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[インタビュー]新時代の患者満足度経営とサービス・マーケティング

芦屋大学ビジネス研究センター 磯和 由佳先生
(聞き手:医療ジャーナリスト:冨井 淑夫)

病医院・従業員・患者三者の相互関係をベースにしたサービス・マーケティングの考え方

  Kotler(1996)によりますと、一般的にサービス業は製造業と比較してマーケティングの分野では遅れを取っており、特に病院等では永年に亘って需要が供給を上回る状況が続いてきたため、近年まではマーケティングの必要性が無かったとも捉えられてきました。
 ただ昨今の医療費抑制策による病院経営の厳しさ、医師・看護師等医療従事者の離職、モンスター・ペーシャントとも形容されるような、声高に権利を主張する患者の増加等により、医療を取り巻く環境は大きく変化を遂げつつあります。
 サービス・マーケティングには製品・立地・販売促進・価格等の伝統的なマーケティング手法である「エクスターナル・マーケティング」だけでは不十分と考えられ、さらに従業員と企業間の相互関係に係わる「インターナル・マーケティング」、そして顧客と従業員間の相互関係に係わる「インタラクティブ・マーケティング」を加えた三つが不可欠とされています。医療機関の特性を踏まえた上で、病医院・従業員・患者の三者の相互関係をベースにした、サービス・マーケティングの展開について、この分野の専門家である芦屋大学ビジネス研究センターの磯和由佳先生にお話を聞きました。

機能分化の進展による患者の「選別」が良好な医師・患者関係を阻害するファクターに

─ 医療機関のマーケティングを考える場合に、一般のサービス業とは異なる特殊性として、医療サービスが制度に縛られて、自由に展開出来ないという部分がありますね。

 企業と顧客の関係を医療に置き換えますと、病医院と患者の関係になります。サービス業では顧客との長期的な関係を取り結ぶことが利益につながると考えられていますが、当該医療機関に相応しくない患者に対しては「来てもらうと困る」という、マーケティングとは逆のインセンティブが働く場合が出てきます。例えば高度急性期病院に長期療養を必要とする慢性期高齢患者が入院するのは、なるたけ避けなければならないという病院側の事情があります。診療報酬における逓減措置等、制度上でも病院側が逆に不利益を蒙るという事態が起こるケースも出てきます。全ての患者との長期的な関係が形成される程、収益が向上するかと言うと、決してそうではない一面もある訳です。

─ 確かに医療施設の機能分化の進展により、医療機関側は患者を「選別」することが求められるようになってきました。厚生労働省も特定療養費制度等でフリーアクセスへの障壁を作りましたが、そのことが良好な医師・患者関係を阻害するファクターにもなっているのかもしれませんね。例えば国民の不満が高まり廃止される予定の「後期高齢者医療制度」を巡る議論も、同様の問題をはらんでいるとも言えます。

 患者側は医療制度の詳細に関しては理解されていないことも多く、病院機能とマッチしない患者が頻繁に来院された場合に、病院側が拒否反応を示すことによって、患者側の不満足が募っていくという悪循環が起り得るのです。医療機関で提供される診療行為は、昔と比較すると相当様変わりしていますので、高齢患者等、昔の医療に馴染んできた方々には、不満足を感じる場面が増えてきたことが懸念されますね。
 実際にクリティカル・パスは現在では、殆どの急性期病院で導入されている経営手法ですが、パスに則った診療計画は確かに効率的であり、医療の標準化には大きく貢献しますが、患者側にすると「早期退院」を押し付けられているようにも受け取られかねない。
 システム化や効率化が急速に推し進められた反面、サービスの画一化や標準化による弊害も指摘されています。患者の個別ニーズに対応するために、臨床現場において今一度、医療従事者個別の自由な判断と裁量権の重要性を、見直すべきだと感じます。
 もちろん人的サービスに関わる医師や看護師との良好な関係が、既存顧客の維持に必要なことは言うまでもありません。行きつけの病院に通っていることのメリットを感じるようになると、病院を変えることに躊躇するようにもなります。