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医療機関の地域包括ケア・システム推進に期待される「スマートウェルネス等推進モデル事業の全容」

医療ジャーナリスト:冨井 淑夫先生

国土交通省は近年、地域における高齢化、人口減少、産業の空洞化等の諸問題に対応すべく高齢者・障がいを持った方、子育て世代等の健康の保持や増進に資する事業(スマートウェルネス住宅等推進モデル事業等)を積極的に進めてきました。国が進める地域包括ケア・システム構築を推進し、強化する事業として大きな期待が寄せられており、9年間で12件の医療法人・22件の社会福祉法人がモデル事業に選定されています。ここでは、医療機関の地域包括ケア・システム推進に期待される「スマートウェルネス等推進モデル事業の全容」について、具体的な事例を含めご紹介します。

9年間で12件の医療法人 22件の社福がモデル事業に選定

 国土交通省は近年、地域における高齢化、人口減少、産業の空洞化等の諸問題に対応すべく高齢者・障がいを持った方、子育て世代等の健康の保持や増進に資する事業を積極的に進めて来た。これらの事業の多くは街づくりや“住まい”づくり、都市計画等を中心としたものだが、具体的は「スマートウェルネス等、推進モデル事業」(2009年創設、以下、同モデル事業に略)、「地方都市リノベ―ション事業」(2012年同)、「コンパクト・シティ(集約都市)形成支援事業」(2013年同)等になる。これらの事業スキームは似ているようで、何れも微妙に異なるのだが、予防・医療・福祉・介護事業との積極的な連携や協働が求められる点では共通しており、国が進める地域包括ケア・システム構築を推進し、強化する事業として大きな期待が寄せられている。

 これら3つの事業の中でも既に定着し、医療機関や福祉施設による実績案件の目立つのが最初の同モデル事業。基本的なコンセプトは「高齢者、障がい者、子育て世帯等(以下、高齢者等に略)の居住の安定確保や地域住民の健康の維持・増進、多様な世代の交流促進等を図ることを目的として、住宅団地等に拠点施設を新設・改修する場合、その費用に対して国が民間事業等に対し補助を行うもの」としている。

 2016年度は同モデル事業に対して320億円の予算を計上、2017年度は376.2億円の予算要求が行なわれていた。一般企業や住宅関係者だけでなく医療法人や社会福祉法人等も実施主体となることが可能な事業であり、医療法人病院等が同モデル事業に選定された事例も既に動き出している。

 同モデル事業(プロジェクト提案型)には「一般部門」と「特定部門」が存在するが、医療法人や社会福祉法人が対象となるのは「一般部門」。その他、株式会社、独立行政法人、NPO法人等、幅広い事業者に門戸が開かれており、複数の事業体による共同提案も可能である。「特定部門」は主に住宅関係者が対象となる補助事業だ。

  「一般部門」の要件は、高齢者等の居住の安定確保、及び健康の維持・増進に資するために「具体的に課題解決を図る取り組みで、先導性が高く創意工夫を含むもの」であり、「公開等により前述の維持・増進に資する住まいづくり・まちづくりの推進上、効果を高めるための情報公開を行うものであること」と事業内容の透明性が求められている。

  「一般部門」には2016年から従来のプロジェクト提案型に加えて、2016年から新たに「システム提案型」の事業も募集対象となった。何れも、住宅や設備の整備費だけでなく、設計費についても3分の2の費用について補助金を活用出来るのが特徴だ。

 ところで、プロジェクト提案型の募集テーマで注目したいのは、最初に「地域包括ケア・システムの構築・強化等に資する高齢者の住まい等の整備」と明記されていること。国土交通省の事業ではあるものの厚生労働省が2025年に向けて描く地域包括ケアと連動した事業スキームであることを改めて理解出来る。

 出典:国土交通省「平成28年度スマートウェルネス住宅等推進モデル事業の二次募集について」(平成28年8月31日)
http://www.mlit.go.jp/report/press/house07_hh_000159.html

2016年には初めて医学部を持つ学校法人がモデル事業に採択

 同モデル事業は2009年から2017年までの9年間で99件の事業案件が採択されているが、代表提案者を見ると医療法人の選定が12件(図表2)、社会福祉法人(社福)の選定が22件(うち一つは一般社団との共同提案)に及んでいるから、両者を合わせると全体の約3分の1強で医療機関や福祉施設が事業主体の案件が占めている。

 それでは、2017年まで9年間の選定99事業の内訳を見ると、前述・(医療法人・社福34件)に加えて、株式・有限会社等の民間企業、公益法人、独立行政法人、NPO、協同組合、地方建築士会、住宅供給公社等、多彩な事業所に門戸が開かれていることが分かる。この中の医療法人事業を精査すると、都市部は少なく人口減少、過疎化・空洞化の進む地方の医療施設が多くを占め、在宅療養支援病院等の「200床未満」病院の割合が高く、一部、小規模診療所が事業主体のケースも見られる。社福による選定事業には、高齢者だけでなく、障がいを持った方々や、学童保育に係る案件が多く含まれていることにも注目される。2016年度には医療法人の応募はゼロだったものの愛知県の学校法人藤田学園保健衛生大学の提案事業(提案名「長寿社会に求められるロボティックスマートホームの開発」)が採択された。学校法人としては初の選定事例であり、医学部を併設する大学であることを考えると注目すべき事案と考えられるので、医療法人や社福ではないものの筆者の判断で、(図表2)の中に含めさせて頂いた。

(図表2)医療法人〔医療機関〕が選定された「スマートウェルネス住宅推進等モデル事業」一覧

●2009年

  • 医療法人社団創生会(岩手) 『高齢者居宅安心ネット金ヶ崎』
  • 医療法人社団みゆき会(山形) 『トータルシステム構築計画」(山形 医療法人版)』
  • 医療法人社団39会(埼玉) 『高齢者人工透析受療支援賃貸住宅の整備』
  • 医療法人社団清和会(岡山) 『安価・安心・安全の高齢者専用賃貸住宅の提供』
  • 医療法人寿仁会(沖縄) 『セントラルビレッジを核にした真和志地区医療福祉循環構想(セントラルビレッジ)による「あんしん」の仕組みづくり』
  • 医療法人ゆりかご(長野) 『高齢者の日常生活における生活型経絡活動運動による介護予防の効果的実践~実践の場としての高齢者賃貸住宅の社会的役割の検証』
  • 医療法人吉創会(三重) 『医療福祉複合型安心住宅の整備』

●2010年

  • 医療法人徳洲会(鹿児島) 『離島に於ける高齢者医療・介護・居住複合施設並びに島民地域ケア展開事業』

●2011年

  • 医療法人おかはら会(山口) 『地域がハグむ(育む)大往生の島プロジェクト』
  • 医療法人蛍慈会(青森) 『地域資源を結んで作る、地域に住む人のための地域包括ケア』

●2014年

  • 医療法人社団映寿会(石川) 『法人の理念である「人が心身ともに健康で楽しく、生きがいをもって自宅で長生き出来る手助けをする」を地域住民と共に共有し、総合的継続的に実施できる体制を構築していくためのプロジェクト~スマートコミュニティの創出』

●2015年

  • 社会医療法人栗山会(長野) 『歴史ある街並みを活き活きと暮らす丘の上ウェルネスタウンプロジェクト』

●2016年

  • 学校法人 藤田学園
    藤田保健衛生大学(愛知) 『長寿社会に求められるロボティック・スマートホームの開発』

(国土交通省・資料を基に筆者作成)・(注)医療法人社団みゆき会(山形)は現在、社会医療法人に改組されている。

 2017年度の一般部門・公募概要は①住宅並びに高齢者等の居住の安定確保及び健康増進に資する施設(建築設備を含む)の整備(建築、取得または改修)②技術の検証(先導的な提案に係る居住実験・社会実験等)③情報提供及び普及(展示用住宅の整備、展示用模型の作成、その他の情報提供及び普及)――の何れかまたは、これらを組み合わせた提案で、同年10月16日から11月15日までの募集期間に6件の応募があった。ただ、ここでも医療法人、社福からの応募はなかった。

 これら募集提案に対して、学識経験者8名からなる「スマートウェルネス住宅等推進モデル事業評価委員会」(委員長:高齢者住宅財団理事長・高橋紘士氏)が①課題設定と解決法策の適切さ②先導性・創意工夫③総合的・継続的な推進体制④波及効果・普及可能性⑤多様な事業効果⑥地方公共団体との連携等⑦支援の妥当性・必要性――の7つの視点から総合的に審査し、2つの民間企業による事業提案が選定された。

 過去9年間の採択事案を応募総数と比較すると、打率は決して高くはなく、同モデル事業評価委員の中で極めて厳格な審査が実施されて来たことが分かる。モデル事業に応募するには、当該プロジェクトを計画した背景、その課題やその解決方法、有効性の検証等も織り込んだ精緻な事業スキームやプランの作成が必要になる。数年前に事業提案が採択された某医療法人理事長は、筆者の取材に対し「私たちは半年程かけて事業スキームを策定しましたが、そのプロセスでは国土交通省関係者と幾度も協議を重ね、事業評価委員の厳しい指摘により内容の軌道修正を迫られました。しかし、対象事業となる特定施設(介護付有料老人ホーム)の開設において、当医療法人の理念と連動した基本コンセプトは揺るぎなく、一貫していたことが採択に繋がったのではないでしょうか。今から振り返ると、同評価委員会の審査は大変、厳しかった」と振り返っている。

 事業開始の初年度こそは医療法人による採択が7件と多かったものの、その後は減少傾向で推移し、2012年、2013年、2016年、2017年と選定のなかったのは残念だ。国土交通省の関係者は、2016年度同モデル事業の選定について次のような趣旨の総括をしていた。「提案された案件が他地域のモデルとなるためには、当該取り組みの有効性を検証することが重要ですが、検証内容が明確に示されていないものも見られました。その他、先導性は認められるものの、取り組み内容や波及効果が具体的に示されていないもの、実施体制や役割の明確化が不十分なもの、必要額の根拠が明確でない提案については低く評価されたと思います。」

 全国各地で地域包括ケア構築が急がれるなかで、医療機関や福祉施設等が主導する創意くふうに満ちた事業提案の増えることに期待したい。

歴史ある街並みを生かす ウェルネスタウン・プロジェクト

 飯田市の(社医)栗山会 飯田病院(452床;一般212床・精神240床)は長野県内で現存する病院としては最古の歴史を持つ病院。精神科病床と一般病床がほぼ拮抗し、一般急性期(「7対1」3病棟「地域包括ケア」1病棟)と精神科を「二本の柱」にした日本では珍しいタイプの医療施設である(2017年4月時点)。

 筆者は「2015年度・スマートウェルネス住宅等推進モデル事業」の選定を受けた栗山会を、2017年4月に取材させて頂く機会を得た。あくまでも、その時点での取材コンテンツであることをお断りした上で、最後にご紹介させて頂きたい。

 同院の精神科の標榜は1925年からと古く、わが国の精神科医療の“草分け”的存在であり、飯田市内では唯一の精神科入院機能を備えている。

 同法人は同モデル事業を活用し橋北地区と呼ばれる飯田市仲ノ町にある旧酒造跡地の約3700㎡に地域包括ケア複合施設「ウェルネスタウン丘の上」(以下「丘の上」)を着工。鉄骨造3階建て、建築面積約1131.60㎡延べ床面積2859.64㎡の施設は2017年6月末に竣工。内装工事を経て同年10月にオープンした。

 「丘の上」は1階部分に診療所・訪問看護・介護ステーション、通所リハ等の介護機能に加えて、メディカル・フィットネスや地域の交流サロンを設置。2・3階部分には全36室のサ高住(サービス付き高齢者住宅)を開設し、地域包括ケアの「住まい」の機能を担う。また、敷地内にある旧酒蔵の1階部分はレストラン・カフェとして365日体制で地域に開放し、三食・おやつ等の配食サービス等も提供する。(「丘の上」の詳細に関しては栗山会ホームページを参照。)

 栗山会が国土交通省に当該事業を申請した背景には、急速なスピードで進む地域の高齢化・人口減少問題があった。2015年の飯田市の人口は約10万1千人、高齢化率30.1%。人口問題研究所によると25年後の2040年における飯田市の高齢化率は38.4%に達し、人口は8万人を切ると推計されていた。

 一方で、同市と14町村からなる長野県最南部の「飯伊二次医療圏」は面積だけを見ると大阪府や香川県よりも広い広域医療圏だが、山間部が中心であり人口約16万2千人をカバーしているに過ぎない。「長野県地域医療構想」では同構想区域の病床推計では「2015年度の許可病床総数は1563床(稼働病床1515床)、2025年に必要と推計される病床数は1338床」としており、200床を超える入院医療ニーズの減少が見込まれていた。

 地域的に「丘の上」の在る橋北地区は、現在でも高齢化率が40%を超え、2005年から2016年までに人口が15.1%減少、地域の空洞化が不安視されていた。近隣に郊外型の大型店舗が出来て、生業的な小売店舗の多くが廃業。同地区の商業機能が脆弱化していた。同地区では藩政時代は武家屋敷、馬場等があった地区であり、僅かながらその佇まいが残っている。著名な日本画家の菱田春草の生誕地の他、登録有形文化財である教育会館、旧飯田測候所等も現存し、地域住民からは歴史ある街並みの保存・再生・活用が要望されていた背景もあった。

地域の景観保存と地場産業の活性化に貢献する事業

 飯田市内には特養、特定施設等の介護施設は幾つか存在するものの高齢化の進展が速く、独居高齢者も増えて需要に供給が追いつかず、入所の待機期間が数年に及ぶ方も出てきていた。栗山会でもサ高住のニーズのあることは想定出来ていたが、建築士のアドバイスもあって、2015年度の同モデル事業に応募することを決定。「歴史的な景観を残す地区で医療法人の事業と、地域活性化をクロスオーバーする」というプロジェクトを計画した。特に地域住民の声を反映させながら、事業スキームを組み立てていった。

 同法人事務局長を中心とする「丘の上」開設準備チームは、橋北地区の自治会や街づくり委員会、更に飯田市や市長らとも事前協議を重ねて、コンセンサスを得た上で丁寧に作業を進めることになった。そのプロセスで、「地域の景観に自然と調和する建物を造って欲しい」との地域の要望により、酒造メーカーから酒蔵の建物を買い受け、歴史あるその建物を生かした施設を造ることになった。

  「丘の上」の内外装材には地元産材である根羽スギ、根羽ヒノキを使用し、地域林業の活力向上に寄与すると共に、屋根には太陽光発電パネルを設置。その収益を地元の街づくりに還元するというプランも、事業スキームの中に織り込まれている。

 2015年度の同モデル事業の応募は全国から25件あり、採択されたのは全体で4件。医療法人による応募も4件あったが選定されたのは、栗山会による「丘の上」プロジェクト1件のみ。スキームの一つである「クラシカルな街並みや景観の保存・再生」が評価されたのは、正に国土交通省独自の事業ならではのものと言えよう。

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。
【掲載】2019年06月29日