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「地域医療構想」と「かかりつけ医」制度の陥穽〜「財務省」視点から医療制度を検証する


「医療費適正化計画」と連動する  同構想の目的は「地域別」診療報酬の導入

図表1 医療費適正化基本方針・医療費適正化計画の概要について

出典:第97回社会保障審議会医療保険部会(平成28年9月29日)資料3
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000138006.html

図表2 「経済財政運営と改革の基本方針2015」・「日本再興戦略」改訂2015・「規制改革実施計画」に掲げられた事項について

出典:第40回社会保障審議会医療部会(平成27年9月16日)資料1
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000097841.pdf

 2015年6月30日に「経済財政運営と改革の基本方針2015」が閣議決定されたが、そこでは「地域医療構想と整合的な形で、都道府県毎に医療費の水準や医療の提供に関する目標を設定する医療費適正化計画を策定する」との記述がある。ここで、同構想は同計画と連動したプロジェクトであることが分かる。第二期目の同計画の終了年次は2017年度末だが、同構想の策定終了も同時期で、明らかに歩調を合わせている。「地域医療構想を前提にして病床機能を決定し、医療費も地域毎に決定する」と言うのだが、2016年9月29日に開催された社会保障審議会・医療保険部会報告書に「病床機能の分化及び連携の推進の成果を踏まえた医療費の推計方法」が示され、「平成35年の患者数(人日)の見込み×一人当たりの医療費(推計)」という推計式のイメージが提示されている。

図表3 推計式の考え方について

出典:第97回社会保障審議会医療保険部会(平成28年9月29日)資料
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000138006.html

 また、患者数に係る病床機能の区分として、高度急性期、急性期、回復期、慢性期+在宅医療等の5区分を設定。一人当たり医療費については、NDB(ナショナル・データ・ベース)を基に、この区分に応じて設定されるという。この考え方は病床数ではなく、患者需要から医療費を推計していこうとするスキーム。更に、前出・同基本方針2015の中で、「医療費適正化計画の進捗状況等を踏まえた高齢者医療確保法第14条の診療報酬の特例の在り方の検討」が明記されているが、同法第14条「診療報酬の特例」とは、「一つの都道府県の区域内における診療報酬について(中略)異なる定めをする」というもの(資料B)。

(資料B)「高齢者の医療の確保に関する法律」(昭和57年8月17日・法律第80号
――最終改正・平成28年11月24日・法律第84号)
〔診療報酬の特例〕第14条

1・厚生労働大臣は、第十二条第三項の評価の結果、第八条第四項第二号及び各都道府県における第九条第三項第二号の目標を達成し、医療費適正化を推進するために必要があると認める時は、一の都道府県の区域内における診療報酬について、地域の実情を踏まえつつ、適切な医療を各都道府県間において公平に提供する観点から見て、合理的であると認められる範囲内において、他の都道府県の区域内における診療報酬と異なる定めをすることが出来る。

2・厚生労働大臣は、前項の定めをするに当たっては、あらかじめ、関係都道府県知事に協議するものとする。

 これは、近い将来、「地域別」で「独自の診療報酬を導入する」との意味。事情通の元官僚は、「同基本方針2015には財務省の考え方が色濃く反映されているが、厚生労働省は各都道府県の数値目標達成のハードルが高いことを分かっており、目標達成をさほど重要視していない。同構想は寧ろ、地域別診療報酬を作るためのツールとしての意味合いが強い」と大胆に推測する。官僚の考える同構想の着地点は、数値目標達成とは別の次元にあるとの見方だ。さて、国の考える同構想と、「かかりつけ医」政策のホンネの部分に言及してきたが、何れも多くの医療機関や患者にとって有益な制度とは言い難い。

 例えば、最初に述べたような形の「かかりつけ医」制度が定着すると、地域で長らく開業し、一定の患者がついている診療所が圧倒的に有利な筈だ。新規開業した若いドクターには、すぐに安定した登録患者数を確保するのは、とても無理な話。そのため、人口増が期待出来ない地方では、意欲ある若手ドクターが「かかりつけ医」マーケットに新規参入するのは容易ではない。要するに、民間医療機関の「医療の質」に基づく健全な競争が、阻害されることが一番、危惧される問題と言える。勿論、患者には「医療機関選択の自由」は担保されているのだが、国のモノサシに合わない医療機関の受診に梯子を高くするのは、如何なものかと思う。

 同構想に関しては、前出4つの病床区分の適正値が決められ、構想区域内で適正値(病床)をオーバーした医療機能には転換出来ない。つまり、これは構想区域内の“椅子取りゲーム”であり、目指す病床転換が成功した病院は既得権を得ることが出来る。既得権を得た病院は当該病床は増えないから、競争環境にはさらされず当該病院の「医療の質」と関係なく、一定の入院患者が確保可能な構造が自然と作られていく。

 また、厚生労働省の「地域医療構想ガイドライン」には、「基本的に高度急性期を除く、急性期、回復期及び慢性期の病床区分については、出来るだけ構想区域内で対応する」と明記されている。これは、「高度急性期病院に関して、患者は構想区域外の病院を自由に選択して構わないが、他の3つの病床区分に関しては、区域内での受診が原則」と理解出来る。要するに、患者は今後、「構想区域外の“より質の高い”病院への入院が認められない可能性」も想定されるのだ。それで何が起こるのかと言うと、ある病院関係者は、「構想区域が設定されたことで、従来の病院の医療圏が“分断”される危険性が出てくる。中小病院であっても他にはない特徴や“強み”があり、他県からも患者が集まる医療圏の広い病院には、影響が大きいと思う。これは、医療機関、患者双方に由々しき事態」と指摘する。ただ、構想区域外の医療機関の受診に関して、その対応は各都道府県の同構想調整会議での議論によって、まちまちであるようだ。それは、各都道府県が構想区域の「患者の流出入」をどのように捉えているのかによっても大きく異なり、今後の各地域の展開を注視していきたいと思う。