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病院経営の新機軸:サテライト・クリニックの新しい潮流

病院のクリニック開設目的は多様 精神科では「機能分化と連携」の動き

 “サテライト”を日本語に訳すると「衛星」を意味するが、病院が経営母体となって運営されるサテライト・クリニックが、「日本でどれ位の数、存在するのか?」に関しては、きちんと調査された公的なデータがあるわけではない。病院とは別法人で運営されている施設もあるし、個人経営であっても大学病院や有名病院のサテライトを標榜する診療所も存在し、実態は非常に把握し難い。病院機能評価事業のサーベイヤーを務めた某民間病院事務長に聞くと、「これまで審査した医療法人病院の約10〜15%位は、何らかの形で系列の診療所を運営していた」と話す。筆者が過去10年間に取材した病院を探索しても、1割程。 母体である病院との連携関係に関しても各々の施設で温度差があり、同一法人であっても病院とは“自主独立”で運営されているケースもある。理事長の親族に医師が多い場合に、“のれん分け”のような形で、院長ポストを作ることを目的に診療所を立ち上げるケースもあって、サテライト・クリニックを開設する病院経営者の目的は、正に“千差万別”だ。
 ただ経営の多角化に積極的な医療法人は、1診療所に留まらず、病院周辺に機能の異なる複数の診療所を配備しているケースも目に付く。
 筆者が医療施設の取材の仕事をスタートした1980年代の半ば頃には、東京や大阪、名古屋等の大都市郊外に在る医療法人病院が、病院とは少し離れた交通の便が良い立地に内科系診療所を開設。病院と自己完結型ネットワークを形成して、マーケットを拡げようという試みが見られた。当時は現在のように病診連携が余り進んでおらず、診療所からの紹介患者を増加させるために、そうした手法を取る医療法人病院が少なからず存在した。
 その後、病診連携の進展に伴って、集患目的で診療所を開設する動きは、徐々に減少傾向で推移してきた。専門領域ごとに検証すると、都市部等では透析医療に注力する病院が周辺地域に透析クリニックを複数開設して、シェアの拡大を目指すのは、よく見られた光景だ。
 最近の動向として目立つのは、精神科の病院が外来部門を独立させ、診療内科やメンタル・クリニック、その他、精神科デイケア、訪問看護等を提供する診療所を開設するケース。日本の精神保健医療は2004年の『改革ビジョン』により、厚生労働省より10年間で7万床の病床を削減する目標設定が打ち出された。精神科はシェアの拡大よりも、政策誘導による「退院促進」、「社会復帰」、「機能分化と連携」への流れが、こうしたトレンドを作り出してきたと言えるだろう。病院は医療依存度の高い入院患者をメーンとし、外来クリニックとの「連携」によって、患者の早期社会復帰・在宅支援に注力していこうとする動きだ。同時に医療機関側にとっては、高度化・複雑化する現代社会において、精神科保健医療の多様化を背景に、機能別に専門分化したクリニックで対応した方が、個々の患者に適切な治療やケアが提供出来るとの判断もあるようだ。
 1990年代の後半から2000年代の中頃まで、地域中核病院が外来部門を廃止し、近隣に外来専門クリニックを開設するのが、一つのトレンドとなった時期があった。一部の医療関係者から、“患者の囲い込み”批判を浴びた、「門前クリニック」と総称された施設。当時は高度急性期病院としての位置づけを確立するには、「急性期入院加算」、「急性期特定入院加算」といった入院基本料の加算届出が必要条件と考えられたことから、これら加算の算定要件である「患者紹介率」向上に向けて、門前クリニックを立ち上げた施設が目立った。
 加えて当時は再診料が病院に比べて、診療所の方が高く設定されていた時代。病院で外来診療を行うよりも、診療所で提供するほうが断然、外来報酬の増収が期待出来るのであれば、「外来分離」へのインセンティブが高まるのは当然と言えるだろう。
 しかし2006年の診療報酬改定で「急性期入院加算」、「急性期特定入院加算」、「紹介患者加算」等が廃止され、診療報酬における「患者紹介率」の概念が形骸化。更に2010年診療報酬改定では、病院(200床未満)と診療所の再診料の点数が69点に統一された。
 これら診療報酬制度の改変によって、経済的インセンティブが低下したことにより、病院の外来分離の動きは鎮静化。その一方で「逆転の発想」と言うべきか、病院の中にはサテライト・クリニックを新規事業として捉え、明確なポリシーの基に、従来の病院にはなかった特殊な機能や役割を担う、専門医療施設として立ち上げる動きも現れ始めた。
 そうした新機軸としてのサテライト・クリニックの胎動を、次に紹介していきたい。

83(12.11.16)