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「公認心理師」国家資格化がもたらすもの
~医療現場・医療経営に与える影響とは?

医療ジャーナリスト:冨井 淑夫先生

「公認心理師法」は、2015年9月16日に公布され、2017年9月15日より全面施行となりました。「公認心理師」の国家資格化が医療現場及び医療経営に与える影響について、ご紹介します。

厚労省・文科省両省が所轄する心理技術職の国家資格が誕生

 1月24日の中医協総会で、2018年度診療報酬改定・個別改定項目の概要(短冊)が明らかになった。2月7日に厚生労働大臣への答申が行なわれ各改定項目の実際の点数や詳細な要件設定等が公表された。

 その中で新資格「公認心理師」に係る言及があることに注目したい。精神科系医療機関以外には余り馴染みのない職種かもしれないが、従来、医療機関等で勤務する臨床心理技術者の資格である臨床心理士は国家資格ではなく、文部科学省の管轄する団体が認定する民間資格。国家資格である精神保健福祉士とは区別され、随分、前から医療機関で働く臨床心理士からも国家資格化が議論されてきた。2005年頃に国会で「医療心理師」の国家資格化が検討されたこともあったが、関係団体や学会等への根回し不足で頓挫している。

 ちなみに従来、診療報酬の規定にある臨床心理技術者とは、臨床心理士だけを指す訳ではなく、一定の教育を受けた心理職全般を対象にしている。2005年の医療観察法の施行に伴い、厚生労働省の省令で「心理学に関する専門的知識及び技術により心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行う能力を有すると認められる者」として臨床心理技術者が定義された。

 出典:公認心理師カリキュラム等検討会報告書(厚生労働省)平成29年5月31日
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000167171.pdf

 こうした声を受けて、厚生労働省、文部科学省は以前から国家資格化を検討し、「公認心理師法」を2015年9月16日に公布。翌2016年3月15日に指定試験機関に係る規定が施行され、2017年9月15日より全面施行となった。同時に「公認心理師法施行令」、「公認心理師法施行規則」(平成29年文部科学省・厚生労働省令第3号)が制定。同日から施行された。

 文部科学省・厚生労働省による同法の趣旨を要約すると「心の健康の問題は国民の生活に関わる重要な問題で、学校・医療機関・その他の企業等、様々な職場における心理職の活用の促進が喫緊の課題。ただ、わが国においては心理職の国家資格がないことから、国民が安心して心理に関する支援を受けられるようにするため、国家資格に裏付けられた一定の資質を備えた心理職が必要とされてきた。法はこのような現状を踏まえ、公認心理師の国家資格を定めて業務の適正化を図り、もって国民の心の健康の保持増進に寄与することを目的とする」との内容だ。そして、2018年9月9日に第一回「公認心理師」国家試験が実施されるが、心理専門職として仕事に従事する人たちの中で、「5年間の心理職の実務経験があり、指定科目を一部履修出来なかったために受験資格が得られない現任者」及び「実務経験5年以上の現任者」を対象にした経過措置が設けられている。後者の現任者とは、両省が指定する現任者講習会を受け修了することで、特例措置として受験資格を与えるというものだ。

 本来、臨床心理士の資格を取得する人たちは、一般的に4年制大学において省令で定める科目を履修した上で、更に大学院へと進み必須科目を履修。その後、文科省管轄の(公社)日本臨床心理士資格認定協会の認定試験を受けて合格しなければ、資格が得られない。

 新しい「公認心理師」資格取得の流れだが、以下のAからGまで7パターンあり従来の臨床心理士に比べて同資格を得るまでの道筋が多様で、一見しただけでは分り難い。(前出・特例措置に係るのはGだが、これに関して医療現場の多くの臨床心理技術者から疑義が生じ始めているので後述する。)

 出典:中央社会保険医療協議会総会(厚生労働省)平成29年12月13日
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000167171.pdf

 ただ、管轄する両省が初年度はハードルを下げて従来の臨床心理士以外にも裾野を拡げ、「公認心理師」資格取得者を数多く養成したいと考えているのは、容易に想像がつく。趣旨にある大義名分は「様々な職場における心理職の活用促進」とされるが、公認心理士を拙速に増やしたい理由として、両省の官僚には、別の思惑もあるような気がしてならない。筆者は「公認心理師」資格化に伴い主に医療現場で仕事をする臨床心理士、精神保健福祉士、精神科医、心理学者、病院事務長等を取材し、国家資格化に伴う医療現場での反応や、今後の医療経営に与える影響等を探ってみた。取材対象が主に現任の医療従事者であり匿名取材を余儀なくされたが、ここからはルポの形で紹介していきたい。

診療報酬上は公認心理師として扱う“みなし規定”の導入

 出典:中央社会保険医療協議会総会(厚生労働省)平成29年12月13日
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000167171.pdf

 中医協資料では公認心理師の診療報酬上の取扱いについて言及されている。要するに国家試験実施を踏まえて2018年4月以降、「診療報酬上で評価する心理職の範囲は公認心理師に統一」される。そして、最初の国家試験が行なわれる今年に関し、「従来の臨床心理技術者に該当する者を公認心理師」とみなすとの“みなし規定”が導入される見通し。

 後者の“みなし規定”に関しては、「2019年3月末まで医療機関に従事していた臨床心理技術者で、同年4月以降に新たに臨床心理技術者として従事する者のうち公認心理師の受験資格を有する者」と規定している。

 要するに、2019年3月末まで医療機関に勤務、或いは同年4月以降に新たに従事する臨床心理技術者で公認心理師の受験資格を持つ人は、国家試験に合格し同資格登録をしていなくても、公認心理師とみなされる。これは、あくまでも診療報酬の運用に限定された経過措置であり、同資格を取得する人たちは国家試験を受けて、同資格登録をしなければならないし、公認心理師を名乗れないことは言うまでもない。

 2018年4月に、診療報酬・介護報酬の同時改定が国家試験よりも先んじて実施されるため、このような措置が取られたのだと思われる。

 臨床心理技術者が国家資格化されることに、どのような意味があるのだろうか?

 20年以上、臨床経験のあるベテランの臨床心理士は次のように指摘する。

 「国家資格になる重要なポイントは臨床心理技術者に秘密保持が課せられること。違反者には罰則を課せられることが公認心理師法でも規定されている。一つの例を挙げると、患者にストレス・チェックを実施出来る職種は看護師と精神保健福祉士に限られた。仕事の性質から考えると当然、臨床心理士が担っても良い業務だが、それが出来ない理由は国家資格ではなく民間資格であり、守秘義務が課せられないことがネックとなっていた。」

 出典:中央社会保険医療協議会総会(厚生労働省)平成29年12月13日
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000167171.pdf

 「臨床心理技術者に関連する従来の主な診療報酬上の評価」については、中医協の“働き方改革”の議論で出て来た資料の一つ。勿論、これら以外にも精神科デイケアや精神科リクレーション等の分野にも、臨床心理技術者の活躍する領域は少なくなかった。

 「公認心理師への言及が中医協の“働き方改革”を巡る報酬改定の文脈でも出てきたのは非常に興味深い。医療機関でピアサポート等、がん患者のメンタル面のサポートや就労支援の必要性が指摘されてきたが、“働き方改革”と連動して、今後の診療報酬改定でも、そうした流れが更に進むと、精神科医療機関だけでなく一般病院等でも公認心理師の活動範囲が拡がっていく可能性が高い」と地方都市の某総合病院事務長は期待を寄せている。

 2018年度診療報酬改定で新設される「ハイリスク妊産婦連携指導料1・2」は「精神疾患の妊産婦に対する産科、精神科、自治体が連携して行った外来診療」を評価した画期的な新機軸だが、同指導料の要件(当該患者の診療方針等のカンファレンス参加)では、既に「公認心理師等」との記述のあることに注目したい。

 実際に、公認心理師資格とリンクした診療報酬項目が今後、拡充されていくと、公認心理師の病院経営における貢献度は高まるため、病院側にも積極的に新資格を取らせようとする動きは活発化しそうだ。都心部の医療機関で勤務する精神保健福祉士は、「今年は新資格の初年度ということで昨年11月頃から現任者講習会の募集が始まっているが、大都市圏の自治体等では、今年度の同講習会に受講希望者が殺到し、あっという間に受講定員がオーバーして、受講できない事態に陥っている」と嘆く。

 精神科系病院等に話を聞くと、臨床心理士や精神保健福祉士等に加えて、現段階では看護師で「公認心理師」資格を取ろうとする人たちが増えているようだ。精神科病院や心療内科等の現場では、看護師の中にも臨床心理技術者と変わらない仕事をしてきた人が数多くいるので、特例措置で取得し易い今のうちに取得し、Wライセンスによりキャリア・アップを図ろうと考える看護職も少なくないらしい。また、診療報酬で要件化される項目が増えていくと、2つの資格を持つ公認心理師ナースは病院経営者にとっても“使い勝手”が良い筈だ。一方、前述のように両省が安易に資格取得への間口を広げたために、医療現場で働く臨床心理士等から、現状、多くの疑義が呈されるようになっている。

「週1日以上」勤務でも現任者?臨床心理士の多くから不満が噴出

 前出・現任者講習会の特例措置(G)に関して、某大学病院の心療内科に勤務する臨床心理士Aさん(34歳)は、「私たちは大学・大学院で6年間、専門領域を勉強し、最先端の大学病院で数年、臨床経験も積んできた。一方で、5年間以上、文部科学省令・厚生労働省令で規定された施設で勤務経験があれば現任者講習を受けられ、それを修了すれば公認心理師の受験資格を得られると言うのでは、どう考えても不公平だ。現任者として、どのようなバックグラウンドがあるのかが問われるべき。こんなに安易に受験資格を与えるのは、如何なものか!」と憤る。Aさんが立腹するのにも理由がある。

 2017年9月15日に両省が発表した「公認心理師法の施行」では、現任者講習の受講資格について「現任者としての勤務期間は、雇用契約に基づく契約期間を業務に従事した期間として計上することが望ましい。その際には、状態として週1日以上の勤務であった期間について認めるものとする」(法附則第2条第2項)との記述があるのに注目したい。

 要するに、「5年間勤務」の内容が週1日程度のパート勤務等でも認められるとなると、例えば週1日の頻度で、がんセンター等にボランティアとして通うピアサポーター等の人たちも、勤務する医療機関等、主要5分野の施設(大学院における実習施設として規定された施設)の判断により実務受講証明書を書いてもらうことが可能ならば、現任者として認められ、講習を受ければ国家試験の受験資格を得られることになる。国家資格である以上、学問としての基礎・専門知識を担保される必要がある筈だが、海外留学や大学院進学等で、先進的な学究の場にいた臨床心理士と、週1程度の無資格ボランティアの人たちが、同じ土俵に上がるのは確かに違和感がある。素人目にも両者の資質には、相撲に例えれば三役と幕下以上の力量の差があるように思えるからだ。何れにせよ、相撲(国家試験)に勝利しなければ、公認心理師の資格は得られないのだが・・・。

 公認心理師の活動する主要5分野とは大きく分けて、①保健医療分野②福祉分野③教育分野④司法・犯罪分野⑤産業労働分野――とされ、その活動領域は医療・福祉施設に限らず極めて幅広い領域に亘っている。

 数年前に、スクール・カウンセラーとして働いていたベテラン臨床心理士は、「③の領域のスクールカウンセラーは、特定の学校の常勤ではなく、週に1,2回ペースで幾つかの学校をかけ持ちで行き来する勤務形態が多かった。学校以外の裁判所や企業等でも、そのような変則的な働き方をする心理職は多かったと思うし、Gの“週1勤務でも可”との緩和措置は、これら臨床心理士の“働き方”にも配慮した結果かもしれない」と指摘する。ただ、臨床心理技術者の中からも、「D~Gは現段階での変則的な緩和措置であり、近い将来、国家資格取得の方法はA~Cだけに限定されるだろう」との見方が根強い。

臨床心理士の側からは「主治医の指示条項」に反対意見

 筆者は当初、国家資格化により前出①②の領域で資格取得者が急増し、③④⑤の領域を主戦場とする臨床心理士等と二極分化すると想像していたのだが、どうやら、そうではないらしい。某大学心理学科講師に聞くと「医療・福祉施設だけでなく、企業内カウンセラーや裁判所、刑務所・少年刑務所等でも心理テスト等を実施する機会が多いから、同資格の社会的ニーズは今後高まり、医療・福祉施設等で働く以外の人たちの中からも、資格取得のインセンティブは強まるだろう」との見方だ。ただ、心理カウンセリングに係る職種は、精神保健福祉士、臨床心理士以外にも2016年から国家資格化されたキャリアコンサルタント、スクール・産業カウンセラー、メンタル・トレーナー等、幅広く多彩である。

 これら多様なバックグラウンドの人たちが、特例措置により現段階では取得し易いとされる新しい国家資格に“一括り”にされると、一般国民には、各々の機能や役割が分かり難くないのだろうか?この点について前出の講師は「おそらく、これら諸資格と公認心理師のWライセンスを名乗る人が増えるだろう。臨床心理士に関しても、今後、資格が公認心理師一つに集約される可能性は考え難く、殆どがWライセンスで病医院等で働くことになると思う。実際に糖尿病や認知症、産後うつ病、更に美容整形等の患者の中にも、専門家によるメンタル面のサポートやカウンセリングを必要とする人たちは増えているし、国家資格化で制度とリンクすることにより、医療機関等で公認心理師の関わる診療分野は更に拡がっていく可能性は高い」と強調する。

 一方、臨床心理士の立場からは、公認心理士法案の「主治医の指示条項」に関して、(一社)日本臨床心理士会、(一社)日本心理臨床学会等、その他多くの団体から反対意見が出されている。「公認心理師は、心理に関する支援を要する者に当該支援に係る主治医がある場合は、その指示を受けなければならない」との趣旨の条文に反対しているのだが、医師以外の医療専門職に関連する法律で、医師の「指示」、「一部指示」、「指導」、「連携」等、各職種で文言が曖昧に使い分けられてきたことが、国家資格化に当たり混乱を招く一つの原因にもなっている。専門職の自由裁量権に関わる難しい問題を含んでおり、限られたスペースで軽々に言及することは避けたい。これに関しては、当該団体等の取材を重ねて、改めてご報告する機会を頂けたらと思う。

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。
【掲載】2018年03月16日