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病院広報の新しい潮流
〔REPORT〕2017年「全国病院広報研究大会」事例から

医療ジャーナリスト:冨井 淑夫先生

NPO法人日本HIS研究センター(石田章一代表理事)が開催した「HISフォーラム2017 in OSAKA」の「第21回全国病院広報研究大会」では全国の病院から42事例の応募があり、第一次・二次予選を通過した10病院の広報事例が発表されました。優秀事例の一部について、ご紹介します。

(事例1)・「広報で支える働き方改革」四国中央市・(社医)石川記念会HITO病院

●HITO病院の「働き方改革」の取り組み

  • ①全医師へのiPad配布(業務効率化・医療の質向上)
  • ②医療従事者に向けた音声認識ソフトの導入(業務効率化・医療の質向上)
  • ③在宅テレワーク制度の試験導入(労働基盤強化・業務効率化/雇用創出)
  • ④時短勤務・福利厚生(労働基盤強化・雇用創出)

 医療を取り巻く経営環境が年々、厳しくなる中で、人手不足に苦労する地方都市では、医療職らの「働き方」や福利厚生の充実等も含めた職場環境の改善が喫緊の課題となっている。そうした中で同院では2016年12月より来るべき地域包括ケア時代や超高齢化社会の到来を見据えて、「未来創出HITOプロジェクト」をスタートした。その三本の柱は①ICTとIOT、PHRの活用による地方創生(業務改善と市民の健康増進・意識啓発)②業務効率化による診療・治療時間の増加と、より質の高い医療の提供③働き方改革・労働基盤の強化――からなるが、今回は③「働き方改革」の広報活動について報告された。

 同院の③の取り組みとしては、①全医師へのipad配布(院内どこでも情報閲覧可能・情報端末に戻る時間の短縮)②医療従事者に向けた音声認識ソフトの導入(記録時間の短縮・記載ミスの削減)③在宅テレワーク制度の試験導入(在宅での遠隔勤務)④時短勤務・福利厚生(夕食無料バイキング、保育施設完備、ぐるみん、男性育休)――の4つ。

 ①から④までの体制整備を進めると同時に、同院では「働き方改革」の実践を地元新聞やテレビ局等のマスメディアに取り上げてもらうよう積極的に働きかけを行った広報活動の内容が、具体的な成果を交えて紹介された。

 同院広報担当者らは地元の新聞社やTV局等を30回以上訪問し、時には日参。直接、記者らと対面して、「未来創出HITOプロジェクト」の目的や、目指すところを丁寧に説明した。遠方の大都市にある雑誌社等に対しては、メールで情報を送るだけでなく、直接、記者に電話をして同プロジェクトにかける熱意を伝えて来た。

 地道な広報活動を実直に行なったことで熱意が通じたのか、愛媛新聞や日経新聞愛媛版等は同プロジェクトの内容をシリーズで紹介。この他、地方テレビ局2局と地元CATV、全国版日経オンライン等でも同プロジェクトを取り上げてもらうことが実現した。

 前述・③に関して現政権は、2020年までにICT技術等を活用し、場所や時間等に捉われない柔軟な働き方の雇用型「在宅テレワーク」の割合を全労働者の10%以上にする目標を掲げているが、同院では昨年4月から経営企画室広報課職員に対して、試験的に在宅テレワークを導入した。毎朝、定時より画面を共有したTV会議を実施し、スタッフ間の遠隔指導等も可能にすると共に、クラウドやグループウェア等も活用して、資料等についても情報共有を行って、スタッフ同士が「顔の見える」コミュニケーションを実現した。

 その結果、4月からの半年間でテレワークの対象となった広報課職員の通勤時間がトータルで165時間短縮。同広報課の作る制作物は254点も増加して、業務の効率化と生産性向上に大きく貢献した。2017年4月から7月の3か月間に限定すると、制作物は前年同期比で232%に。全メディアでの掲載総数は48回、前年同期比で166%と増加したという。

 更に、同院ではホームページをリニューアルすることになったが、全体の刷新に先駆けて、職員リクルートの専門サイトを新たに立ち上げた。

 そこでは新着の採用情報が即、UPされると同時に、職種毎の特設サイトを作り、例えば看護師のページでは新人、或いはママさんナース等、多様な立場や環境で働く看護師さん達の1日をクローズアップし、職場を「身近に」感じてもらう工夫をした。

 採用専用サイトのアクセス数は前年比で126%と増え、四国4件だけでなく大阪府等、都心部からのアクセスが急増。職種毎に新規採用応募者を分類すると前年と比較し臨床研修医は約3倍、薬剤師は約6倍に増える等、多大な成果を上げた。同院広報担当者は「多様な働き方が可能な病院として認知されることで、“人が集う病院”としての好循環を作り、人材基盤と労働環境を強化する正のスパイラルを目指したい」と語った。なお、HITO病院の発表は、同フォーラムで最優秀賞に輝いた。

(事例2)・「広報は県境を越える~医療圏域における信頼構築」米子市・鳥取大学医学部附属病院

 鳥取大学医学部附属病院は2017年で21回目を迎える同大会で、大学病院として初めて優秀賞を受賞した。同院は697床、40診療科目を有し、年間手術件数は7000件を超える県内唯一の特定機能病院。地域の高度急性期医療を担う同院は2016年の国立大学法人化以降、国立大学病院でトップクラスの経営を目指し、病院経営の向上・安定化に務めて来た。同院は厳しい競争の中で大学病院であっても医療圏の確立と、更なる拡大が重要になるとの認識から鳥取県内にとどまらず、同院の在る米子市の周辺地域である鳥取県東部、岡山県北部等のマーケットも含めた独自の『100万人医療圏構想』を打ち出した。

 ただ、課題としては、地域によって同院の認知度浸透に温度差があり、同院が本来、積極的に受け入れるべき高度急性期医療を必要とする患者が、実際には受診していない実態も見られた。そのため、「100万人医療圏」で存在感を高めて、信頼され選ばれる病院となるために“広報力”を最大限、発揮することが必要と考えた。

 「100万人医療圏」の中で、特に重視したのは市から約30km離れた人口約20万人の松江市。県境が一つの壁となり、同院は近接した地域に在りながら、提供する医療に関して松江市民に認識されておらず、受診選択肢として入り難い状況にあった。そのため、2015年からは松江市を広報重点地域に設定し、市民対象のセミナーを開催すべく同院で「松江セミナー・プロジェクトチーム」を立ち上げ、医療・行政機関、公民館、経済団体等に出向き開催趣旨を説明。そのためのネットワークづくりにも注力した。

 これら地域の施設・団体等の人々との「顔に見える」対話型アプローチの徹底により、セミナーのチラシ設置や掲示の協力だけでなく、松江市民が同院に関心を持つきっかけ作りにも繋がり、信頼関係が徐々に醸成されていった。また、地元新聞やケーブルTV,病院のホームページ等、あらゆる媒体を使ったメディア・ミックスにより、広く松江市民への同院の周知と浸透が進む結果を生んだ。

 その中でも地元情報誌の巻頭ページで、同院院長と松江市長の対談記事を掲載し、「県境を越えて暮らしを守る」とのメッセージを発信したことのインパクトは大きかった。

 実際のセミナー開催においては松江市内の某基幹病院のドクターにも講演を依頼。2つの病院の「連携セミナー」という形式で実現した。連携セミナーにした重要なポイントは、「松江市民に信頼されている地元の病院と同院が連携関係にあること。松江市内で解決しない疾患は同院が受け持ち、遠方の医療圏に行かなくても、近隣で最適な治療の受診が可能なことを、理解して頂く」ことだった。

 2015年からの3年間で、松江市内のセミナー参加者総数は540名、案内送付希望者は232名と市民の関心は高かった。セミナー参加者には次回案内の希望を募り、希望者に対しては同院の情報提供も始めている。また、同院のことを更に知って頂くために、院内ツアー等の新しい広報企画も検討中だ。広報活動の効果としては、やはり大学附属病院に対して市民の「敷居の高さ」が、払拭されつつあることが大きかったようだ。

(事例3)・「積極的リリース戦略で躍進し続けるメディア露出」一宮市・(社医)杏嶺会・一宮西病院

 同大会の発表の中で、マーケティング視点から最もユニークだったのは、愛知県の一宮西病院による報告だ。同院の広報の目的は「患者さんが医療を選択するために必要な情報を適切に届けること」と位置付けている。様々なメディアを活用した医療情報の発信は有効な広報活動の一つだが、より高い信頼性を担保するための最も重要な要素を「客観性」であるとした。患者目線は勿論のことだが、外部のニーズを捉えた「第三者目線」、同院の広報担当者は、それを“記者目線”として表現している。実際に、広報担当者らは、あるメディアの現役記者との出逢いがあり意見交換をする中で、「病院がメディアで記事にして欲しい情報と、記者が記事にしたい情報」との間には、大きな乖離があることに気づくこととなった。

 例えば、同院では外来待合ホールのテレビで「病気のQ&A」等に関するビデオ映像を流してきたのだが、当該記者によれば病院が何気なく行ってきたこの活動が、病院の待ち時間対策としても効果があると指摘したのだ。情報発信の最前線にいる記者たちは、社会のニーズに対して極めて敏感である。この出来事を機会に、同院の広報担当者らは地域住民のニーズはどこにあるのか、“記者”目線の客観的な視点で、同院が実施してきた広報活動を再検討することになった。

 その一つとして拘ったのが、プレスリリースであった。いかに、ニーズのある情報でもニュースリリース資料を、まずメディアに見てもらわなければ、記事や報道等で取り上げてもらうチャンスは得られない。広報担当者自らが病院内各部署をヒアリングし、「独自性」と「有益性」の高い情報をリサーチ。また、これまで効果のなかった同院のリリース資料を検証すると文字数が多過ぎ、更に写真が少なく、文章にメリハリも無く、何を伝えたいのかが、極めてイメージし難かった。リリース資料の顔になるのはタイトルであり、そのまま記事見出しになるようなコピーを意識して、「病院目線」ではなく「記者目線」のリリース資料作成を心がけた。

 この他、一般企業向けの勉強会等にも参加し、地元TV局のプロデューサーや新聞記者等の意見も参考にして、「メディアの記憶に残り、取り上げたくなるプレス・リリース」づくりを目指した。手始めに、同院は一昨年、その年から実施した「医療費後払いサービス」のプレス・リリースを作成。リリース資料を、これまで名刺交換等で交流のあるマスコミ関係者等、約70名にメール送信し、地元一宮市の記者クラブ加盟15社、愛知県記者クラブ加盟25社のクラブにも投函。その結果、中日新聞尾張版で2回、中部経済新聞で1回の掲載が実現した。更にFM、AMラジオ等でもレポートとして紹介された。

 手ごたえを感じた同院では、“記者目線”でニュース価値があると判断した「中学生手術体験ツアー」や、「医療ロボット導入」等のリリース資料を作成し、次々と多様なメディアに取り上げられるという好循環が続いた。

 成果として、記事やパブリシティでのメディア露出実績は、2014年は24回、15年は45回、16年は68回と、前述のリリース戦略を導入してから、飛躍的に増加した。

 同院は2016年度の無償のメディア露出を、広告費に換算すると、約1600万円にも上ったという。また、入院患者数も前年比111%に延びた。

 同院広報担当者は「一宮市民が普段、目にする新聞、TV、ラジオ等のニュースを通じて同院に対する理解を深めて頂くことは、その他の広報活動全般に対する大きな付加価値を生み出し、同院の認知度や信頼度の向上に大きく貢献している」と総括した。

*ここで紹介した各事例は、2017年10月段階での同大会プレゼンの情報に基づいている。

〔取材・文責 NPO法人 日本HIS研究センター理事・運営委員:冨井 淑夫(医療ジャーナリスト)〕

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。
【掲載】2019年09月21日