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うつ病への反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)の現状と課題

東京慈恵会医科大学精神医学講座
鬼頭伸輔

はじめに

 うつ病は、抑うつ気分や興味・喜びの喪失を主症状とする疾患である。国内の患者数はおよそ100万人超と見積もられ、就労・就学の妨げや自殺の誘因となるため、その社会的な損失は大きい1)。また、その経過中、再燃・再発しやすく、慢性化しやすいことが知られる。うつ病の治療では、休養、環境調整、心理教育や認知行動療法などの精神療法、薬物療法が集学的に行われる2)。薬物療法は、ガイドラインに準拠し、個々の症例に応じて段階的に進められるが、約1/3の患者は複数の抗うつ薬によっても寛解に至らないことが報告されている3)。このような患者への新規治療法に対する医療ニーズは大きく、さまざまなモダリティーの医療機器が研究開発されている(表1)。

(表1)脳刺激法
侵襲的脳刺激
(invasive brain stimulation)
非侵襲的脳刺激
(noninvasive brain stimulation)
けいれん療法
(convulsive therapy)
脳深部刺激(DBS) 経頭蓋磁気刺激(TMS) 電気けいれん療法(ECT)
迷走神経刺激(VNS) 経頭蓋直流刺激(tDCS) 磁気けいれん療法(MST)
  経頭蓋交流刺激(tACS)  

※侵襲性、けいれんの有無により、3つに大別した。うつ病では、TMSとECTが既承認である。

 わが国でも、2017年9月、国内で初めての治療用rTMSであるNeuroStar TMS治療装置が新規治療法として承認され(図1)、2019年1月、さらに、より脳深部を刺激できるBrainsway TMSシステムが承認された(図2)。その適応は、抗うつ薬による薬物療法に反応しない中等症以上の成人のうつ病患者である4)。2019年6月からは、保険診療として入され、うつ病治療の選択肢が広がった。

(図1)NeuroStar TMS治療装置(Neuronetics, US)
(図1)NeuroStar TMS治療装置(Neuronetics, US)
(図2)Brainsway TMSシステム(Brainsway, Israel)
(図1)NeuroStar TMS治療装置(Neuronetics, US)

rTMSについて

 経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation, TMS)は、Faradayの電磁誘導の法則に基づいて、非侵襲的に生体を直接刺激することができる技術である5),6)。コイル内に200〜300μsecの瞬間的な電流が流れると、コイル周囲に磁場が生じコイル内の電流とは逆方向の渦電流がコイル面にそって流れる。この渦電流(誘導電流)がニューロンを発火させる。通常の刺激深度は、コイル表面から2cm程度である。左半球の一次運動野であるC3電極近傍を刺激すると、右手指の筋収縮が観察される。rTMSの刺激強度は、短母指外転筋の安静時運動閾値(resting motor threshold, RMT)が基準となる。
 規則的な刺激を繰り返すものを反復経頭蓋磁気刺激(repetitive TMS, rTMS)といい5),6)、皮質や皮質下の興奮性を変化させることから、精神神経疾患の治療に応用されている。たとえば、10Hzの高頻度rTMSは皮質興奮性に促進的に作用し5),7)、1Hzの低頻度rTMSは抑制的に作用する5),8)。このようにrTMSは、刺激頻度に応じて皮質興奮性に及ぼす作用が異なるほか、刺激部位への直接作用だけではなく、神経連絡を介した遠隔効果を有する7),8)。rTMSの治療応用では、それぞれの精神神経疾患の機能的病態に基づいた刺激部位や刺激頻度が選択される9)。うつ病の治療では、背外側前頭前野が刺激部位として選択されることが多く、左前頭前野への高頻度rTMS、あるいは、右前頭前野への低頻度rTMSに大別することができる10)
 近年では、規則的な刺激を繰り返すrTMSに対して、一定のリズムで刺激するものをpatterned rTMSと呼び、シータバースト刺激(theta burst stimulation, TBS)や4連発刺激(quadripulse stimulation, QPS)などの特殊な刺激方法も報告されている(Rossi et al., 2009)5)。TBSには、持続的TBS(continuous TBS, cTBS)と間欠的TBS(intermittent TBS, iTBS)があり、前者は皮質興奮性に対して抑制的に作用し、後者は促進的に作用する5),11)。QPSは、通常の二相性刺激ではなく単相性刺激を用いており、4連発の刺激間隔に応じて及ぼす作用が異なる5),12)。TBSもQPSも、従来のrTMSと比較し、より効率的に神経修飾を引き起こすと考えられている11),12)
 rTMSの抗うつ機序については、現在までに様々な知見が蓄積されている。ここでは、著者らがおこなった臨床研究を中心に論じる。うつ病患者を対象とした神経画像研究から、背外側前頭前野、前頭葉眼窩野、膝下部帯状回、扁桃体などの領域の異常が報告されてきた13)。なかでも、左前頭前野の機能低下は再現性が高いとされる14)。また、うつ病の病態仮説として、前頭前野と辺縁系領域の機能的不均衡を指摘する研究もある15),16)。著者のグループは、治療抵抗性うつ病患者の左前頭前野に高頻度rTMSを行い、左前頭前野、前部帯状回、膝下部帯状回、基底核の脳血流の増加と抗うつ効果が相関することを報告した7)。一方、右前頭前野への低頻度rTMSでは、膝下部帯状回、前頭葉眼窩野の脳血流の減少と抗うつ効果が相関することを報告した8)。さらに、左前頭前野への高頻度rTMSの治療効果は、背外側前頭前野と腹内側前頭前野の脳血流比(DLPFC/VMPFC CBF ratio)と逆相関することを明らかにした17)。これは背外側前頭前野の脳血流量が少なく、かつ腹外側前頭前野の脳血流量が多いほど、この治療に反応しやすいことを示唆する。また、右前頭前野への低頻度rTMSの治療効果は、腹内側前頭前野の脳血流量と正相関することを報告した18)。これは腹外側前頭前野の脳血流量が多いほど、この治療に反応しやすいことを示唆する。これらの知見から、高頻度rTMSが背外側前頭前野に促進的に作用し、低頻度rTMSが膝下部帯状回や前頭葉眼窩野などの腹内側前頭前野に抑制的に作用することで、rTMSが前頭前野と辺縁系領域の機能的不均衡を是正し、うつ病を改善させていると考えられる7),8),17),18)。また、高密度脳波計を用いた機能的結合の解析では、高頻度rTMSにより、左背外側前頭前野と喫前部における機能的結合が逆相関をもって増強すること19)、左背外側前頭前野と海馬傍回、膝下部帯状回と海馬傍回における機能的結合が増強することを報告した20)。これらの結果は、rTMSが、左背外側前頭前野と後部帯状回、左背外側前頭前野と辺縁系領域の神経ネットワークを修飾することを示唆する19),20)

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。

【掲載】2019年10月04日