生労働省診療報酬改定説明会「平成30年度診療報酬改定の概要(医科1)」(平成30年3月5日開催)を基に作成
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000198532.pdf

 「医師事務作業補助体制加算」において、勤務医の負担軽減を図る、より具体的な取組内容が算定要件に織りこまれたわけだ。

「柔軟な働き方」に対応し常勤配置や専従要件の緩和

 この他にも、医療従事者の「柔軟な働き方」に対応出来るように、多くの診療報酬項目で、「常勤配置や専従に関する要件」も緩和された。医師に関しては、小児科、産婦人科、その他、専門性の高い特定の領域や夜間の緊急対応の必要性の低い診療報酬項目については、「週3日以上かつ週24時間以上」勤務する複数の非常勤医を組み合わせた常勤換算での配置が可能。対象として、小児科の場合、「新生児治療回復室入院医療管理料」で、従来は「専任の小児科の常勤医を常時、1人以上の配置」が求められた。産婦人科領域では「ハイリスク分娩管理加算」等が対象になる。従来は「専ら産婦人科または産科に従事する常勤医を3人以上配置」が要件だった。

 精神科に関連する既存の報酬項目で、前述・医師等の医療従事者の柔軟な働き方に対応すべく常勤配置要件の緩和が実現したのは、①重度アルコール依存症入院医療管理加算、②摂食障害入院医療管理加算、③認知症ケア加算、④通院・在宅精神療法 児童思春期精神科専門管理加算、⑤救急患者精神科継続支援料⑥抗精神病特定薬剤治療指導管理料 治療抵抗性統合失調症治療指導管理料、⑦医療保護入院等診療料、⑧精神科在宅患者支援管理料――の8項目。精神科系医療機関に関しては、2018年度改定では「働き方改革の推進に資する」報酬項目が必ずしも多くはなかったが、2019年度に開催される中医協では、当該報酬項目の更なる拡充に向けての議論が進められると予想される。

 出典:厚生労働省診療報酬改定説明会「平成30年度診療報酬改定の概要(医科1)」(平成30年3月5日開催)を基に作成
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000198532.pdf

 リハビリテーション職や看護師も一部の報酬項目で、「週3日以上かつ週24時間以上」勤務する複数の非常勤職員を組み合わせた常勤換算の配置が可能になった。厚生労働省内では今後、精神科に係りの深い精神保健福祉士や公認心理師等の「働き方改革」の議論も、同時に進められていくことになるだろう。

 出典:厚生労働省診療報酬改定説明会「平成30年度診療報酬改定の概要(医科1)」(平成30年3月5日開催)を基に作成
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000198532.pdf

 また、チームで診療を提供することが要件化されている診療報酬項目の幾つかで、専従要件の見直しを導入。具体的に挙げると「緩和ケア診療加算」、「外来緩和ケア管理料」、「栄養サポートチーム加算」等で、当該チームで「一人が専従であれば良い」との取り扱いに見直された。当該チームの診察する患者数が、「1日に15人以内」の場合、全員が専任でも可能。しかし、「緩和ケア診療加算」1日につき390点「外来緩和ケア管理料」は月1回に限り290点と各々、10点ずつ引き下げられた。

 出典:厚生労働省診療報酬改定説明会「平成30年度診療報酬改定の概要(医科1)」(平成30年3月5日開催)を基に作成
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000198532.pdf

 この他、対面によるカンファレンス実施が要件となっている「精神科在宅患者支援管理料」、「退院時共同指導料」等について、一定の条件下でICT(情報通信技術)を活用したカンファレンスの実施が認められるようになった。

「働き方改革関連法」で医療機関に示された規制とは?

 さて、最初の「働き方改革関連法」に戻るが、前述のように2018年6月19日に同法が成立。医療機関において対応すべき具体的な項目が挙げられた。医師の時間外労働の上限規制に5年間の猶予規定が設けられた他に除外規定はない。

 出典:厚生労働省「第8回医師の働き方改革に関する検討会」(平成30年7月9日)参考資料1を基に作成
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000331110.pdf

 そこでは、「医療機関の規模別の適用関係(概要)」が示されているが、「時間外労働の上限規制」として、「原則として月45時間、年360時間とする罰則付きの上限規制を導入」(中小企業規模の医療機関は医師を除き、2020年4月1日から適用。それ以外の医療機関は2019年4月1日から適用)、「割増賃金率」は「月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率を50%以上とする」(中小企業規模の医療機関は2023年から適用。それ以外の医療機関は既に適用あり)、「年次有給休暇」は「10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について毎年、時季指定して与えなければならないとする(労働者が時季指定したり、計画的付与したものは除く)」(2019年4月1日から適用)。「労働時間の状況の把握」は、「省令で定める方法(現認や客観的な方法となる予定)により把握をしなければならないとする」(2019年4月1日から適用)。「産業医」は、「産業医が行なった労働者の健康管理等に関する勧告の内容を衛生委員会に報告しなければならないとする等」(2019年4月1日から適用)となり、医療機関にとって「働き方改革を推進する」ための環境整備は“待ったなし"の状況となった。

 要するに、元号が変る直前から殆どの項目は適用されることになる。

労働環境改善の遅れが浮き彫りに 霞が関にこそ「働き方改革」を!

 さて、その後、2018年7月9日、第8回「医師の働き方改革に関する検討会」では、「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」の実施状況が公表され、各医療機関の取組状況(2018年5月28日~6月11日)が明らかになった。調査対象は「全国医学部長病院長会議」、「四病院団体協議会」、「全国自治体病院協議会」の会員病院等で、その内容を一部、紹介する。

 出典:厚生労働省「第8回医師の働き方改革に関する検討会」(平成30年7月9日)資料1を基に作成
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000331103.pdf

 まず、「緊急的な取組」を受けて、院内での取組や検討を「実施した」が26.8%しかなく、「今後、実施を予定」が33.7%に留まっている。厚生労働省は「実施した」と「今後、実施を予定」を含めて60.5%の成果を強調したいようだが、正直言って苦しい。実施予定とは「実施していない」ということだ。

 ①「医師の労働時間管理の適正化に向けた取組」を「実施している」のは僅か6.3%、「導入予定または検討中」が63.0%と大多数を占めている。②「36協定の自己点検」でも「自己点検を実施」が32.3%止まり。「同予定または検討中」(48.0%)と「同予定なし」(17.9%)を合せると、実施していない病院がWスコアで多数派だ。③「産業保健の仕組みの活用」⑤「女性医師等の支援」での取組状況は更に少なく、一定の成果が見えるのは前述の診療報酬誘導が実施された④「タスクシフティング(業務の移管)の推進」位であり、同省の期待する程には、普及の進んでいない現状が明らかになった。

 医療現場に詳しい社会保険労務士は次のように指摘する。

 「同検討会での議論が大学病院や基幹病院等、医師や医療専門職のマンパワーの充実した大規模病院にしか通用しないような提言が多く、人手不足が常態化する中小民間病院等の現実とは乖離しているとの声が少なくない。実際に常勤医が5名~10名程度が大半を占める200床未満・中小病院の場合、現状とは別次元で制度設計の議論が必要だし、それがなければ中小病院にとって、インセンティブの高い経営課題とはなり難い実態がある。」 確かに、同検討会メンバーの医療関係者は、国立大医学部教授や大学病院・国公立病院等の大規模病院、学者等が多くを占め、どの程度、中小民間病院の実状に精通されているかは疑問。仮に、中小病院が是正勧告等の行政処分のリスクを回避するために、診療縮小や救急医療の廃止、病状説明の取り止め等の事態を招くと、地域の医療提供体制にも大きな影響を及ぼすことにもなりかねない。

 何れにせよ、想定していたような普及が進まない現実に対し、厚生労働省は“次の一手"をどう打つのか?今後の動きには注目される。

 最後に付け加えると、基幹統計の不正を巡る問題が発覚した厚労省。この10年間で統計部局の職員が約2割削減されていたことが報道された。同省は企業や医療機関等に「働き方改革」の規範を押し付けるだけでなく、各省庁における「官僚の働き方改革」を自ら実践して頂きたいと思う。「女性の働き易い環境づくり」を含め、労働環境改善が最も求められているのは、正に霞が関でもあるのだ。

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。
【掲載】2019年03月15日