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新オレンジプランと認知症ケアのこれから 〜医療機関の実践例を中心に


医療ジャーナリスト:冨井 淑夫

財務省の視点を欠いた国家戦略

 国の推計によると、団塊の世代が全て後期高齢者(75歳以上)になる2025年には、2012年時点では約462万人だった認知症の人の数は約730万人となり、高齢者の5人に1人という認知症社会が到来する。近年、日本でもようやく認知症と共に生きる人々の声を聞くようになり、2012年6月18日には厚生労働省認知症施策検討プロジェクトが今後の認知症施策「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」を策定。「これまでの認知症への誤った理解と対応を反省し、正しい理解とより良いケアと医療の提供に努め、本人の意思の尊重と住み慣れた地域で暮らしていける社会を目指す」との考え方を示した。
 3年後の2015年1月27日に決定された「認知症施策推進総合戦略」(新オレンジプラン)は、この考え方を更に発展・深化させたものであり、“認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて”とのサブタイトルが付けられている。
 従来のオレンジプランと新オレンジプランとの大きな違いは、従来のプランが厚生労働省単独で策定されていたのに対して、新プランは厚生労働省に加えて11の関係省庁が参加し、省庁横断的に12省庁の協力により作られたこと。医療・福祉ビジネスの観点からは、10年後には約730万人、35年後の2050年には1000万人を超えるとされる巨大なマーケットになる。各省庁間の利害の調整には苦労したと思われるが、よく意見が一つに集約されたものだと驚く。初めて国家戦略としての位置づけを実現した安倍内閣の行動力には驚かされるし、そのマインドは高く評価できる。しかし残念なことに、12省庁の中にはなぜか財務省が入っていない。実際に2017年度末までの認知症サポーターの数、「かかりつけ医」認知症対応力向上研修・サポート医養成研修等の目標値は明確に打ち出されてはいるものの、具体的な財源については全く示されていない。これでは実現性の根拠に乏しく、国家戦略としての本気度が問われることになる。
 ただ財務省が関与した場合、具体的な運用の段になり、コスト面の締め付けが厳しくなることが予想される。予算主導では策定する認知症施策の内容が制限される可能性もあり、国民へのアピールのために大胆な総合戦略を打ち出したい政府には、財務省の参加がマイナスに働くとの政治的判断があったことも推測される。

医療機関主導で認知症の人・家族を支える地域づくり

 新オレンジプランには7本の柱が打ち出されているが、今回、最も重要な柱は7番目の「認知症の人やその家族の視点の重視」と思われる。政府には1から6までの柱に対して、7番目の柱を横串で突き刺す、要するに7番目の考え方を全てに貫徹していこうとの意図がある。7番目の「本人と家族の視点」とは言い換えると、地域社会全体で認知症の人や家族を支えていく仕組みづくり。認知症に関する国民の理解が進み、新オレンジプランで目標値が示された認知症サポーターの養成や認知症カフェの整備、更には2025年までに激増する認知症の人を支える適切な医療・介護の仕組みを、具体的にどのように構築していくのかが重要になる。そして実際に、地域社会で「認知症の人を支える」文化を根付かせるカギを握るのは、公共性の高い地域密着型の医療機関の存在だ。そこには認知症疾患センター等の精神科専門医だけでなく、認知症サポート医等の「かかりつけ医」も含まれる。独居の認知症高齢者をコミュニティ全体で支えていくのは、地域包括ケア・システムの考え方とも通底するのだが、全国各地で民間医療機関が先導し、地域の様々な社会資源、多職種と連携しながら認知症ケアへの支援を実践する動きが現れている。筆者が昨年から一昨年にかけて取材した幾つかの事例を紹介する。