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【インタビュー】
出資持分なし「認定医療法人」の全容と医療経営に与える影響

(公社)日本医業経営コンサルタント協会京都支部長・税理士 船本 智睦先生
(聞き手:医療ジャーナリスト:冨井 淑夫先生)

2017年10月から新しい認定医療法人制度が始まりましたが、同法人の認定期限が2020年まで延長され、認定要件も大きく変わりました。判定者は従来は税務署が個別に判断していたのが厚生労働省の認定へと変り、役員数や医療計画への医療機関名の記載、更には「役員の親族割合」の要件等が外れ、今後の医療経営にも大きな影響を与える改正ポイントが目立ちます。
ここでは、出資持分なし「認定医療法人」の全容と医療経営に与える影響について、ご紹介します。

小泉改革から始まった持分なし同法人に係る議論

 出典:厚生労働省「持ち分の定めのない医療法人への移行認定制度の概要」(平成30年2月9日)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000193986.pdf

―― 2017年10月から新しい認定医療法人制度(以下、同法人)が始まりましたが、同法人の認定期限が2020年まで延長され、認定要件も大きく変わりました。判定者は従来は税務署が個別に判断していたのが厚生労働省の認定へと変り、役員数や医療計画への医療機関名の記載、更には「役員の親族割合」の要件等が外れ、今後の医療経営にも大きな影響を与える改正ポイントが目立ちます。

船本: 「出資持分なし認定医療法人」に関しては、2007年に公布された小泉内閣時代の第5次医療法改正から始まった議論ですが、従来の「出資持分あり医療法人」の場合、医療法において剰余金配当が禁止されているものの「法人財産を出資者(社員)に対し、持分割合に応じて分配すること」が可能でした。当時の議論では、「社員の出資額に応じた払い戻しが認められるのは営利法人と同様の扱いであり、非営利性の確保に抵触するのでは」との疑義が出てきたのです。加えて、医業経営面では「出資者の退社に伴う払い戻し請求権の行使による多額の資金流出、或いは死亡に伴う過大な相続税負担により医業継続へ支障を与える」ことも危惧されたわけです。

―― 確かにわが国では精神病院(精神科救急)も含め民間病院の多くが救急医療を担っており、医業継続が困難になると地域医療の安定性が損なわれることへのリスクが懸念されたのですね。

船本: 医療法人の「非営利性の徹底」と「地域医療の安定性の確保」の両面から同法人の必要性が議論され、「残余財産等の帰属先について個人(出資者)を除外し、他の持分なし医療法人等に限定する」ことが第5次医療法改正での医療法人制度改革の肝になる部分でした。新設の医療法人については「持分あり医療法人」は認めない反面、「2007年当時に存在していた医療法人は、当分の間は持分ありのままでも良く、持分なしへの移行は各医療法人の自主的な判断」に任されたのです。ちなみに、同医療法改正で社会医療法人制度が創設されましたが、これは前述2つの課題を解消するものです。

―― 社会医療法人等、現状でも「持分なし」医療法人は幾つか存在しますが・・・。

船本: 私見ですが、同法人は一定の公益性が担保された社会医療法人や特定医療法人よりは認定のハードルが低いと考えます。

最も大きな改正ポイントは「親族3分の1」要件の緩和

―― 厚生労働省によると、認定制度開始以降の2014年10月から2017年3月末現在、「持分あり」から「持分なし」に移行した医療法人は累計634法人ですが、それらのうち同認定制度による移行件数は67件、うち完了件数は28件と多くはありません。
 2017年10月に出て来た幾つかの要件緩和は、同法人への移行を誘導するものと考えられますね。増えていないから、同省は認定期限を延長せざるを得なかった。

船本: 第5次医療法改正で旧来型「持分あり」の社団医療法人は新設が認められていませんが、現状では未だ「持分あり」の制度が完全に廃止されたわけではありません。同改正で基金制度を採用した「基金拠出型医療法人」制度が創設され、持分なしへの移行を促しましたが、それでも“自主的な判断”で、持分あり社団医療法人を継続する医療機関は全国に数多く、残っています。同法人移行の最大の利点は、やはり相続税や贈与税の税制上の優遇措置です。すなわち、持分ありだと相続税・贈与税の負担があるばかりでなく医療法人に対しても、出資額と時価との差額が受贈益として課税されます。
 従って、「持分なし医療法人」への移行促進策として、移行計画の認定を受けた法人である場合は、出資者(個人)に対して移行計画の期間満了まで相続税の納税が猶予されます。また、出資持分を放棄した場合は、猶予税額が免除されます。また、出資者が持分放棄をした場合においても、残った他の出資者に贈与税が課せられないといった税制上の優遇措置が図られています。その他、移行計画の認定を受け、持分なし医療法人への移行を進める医療法人において、出資持分の払戻しが生じ、資金調達が必要になった場合、「独立行政法人福祉医療機構」による新たな経営安定化資金(低利融資)の利用を受けることも可能になります。
 一方、現状(平成29年10月段階)日本で約5万件ある医療法人のうち約8割が「持分あり」医療法人です。医療機関の多くは相続税・贈与税の負担の大きさを理解していながらも「持分なし」へ移行出来なかったのは、「役員の親族割合3分の1」の同族要件がハードルになっていたのですが、今回、その同族要件が外れたことが重要な改正点です。議論に10年以上かかり、この要件が緩和されたことで大きな注目を集めているのです。また、贈与税の非課税対象も大幅に拡大されます。ただ、「法人関係者に利益供与しない」との要件は、そのまま残ることになります。

―― この緩和により今後、同法人への移行は進むのでしょうか?

船本: 進展するとは思いますが「持分あり」で運営していた医療法人の経営陣に、その整理が出来ているのかを今一度、考えて頂く必要があると思います。
 まず、「3分の1」要件が外れたとは言え、役員と親族をどのような構成にするのかが重要です。持分放棄に対し親族社員から、同意を得られるのかどうかも確認する必要があります。もう一つは、これまで「持分あり」の時から実施してきた相続税対策との整理が、上手くついているのも検証すべきです。相続税課税を前提に各種保険の手配や、土地の評価、更にМS(メディカル・サービス)法人を設立しているケース等、医療機関によって対策は様々ですが、それら対策の中に親族が関与している場合等は注意を要します。

―― 医療法人役員が設立したMS法人に関しては、相続税法施行令に規定されている「特別の利益を与えない」との要件に抵触するケースもあると思われます。厚生労働省は医療法人とMS法人間での取引関係がある場合でも、個別の事案に応じて対価の適正性等、様々な事情を勘案して総合的に判断するとしています。

船本: 法人関係者に「特別な利益を与えない」とは、不当に高額な役員報酬を支払ったり、取引関係のあるMS法人への支払いを大きくして、利益を圧縮する等の行為は認められなくなること。「特別な利益」とは収益のことで、これらの関連会社や役員らに過大な収益を与えるのは、医療法第54条の「剰余金の配当禁止」事項にも抵触するとの見方が根強いのです。例えば、MS法人への依託費が余りにも高額であれば配当しているのと同じとの理屈です。医療法人が配当できない代わりに抜け道として、株式会社を作るのは公益性が高いとは言えないとの考え方が成立するのです。
 今改正への対応としては、医療法人単体で考えるのではなく、MS法人等の関連会社や当該医療法人に係る全ての事業体の事業を見直して、これを機会に既存の相続税対策等についても再検討することが求められます。

認定後も6年間は継続する厳格な要件維持へのチェック

―― やはり、同法人の認定は相続税対策のメリットが大きいようですが、この他に「医業収入が医業費用の150%以内」(150%ルールに略)、「自費患者の請求金額が社会保険診療報酬と同一の基準」、「社会保険診療報酬に係る収入金額が全収入金額の80%以上」(80%ルールに略)、「法令違反や帳簿書類の隠蔽等の事実、その他、公益に反する事実がないこと」等、認定に向けては厳格なルールが適用されます。

船本: 法令違反や隠蔽等は論外と考えますが、「80%ルール」に関しては、保険指定を受けている医療機関が現状、圧倒的、多数を占めているため、大きな影響はないと感じています。ただ、産婦人科や美容整形、健診・人間ドック事業等、自由診療が主体の医療法人は「80%ルール」がネックとなり、認定の受けられないケースもあり得るのかなと予測します。「自費患者の請求金額」の規定も、自費診療が中心の医療機関には厳しい要件です。「150%ルール」に関しては、医業収入について「医療診療により収入する金額が医師、看護師等の給与、投薬費等の医療の提供に要する費用等、患者のために直接必要な経費の額に150/100を乗じて得た額の範囲内であること」と規定されていますが、どこまでが“患者のために直接必要な経費”かの線引きが難しい。これを読んだだけでは、医療機関も判断に戸惑うケースが出て来るのではないでしょうか。

―― これらのルールをクリアしているのか否かが、厳しくチェックされるのですね。

船本: 「持分あり」から「持分なし」への移行計画の認定を申請してから最大3年間の移行計画期間がありますが、その間、各要件の達成に係る進捗状況のエビデンスを示さなければなりません。同法人に移行後も実施状況報告として、6年間は毎年、「認定医療法人の運営に関する報告書」を厚生労働省に提出し、「運営に関する要件」を満たしているのかの確認が義務付けられます。前述「法人関係者に特別な利益を与えない」要件については、理事長専用車等に医療法人から不当に高額な費用が出されている場合等は「不適格による否認」と判断される可能性もあるので要注意です。

「公益性の高い」医療法人としてコンプライアンス遵守の徹底を!

―― それでは、医療法人経営の危機管理面からのアドバイスをお願いします。

船本: 第一次医療法改正が公布された1985年から30年以上が経過しているわけですが、当時、30歳代~50歳代で病院や診療所を開設されたり、理事長に就任された先生方は、正に“待ったなし”で事業承継の時期を迎えているわけです。自身の相続対策を検討しなければならないのは当然ですが、社団医療法人の出資持分が財産価値を有し、相続税の課税財産に含まれることを十分に認識されていない先生方が結構、多いのではなかろうかと感じています。

―― 出資持分が時価評価されると、開設後、長い年月が経過して高騰し、想像していた以上の相続税が発生するリスクを抱えているわけですね。

船本: 開設時の出資持分が1億円だったのが、30年経って10倍以上に時価評価されることもあり得ないことではないのです。出資持分自体には換金性がないのに将来的に国が「持分あり」から「持分なし」医療法人への全面移行を進める環境下で、そのまま放置しておくことの正当性が問われるわけです。実際に相続税が相当に高額な場合、医療法人の相続人は十分な支払い原資を持ち合わせていないことも想定され、持分の払い戻し請求を法人に対して行うことも考えられるのです。

―― 相続人も「ない袖は振れない」と言う話ですね。

船本: その場合に医療法人は払い戻しに耐え得る保険対応をしているケース等、殆どあり得ないと思いますので、医療法人経営の安定基盤が揺らぐことになりかねない。持分放棄し、相続税の発生しない同法人は、それを防ぐための一つの選択肢になるわけです。
 更に、医療法人経営者の方々に注意して頂きたいのは、出資者と各々の出資額(持分)は基本的に、登記事項ではありません。正式な公文書には現在の医療法人の資産総額と理事長名だけが登記事項であり、他の情報は掲載されないのが通常です。医療法人が開設された時の最初の定款には載っていますが、その後は税務当局に知らせる必要が無かったために放置されているケースも多々あるのです。

―― 当時の出資者らも高齢化し、十分に把握出来ていないことも予想されますね。

船本: 歴史の古い医療法人は、まず誰が実質の出資者(社員)なのか、更に各出資者の出資額を確認し、各々がそれを認識出来ているかをチェックすることが肝要です。そして、社員が払い戻し請求をするのは退社時、死亡時と医療法人の解散時になりますから、仮に払い戻し請求が行なわれた場合に、医療法人が各社員への払い戻し額に対応出来る状況か否かを、専門家等の力も借りて検証することも欠かせません。次のステップとして、同法人に移行するには全社員の持分放棄が必要ですから、最初に述べたように各々の社員が納得して同意出来るのかの確認も忘れてはなりません。同意を得て同法人への移行が決定すれば、認定に向けては高度な知識を持つ専門家に相談するのも一つの方法でしょう。
私たちの(公社)日本医業経営コンサルタント協会では、各都道府県で同法人移行に関する相談窓口を設置しています。

―― 「親族割合1/3」要件が外れたことで、役員の殆どが親族で占められるケースも想定されますが、逆に外部のチェック機能が働かなくなることも危惧されますね。

船本: その点については認定を受けることにより、医療法人運営のあり方、仕組みを再検討する必要があります。社会医療法人や地域医療連携推進法人等も同様ですが、「公益性の担保された医療法人」としての“お墨付き”を得る訳ですから、改めて組織全体でコンプライアンス遵守の徹底や、公益性に関するセルフチェック、更に評議員会等の第三者機関によるチェック機能の整備等を、要件規定になくても医療法人主導で、自主的に進めて頂くことを望みます。

船本 智睦(ふなもと ともちか)
〔プロフィール〕
京都紫明税理士法人の代表社員税理士。医業経営コンサルタントとして多数の病院、診療所等の医療機関の経営に関わる。2017年から公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会京都府支部・支部長に就任。TKC医業経営システム研究会幹事、日本医療・病院管理学会会員。著書に『医療と消費税』(徳間書房・2013年)、共著書に『医療経営白書』(日本医療企画・2014年)、『医療・介護経営のポイントと改善アドバイス/総合医業研究会』(ビジネス教育出版社・2015年)

船本 智睦先生

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。
【掲載】2018年10月05日