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崖っぷちからの病院経営改革
〜事務部門の組織改革とBSC導入で苦境からの脱出


太田 憲吾先生
(聞き手:医療ジャーナリスト:冨井 淑夫)

 地方都市の公立A病院(約300床)は地域の基幹病院として、2007年には約70億円の医業収入があったものの、約11億4700万円の赤字を計上し、内部留保資金は15億円しかなく、何の手立てもしなければ2年間で資金ショートという瀬戸際の状況に追い込まれていた。翌08年4月から非常勤嘱託顧問に就任した太田憲吾先生は、病院長との二人三脚で経営改革に取り組み、組織風土改革やBSC(バランスト・スコアカード)等の導入、様々な収支改善策によって慢性的な赤字体質から脱却。2012年度から黒字経営に転換し、短期間で経営改善を成し遂げることが出来た。太田先生に経営改革の要諦について話を聞いた。

地域医療存続のため失敗の許されない状況下
背水の陣で経営改善に取り組む

―― 2007年当時のA病院を取り巻く環境から、お話を頂けますか?

太田:  A病院は人口約30万人の診療圏で唯一の公立病院であり、24時間救急医療体制を担う中核病院として地域にはなくてはならない存在でした。地方都市共通の問題として高齢化・人口減少による過疎化が進行し、周辺に在る中小民間病院の経営も悪化しており、医療供給体制は十全とは言えない状況でした。高度急性期医療を担うA病院が経営破たんすると、地域医療全体の崩壊を招きかねない。地域住民の命と健康を守る「最後の砦」が消滅すると、自治体そのものの存続を危うくします。失敗の許されない状況下で、背水の陣で経営改善に取り組むことになったのです。
 私自身は前職で公立病院の事務局長として経営改革を推進し、病院退職後も全国40施設の公的・私的病院を実地訪問調査した体験から、自治体病院と先進医療法人病院をベンチマークにより比較できるデータを集積し、両者の課題(図表1)をある程度、理解しているつもりでした。一般的に“親方日の丸体質”による甘えの構造と、事務局機能の弱体化は公立病院共通の問題であり、A病院のケースも組織改革が最優先課題と考えていました。

(図表1)自治体病院と先進医療法人病院の比較

―― どのようなプロセスで改革を進められたのですか?

太田:  分かり易いように、経営改革を①診察(ヒアリング・現場確認)②検査(職員意識分析調査)③診断(弱点の確定)④治療(改善策の提案・実行)――の4段階に分けて、ご説明しましょう。①診察に関しては、私は病院長にお願いして「全ての会議に参加出来ること・全ての委員会に出席出来ること・全ての部署に入れること」をお願いし、それをトップの全権事項として全部署に通達・周知してもらうことからスタートしました。
 最初に副院長、総看護師長、事務局長らのマネジメント・メンバーや事務局職員、各科部長、組合幹部、委託会社に個別ヒアリングを行いました。更に全診療科を回って医療現場の状況を、つぶさに検証しました。各部門の末端職員にまで話を聴き、現状把握と確認に努めて、現状を“見える化”していきました。次のステップの②検査で、外部の信頼できる専門業者を使って全病院職員の意識調査を実施したところ、組織の抱える病巣が明らかになってきたのです。